ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

CatsEye

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兵庫県にお住まいのY.H.さんからCatsEyeのリペアご依頼をいただき、フレット交換、ブリッジプレート・リペア、弦周りのTUSQ化、ピックアップ交換を行いました。このギターは約14年前にリペアをさせていただきましたが、今回は弦周りを中心のトータルリペアを行いました。
リペアご依頼をいただく前にY.H.さんから次のようなメッセージをいただいておりました。

樋口様

お忙しいなか、お時間を割いていただき、ありがとうございました。
また、早速にお見積もりをお送りくださいまして、重ねてお礼申し上げます。
このギターは、樋口さんに2回もお世話になっています。
初回は、ナット、サドルの交換とネック調整、ブリッジの穴埋め。
2回目は、糸巻きの交換。
その後、見様見真似でピックアップを自分で取り付け、永く愛用してきました。
実は、ピックアップなしである程度の予算と考えておりました。
最近はギターも安くなってきましたので、新しいのを買った方がいいのかも知れないとも考えてしまいました。
同じ程度の予算でこのギターと同じポテンシャルが出るのかどうかわからない、のが悩ましいところです。木材の材質なども昔とは変わってきていますしね。
樋口さんはどう思われますか?

ご教示いただけましたら、幸いです。

このメッセージに対して私は次のように返信させていただきました。

Y.H.さんのギターの部材と同等のものは、おそらく現状では見つからないのではないかと思います。
ギターの音色に関しましても、新しいギターでは同等の深みを出すようになるまでには多くの年月が必要になると思います。
(新しく購入したギターにご満足されず、また新しいギターを・・・という連鎖が始まるような気もします)

ギターリペアマンとしてではなく、ギター演奏愛好家としてなのですが・・・
私も中学生の時から使っていたYAMAKIのギターを持っており、長いつきあいになるため良い面と悪い面がよくわかるようになって、楽器屋さんに行くと、他のギターに目移りすることが幾度となくありました。
良いギターだなぁ、と思って買おうと思ったときに考えるのが
「もし、このギターが家に来たときに、あのYAMAKIはどうなるんだろうか?」ということでした。
誰かに譲る?売り飛ばす?それとも家の中で保管?
などといろいろ考えましたが、想い出がいっぱい詰まったYAMAKIギターをどう考えても手放すことは出来ない、という結論に至りました。
今も私の宝物です。

リペアマンとして分析用に購入したギターは数本あり、ライブ等でも使用したことがありますが、それらは全て売却し、今はYAMAKIと自作のギターのみを使っています。

ご参考になれば幸いですが、引き続きご検討のほど、よろしくお願いいたします。

そしてY.H.さんから次のリペアご依頼メッセージをいただきました。

樋口様

   お忙しい中、早速にご返事を頂戴し、ありがとうございました。
   結論から申し上げますと、ご提案どおりリペアをお願いいたします。
   お恥ずかしい話ですが、60歳近くになってもなお、子供のように新しいおもちゃを欲しがる自分がいるのです。
   三宮や梅田の楽器店に行くと魅力的なギターが並んでおり、「買ってくれ~。」と私に甘くささやく声が聞こえる時があります。
   「何本ものギターを家に蓄えても、お気に入りでいつも弾くのは限られているだろうな。」と考えて、今まで浮気せず、想い出の詰まったこの1本を愛用してきました。
   超高級なもの以外なら衝動で買ってしまいそうになりますので、最近はアコギ売り場に近づいていません。

   樋口さんがおっしゃるとおり、新しいものに目移りするよりも、慣れ親しんだギターを定年後の相棒としてこれからも大切に使っていきたいと思います。
   ご教示いただき、迷いが吹っ切れました。
   繰り返しになりますが、リペアをよろしくお願いいたします。
   ありがとうございました。

リペア後のギターを受け取られて、とても暖かいメッセージをいただきました。

樋口様

本日はありがとうございました。コロナウイルスのため、ご挨拶もそこそこに失礼し、申し訳ありません。
ギターが弾き辛くなったのは、ネックがそって弦高が高くなったからだと思っていました。
フィンガーボードのへこみが原因だったのですね。よくもこれだけすり減ったものだと、自分でも驚いています。
自宅に戻ってさっそく弾いてみました。演奏性能が格段に改善され、弾き辛さが解消されていました。
やはり樋口さんにお願いして良かったです。14年前にリペアしていただいた時と同じで、丁寧に仕上げていただきありがとうございます。
このギターとは40年を超える付き合いになりました。今回、付けかえていただいた新しいピックアップも楽しみです。これからも大事にしていきたいと思います。

Y.H.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

今回は弦周りのトータルリペアを行わせていただき、仰るとおり演奏性の向上を図ることができました。
ご返却前にリペア後のギターを試奏させていただいている間、「これからも現役!」というオーラを強く感じました。
これからも蘇ったCatsEyeギターとともに末永くギターライフをお送りください。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

フレット交換

1.リペア前のフィンガーボードです。
2.ディボットが見られますのでフレット交換の工程の中で埋木しましょう。

3.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
4.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


5.フィンガーボードの平面性を確認します。
6.軽くサンディングします。

7.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
8.フィンガーボードをクリーニングします。

9.ディボット部分にエボニーペーストをのせました。
10.ペーストが固着したところでフィンガーボードのアールにあったサンディングブロックでペーストをサンディングします。

11.サンディング後のフィンガーボードです。
12.広範囲に見られたディボットを埋木出来ました。

13.フレットプレスの準備が整いました。
14.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

15.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
16.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

17.タングニッパでタング部をカットします。
18.タング部処理を終えたフレット端です。

19.第一のフレットプレス・ジグです。
20.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

21.ジグをサウンドホールから入れていきます。
22.ハンドルを回してフレットをプレスします。

23.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
24.2つ目のジグはこのように固定します。

25.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
26.順にプレスを進めていきます。

27.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
28.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


29.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
30.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

31.カットしたフレット端です。
32.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

33.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
34.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


35.整形されたフレット端です。
36.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

37.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
38.ボディもアクリル板でカバーしました。

39.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
40.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

41.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
42.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

43.さらにスチールウールで研磨を進めます。
44.最後はコンパウンドで磨き上げます。

45.プロテクタ類を外しましょう。
46.ピカピカのフレットになりました。

47.リフレット後のフィンガーボードです。
48.ディボットはなくなりました。

ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.ローズウッド材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

プラグを切り出している様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.アクリル板を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて取り外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。

ピックアップ交換

1.リペア前のピックアップです。
2.L.R.Baggs社製のAnthemに交換します。

3.このシステムはコンデンサマイクとアンダーサドルのピエゾをミックスします。
4.ピエゾ素子を取り付けています。

5.コンデンサマイクはブリッジプレートに取り付けました。
6.サウンドホール際にプリアンプ・ブロックを取り付けました。

7.バッテリー取り付けも終えました。
8.動作確認を終えて交換を完了しました。