ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-45

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大阪府にお住まいのH.H.さんからS.Yairi YD-304YAMAKI No.2100、Martin D-45、Gibson SJ-300のリペアご依頼をいただきました。Martin D-45はネックリセット、ブリッジ脱着を含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターをお引き取りにお越しになったH.H.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

この度は本当にお世話になり、ありがとうございました。
リペアして頂いたギターを、心ゆくまで堪能しました。

4本全てに思ったことは、とても弾きやすくなったことと、確実に音量が増していました。それもただボリュームが大きいだけではなく、各弦の音がバランス良くクリアーになっています。ハイポジションでのピッチも完璧で弾いていて気持ち良く感じました。
ボディの共鳴も驚くほどで、身体にビンビンと伝わってきます。ネックを握る左手にも、しっかりと振動が伝わってきます。特にサスティーンの変化は驚くばかりで、力強い低音からクリアな高音まで、素晴らしく鳴っています。これはTUSQの効果なのでしょうか。

S・YAIRI YD304 は、ベールを取ったようにブライトで張りのある音が前面に出て、リペア前とは別物のギターになっていました。

YAMAKI 2100 は、12弦ギターではありながら、リペア前は響きも悪く、弦鳴り感が否めませんでした。でもリペア後はボディ全体が共鳴し、まさに箱鳴り状態に変化していました。音の響きも凄く良くなって、低音から高音まで見事に響き合っています。

MARTIN D-45 は、ネックリセットして頂いた効果なのか、ボディからネックまで全体で音を奏でているように思います。倍音も豊かになりました。低音はしっかりと前に出て、高音はこれぞ鈴鳴りと思える音で、言葉にならないくらい大満足しています。

GIBSON SJ-300 は、少し太めのネックながら弦高を下げて頂いたおかげで、凄く弾きやすくなっていました。音もMARTINとはまた違う迫力のある音で、太い低音と繊細な高音の両方を持ち合わせていて、まさにスーパージャンボなギターに生まれ変わりました。

仕事を終えて帰宅してから、食事も忘れてそれぞれのギターを弾いたり眺めたり…、 気がつけば6時間も経っていました。4本とも個性が明確になり、これからは、その日の気分や曲に合わせたギターを選ぶことが楽しみになりそうです。

いろんな方々のコメントを見させて頂いて、期待に胸を膨らませておりましたが、期待を遙かに上回る仕上がりに心から樋口様に感謝しております。
これからも更なるご活躍を祈っております。本当にありがとうございました。

H.H.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

今回リペアさせていただいたギターは、いずれもリペア前「演奏し続けるにはストレスがある」状態でしたが、音響特性、演奏性共に「いつまでも弾き続けられる」状態のギターになったと思います。
特に弦の振動をギターに伝達する部分にTUSQ素材を使用することで「箱鳴り感」「サステイン」は格段に向上して、 「潜在能力の限界」を発揮できるようになりました。

同じギターでありながら全く異なる個性を持った「楽器」をご返却前の試奏を思い切り堪能させていただきました。
とても貴重な機会をいただけたことに心から感謝しております。

高校時代のご友人とのサークル「部活」で今回蘇ったギター達が活躍することをお祈りしております。
くれぐれも健康にはご留意され、末永くギターライフを過ごされてください。
またH.H.さんのギターをリペアさせていただく時を楽しみにしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。


ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

フィンガーボード分離の様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

15.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
16.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。


ブリッジ脱着

1.オリジナルブリッジです。
2.少し浮いており、サウンドホール側に引きずられた跡が見られますので脱着を行います。

3.ブリッジの大きさに合うラバーヒーターを準備しました。
4.ヒーターをクランプします。

5.温度をモニタしながら徐々に温度を上げていき、接着面が緩むまで待ちます。
6.接着面にナイフを挿入していきます。

7.少しずつナイフを進めていきます。
8.ブリッジが外れました。

ブリッジを取り外している様子です。


9.接着面をクリーニングします。
10.ブリッジ際をタッチアップします。

11.ブリッジ接着面もクリーニングします。
12.再接着の準備が整いました。

13.湯煎したニカワを接着面に塗ります。
14.全体に薄く塗っていきます。

15.そっとブリッジを乗せます。
16.クランプしました。

ブリッジを再接着している様子です。


17.クランプで溢れたニカワを拭き取っていきます。
18.マスキングテープを剥がします。

19.このまま固着を待ちます。
20.ブリッジ際のズレ跡はほとんど目立たなくなりました。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにローズウッド片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.タングニッパでフレット端の加工を行います。
16.タング部のカットされたフレット端です。

17.第一のフレットプレス・ジグです。
18.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

19.ジグをサウンドホールから入れていきます。
20.ハンドルを回してフレットをプレスします。

21.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
22.2つ目のジグはこのように固定します。

23.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
24.順にプレスを進めていきます。

25.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
26.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


27.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
28.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

29.カットしたフレット端です。
30.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

31.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
32.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


33.整形されたフレット端です。
34.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

35.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
36.ボディもアクリル板でカバーしました。

37.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
38.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

39.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
40.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

41.さらにスチール・ウールで研磨を進めます。
42.最後はコンパウンドで磨き上げます。

43.プロテクタ類を外しましょう。
44.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナット溝が深いのでルーターによる切削除去を行います。

3. ドレメルルーターにジグを取り付けました。
4.ストレートビットを使用します。

5. マスキングテープで周囲を保護しました。
6.ルーターでなぞりながら溝を少しずつ深く掘っていきます。

7. 数回のパスを経たナットです。もう少し深く削りましょう。
8.横から見たナットです。

9. ギリギリまで深く掘りました。
10.あとはナットを割って取り外します。

ルーターによるナット取り外しの様子です。


11. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
12.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

13.クリーニング完了したナット溝です。
14.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

15.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
16.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

17.1弦側からもナットの密着を確認します。
18.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

19.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
20.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

21.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
22.ナット上部を切り取りました。

23.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
24.ナットらしくなってきました。

25.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。
26.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

27.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
28.弦高調整前のナットです。

29.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
30.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

31.ナット高調整前の弦溝です。
32.弦高調整後のナット弦溝です。

33.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
34.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。