ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson Sheril Crow Signature Model

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Gibson Sheril Crow Signature Model
青森県にお住まいのT.F.さんからMartin HD-28VYAMAHA LL-25ES、Gibson Sheril Crow Signature Modelのリペアご依頼をいただきました。Gibson Sheril Crow Signature Modelはフレット交換、ブリッジプレート・リペア、弦周りのTUSQ化を行いました。
リペア後のギターを受け取られて、T.F.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

樋口さんへ

今日ギターを受け取りました。
さっそく弾いてみました。その感想を簡単にお伝えします。

・Martin HD-28V

リペアすることを前提に中古で安く手に入れたギターです。
チューニングしても弦の張りが緩い感じがして、
音が響かない状態で、長い間たまにしか弾かなかったギターです。
リペア後は、張りのある音になり、弦が互いに響き合っている感じがして、とても気持ちよく弾くことができます。
ああ本当はこういう音だったんだと、嬉しくなりました。

・YAMAHA LL-25ES

ブランクの後、またギターを弾きながら歌いたくなって
30歳を過ぎて購入したギターです。
いい音で気に入っていたのですが、ピックアップの部品が取れかかって、
リペアに出したら、どういうわけか鳴らなくなってしまったのです。
それにエレアコなのにピンジャックのサイズが小さめで使いづらく、
最近は状態も悪くなって弾きづらくなり、使う機会が減っていました。
リペア後は購入時の音を取り戻し、5~9フレットの詰まった音も改善されました。
ピックアップを交換して、ギターそのままの音がアンプから出てきて、
とても驚きました。今後は使う機会が増えると思います。

・Gibson Sheril Crow Signature Model

これもマーチンと一緒に中古で購入したギターです。
1弦をプリングオフするとフレットから弦がずり落ちるのと、
強く弾くと1・2弦にビビリが出るのが気になっていました。
ただ、音が気に入っていたので、このギターばかり弾いていました。
でも、リペアされてきたギターを弾いて本当に驚きました。
自分の想像をはるかに超えて、素晴らしい音になっていました。
コードを弾くと、うまく言えませんが、音がドーンと前に飛びだしていく感じ。
もちろん指で弾くと、柔らかく繊細な音が響きます。
問題も改善されて、大変満足しています。
このギブソンが私の1番のお気に入りになりました。

私は、来年の3月で定年退職です。
結構な費用がかかるので少し迷ったのですが、
どうせなら、いい状態のギターで趣味の弾き語りを続けたいと思い、
かねてからホームページをチェックしていた樋口さんにリペアをお願いしました。
私はギターの演奏はうまくないのですが、ギターを抱えて弾き語りをしている時、自分の体を通してギターの振動が伝わってくるのが好きです。

青森はこれから寒い季節に向かいます。
雪が積もると、もう一つの趣味の庭造りは一休みです。
その間、お気に入りのギターをとっかえひっかえして大声で歌い、
健康を維持していこうと思っています。
この度は、本当にありがとうございました。

T.F.

T.F.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア前の試奏では突出した特徴を感じることはありませんでしたが、リペア後は3本のギターがそれぞれの個性的な音色を奏でてくれるようになりました。

Martin HD-28Vはネックリセットによって演奏性は向上したことは勿論ですが、ネックとボディの接合状態が改善されてギター全体が弦の振動を大きく響かせてくれるようになりました。
特に高音域の鈴鳴りと低音域の爆音、そしてヘッド部まで振動する箱鳴りが突出するようになりました。

YAMAHA LL-25ESはネック元起き状態が顕著でしたので演奏性が突出して向上して、とても弾きやすいギターになりました。また、YAMAHAギター特有の中音域から高音域への透明感の高い音色とともにこちらもネックとボディ一体化向上による箱鳴りが特徴的になりました。

Gibson Sheril Crow Signature Modelは軽快な音色と箱鳴り感の融和による、とても心地よい音色を奏でてくれるようになりました。

今回、3本のギターをトータルリペアさせていただいて、どのギターもその個性を発揮できるようになり、同じ曲を演奏しても曲の表情が特徴的である事を強く感じた次第です。
このような貴重な経験を与えていただいたことにとても感謝しております。
これからも蘇ったギター達が第2の青春を謳歌するT.F.さんの傍らで活躍し続けることをお祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットを抜き取った後のフィンガーボードです。特有のバインディング形状でフレット幅が狭くなっているので山は取り除きます。
8.バインディングの山を取り除きました。

9.フレットプレスの準備が整いました。
10.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

11.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
12.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

13.タングニッパでタング部をカットします。
14.タング部処理を終えたフレット端です。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.ハンドルを回してフレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


31.整形されたフレット端です。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらにスチールウールで研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。

ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

プラグを切り出している様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.アクリル板を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて取り外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。