ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-19

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栃木県にお住まいのH.M.さんからMartin OOO-28ECとMartin D-19、Martin D-35SBのリペアご依頼をいただきました。Martin D-19はフレット交換、ピックガード交換、および弦周りのTUSQ化を行いました。
リペア後のギターを受け取られて、暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ
樋口様

御返事遅くなりました。
ギター、2台、無事到着です。
ありがとうございました。
つい先程まで、ずっと弾いておりました。
ありがとうございます。

簡単ではありますが、感想をお書きしたいと思いますが、本当は、一日おいて、少し冷静になってからが良いかとも思いますが(笑)取り敢えず、お礼も兼ねさて下さい。

000-28EC
チューニングして、弾き始めてすぐに、お・お・お・お・お・音デカ!!!!!びっくりしました。
ヒール浮き・バックのブレイシング剥がれによって、十分に響いていなかったのですね。音が小さく感じるのは、000サイズのためと思っていましたが、とんでもなかったです。ドレッドノートに負けてないです。うるさいくらいに鳴っています。
バックボードが、お腹に響いてきます。
しかも、反応が早いです。音の芯がしっかりありながらサスティーンも伸びていると感じました。
今回、D-19も修理に出したので、良く解かりますが、ローズウッドの素材の音の良さが、際立ってきました。
やや硬質ですが(マホと比べると)ブライトな感じがよく解かります。接着面が安定し来ると更に良く鳴りそうな伸び代も感じます。弾き込んで行く楽しみが増えました。
以前感じていた、違和感は全てなくなっていました。
ハイフレットでの弾きやすさも改善しておりました。
ありがとうございました。

D-19
ビリつきは、嘘のように消えておりました。ピッキングでもフィンガーでも、全く感じませんでした。弦周りのTUSQ化のお陰でしょうか?反応の鈍さがなくなり、音が飛び出してくるようです。
マホ素材の良さ、特に柔らかい(ローズウッドに比べて)出音にも関わらず、芯がしっかりしており、反応が早いと感じました。
此方は、1970年代製と言う事もあり、十分に枯れ始まっており、これからが美味しい所が味わえそうな楽しみなギターに仕上がったと思います。自分が思っているマーチンらしさ(音のイメージ)が良く出ていると感じました。
ピックガードを変えたら、印象も変わり、新しいギターを購入した様な、ちょっと得した気分です。
ありがとうございました。

取り敢えず、ご返事と御礼まで。
ありがとうございました。

H.M.

H.M.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

両ギター共にリペア前の試奏では「独り言をボソボソつぶやくような寂しい音色」でしたが、Martin OOO-28EC、D-19共に潜在能力を十二分に発揮するべく、激変のリペアを行うことが出来ました。

OOO-28ECはネックリセットによるボディ・ネック接合性改善と、バックボードブレイシング補修によってギター全体のポテンシャルを大きく向上できた上で、弦との接触部分である、フレット、ナット、サドル、ブリッジピンを最適化することで弦振動がギター全体と共鳴するようになりました。

D-19はフレット交換することで音詰まり、ビビリ音が解消され、その上で弦周りパーツをTUSQ化することで、こちらも本来のマホガニボディの音色を十二分に発揮できるようになりました。

両ギターともあるべき姿でオーナー様の元で活躍されることと思います。
今回、ご依頼いただきました3本目のギター、Martin D-35SBも大規模リペアとなりますが、ご期待にお応えできるよう、入魂させていただきたいと思っております。
引き続きよろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.ここでフィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
10.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

11.第一のフレットプレス・ジグです。
12.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

13.ジグをサウンドホールから入れていきます。
14.ハンドルを回してフレットをプレスします。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
16.2つ目のジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

25.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
26.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


27.整形されたフレット端です。
28.フレットエンド・ドレッシングファイルでバリを取り除いていきます。

29.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
30.ボディもアクリル板でカバーしました。

31.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
32.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

33.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
34.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

35.さらにスチールウールで研磨を進めます。
36.最後はコンパウンドで磨き上げます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。


ピックガード交換

1.オリジナル・ピックガードです。
2.ナイフを使って剥がしていきます。

3.取り外せました。
4.両面接着シートが厚く残っています。

5.ボディ側の準備完了です。
6.TOR-TIS素材シートに外周を写します。

7.TOR-TIS素材シートから少し大きめに切り出しました。
8.オリジナルピックガードと重ねます。

9.周囲を削っていきます。
10.TOR-TIS素材は常温では堅くなり、割れやすいので慎重に作業を進めていきます。

11.両面接着シートを少し大きめに切り出しました。
12.シートをピックガードに貼って、はみ出た部分をカットします。

13.位置決めをしています。
14.ピックガード交換完了です。