ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Greven J Herringbone

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兵庫県にお住まいのM.K.さんからGreven J Herringbone、Morgan DL-LWMartin OOOC-42のリペアご依頼をいただきました。Greven J Herringboneはネックリセットを含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ 樋口 英之 様

本日ギターを受け取りました。緊張しながら、1本ずつ弾いてみた感想を述べます。

【Greven J Herringbone】

大学時代から持っているギターですが、当時から余り大事に弾いておらず、酷使していたことで、ボロボロになっていました。
ピッチずれがひどく、だんだんと音の響きもなくなってきました。
最もひどかったのは、ネックがボディから浮いていることでした。
このため、しばらく弦を張ることすらなく、もう何年もこのギターを弾いていませんでした。
しかし、このギターは生まれ変わりました。
ネックはしっかりと固定され、弦高も低く、何よりピッチずれが全くなくなっています。
チューニングがばっちり合うのです。
音の響きも加わりました。このギターは再び歌ってくれるようになりました。

【Morgan DL-LW】

このギターは、ブランド名も知らないまま、ギターショップで弾き比べをし、音の良さで購入を決めた1本でした。
ですから、音については不満はなかったものの、購入後にサイド割れが生じ、悩みの種になっていました。
戻ってきたギターは、サイド割れもしっかりと補修され、弦周りが一新されていました。
以前よりも、何と言うか、音の深みや広がりが増したように感じます。
いつまでも音が響いている感じになりました。

【Martin 000C-42】

中川イサトさんの大ファンで、ずっとこのギターを探していたところ、偶然中古ショップで手に入れたのですが、
なんとなく弦高が高く、いまいち弾きにくいギターだと感じていました。
私はMartinをこれしか持っていないので、これがMartinの音と思っていました。
ところが、樋口さんに診て頂くと、すぐにネックリセットが必要とのことで、軽く考えていた私は、慌てて大手術をお願いすることにしました。
弦高は以前よりもかなり低くなり、とても弾きやすいギターになりました。
以前の弦高では、フィンガーピッキングに余り向いていませんでしたが、今回ネックリセットをしていただき、フィンガリングが非常に楽になりました。
弦周りのTUSQ化も相俟って、以前よりも渋い音がします。これこそ本当のMartinの音だと自信を持って言えそうです。

今回、樋口さんのリペアを2年半待ちました。
リペアが始まってからは、毎日の作業をブログで拝見するのが楽しみで、リペアの完了が待ち遠しくてなりませんでした。
戻ってきたギターはどれも、サドル、ナットの作成、フレットの打ち込みなど、非常に丁寧な作業がなされており、職人技を感じました。
樋口さんにリペアをお願いして、本当に良かったです。
また次回も是非ともよろしくお願いします。

M.K.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

今回、ご依頼をいただいた3本のギターをリペアさせていただきながら、
M.K.さんがギターをお預けにお越しになった時のことを思い出しておりました。

お子様がギター教室に通われて練習されているということがとても印象に残っておりましたので、
私が今、リペアしているこのギターは何年か後、きっとM.K.さんの子供様が手にされ、
音色を奏でることになるんだろうなぁ、と強く感じました。

ネックリセットを施させていただいた2本のギターはいずれも理想的な弦高と本来の音色を取り戻しました。
特にGrevenは瀕死の状態でしたので、リペア後を試奏させていただいたときは、
狂いのない音程、音色、演奏性に感激しました。

アコースティックギターは人間の子供のようにそれぞれの個性を持って、オーナー様の元で癒しを届けています。
今回の3本のギターも、みんなONLY ONE!なギターだなぁ、とつくづく感じた次第です。
今後もM.K.さん、そしてご家族が素晴らしいギターライフ、ミュージックライフを送られますよう、お祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


ネックリセット

1.リペア前のネックヒール部です。
2.大きくボディ(サイド)から浮いています。

3. これだけネックが浮いているので、フィンガーボードのみボディと分離することでネック取り外せるのではないかと考えました。
4. 従って、ネックポケットアクセス関連の工程は省きました。

5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。

9.ネック取り外し専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 通常はここで蒸気を送り込みますが、今回はこのままでネックを外します。
12.ボディを固定したまま、ネックを少しずつ動かして外していきます(カメラの調子が悪くて動画を撮影することが出来ませんでした)。

13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.ネック側ジョイント部です。赤く見えているのは厚紙です。

15.ボディ側ジョイント部にも厚紙が残っています。
16.厚紙を取り外していきます(ネック浮きの原因はこの厚紙にあったと思われます)。

17.ネックヒール部の厚紙も取り除いていきます。
18.厚紙シムを取り除きました。

19.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
20.ヒール部分を削っていきます。

21.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
22.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

23.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
24.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

25.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
26.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

27.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
28.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

29.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
30.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


31.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
32.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

33.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
34.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


35.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
36.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

37.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
38.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


39.マスキングテープをはがします。
40.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。
10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

11.第一のフレットプレス・ジグです。
12.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

13.ジグをサウンドホールから入れていきます。
14.ハンドルを回してフレットをプレスします。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
16.2つ目のジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

25.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
26.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


27.整形されたフレット端です。
28.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

29.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
30.ボディもアクリル板でカバーしました。

31.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
32.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

33.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
34.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

35.さらにスチールウールで研磨を進めます。
36.最後はコンパウンドで磨き上げます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

ナット取り外しの様子です。


3.ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


サドル溝再加工

1.オリジナルブリッジです。サドル位置移動することでフレット音痴解消を行います。オリジナルサドル溝を埋木するためエボニー材を切り出しました。
2.オリジナル・サドルスロットにぴったりはまるようになりました。

3.ブリッジ上面より少し高く切り出しました。
4.少しずつ削っていきます。

5.埋木を終えました。
6.サドル位置を書き写すためにマスキングテープを2重に貼りました。

7.サウンドホールにチューナー、ブリッジにイントネーターを取り付けます。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル山位置を書き写していきます。
10.サドル溝位置を書き込みます。

11.溝位置とサドル山ピーク位置を別々に記録しておきます。
12.サドル溝加工ジグを取り付けました。

13. トリマを使用して溝再加工を行います。
14.位置決めを行っています。

トリマでサドル溝再加工を行っている様子です。


15. トリミングを終えたブリッジです。
16.マスキングテープをはがします。

17.オリジナルよりも約2.5mmボトム側へサドル位置が移動しました。
18.サドル作製工程へ移りましょう。


ピッチ調整~サドル作製

1.サドル溝再加工を行いました(上述の通りです)。
2.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

3.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
4.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

5.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
6.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

7.サドル高の切り出しを終えました。
8.サドル上部にピーク位置を書き写します。

9.サドルピーク位置を削りだしていきます。
10.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

11.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
12.ブリッジピン穴加工を終えました。

13.サドルを取り付けました。
14.完成したブリッジとサドルです。


ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

プラグ切り出しの様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.プレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.ワックスペーパーと当て木を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。


ペグ交換

1.オリジナルペグです。
2.取り外しました。

3.新しいペグを取り付けました。
4.GOTOH社製マグナム・ロックタイプです。


塗装タッチアップ

1.トップ板に数カ所の打痕跡が見られます。
2.こちらは中央部。

3.こちらはトップ板外側です。
4.凹み部分にラッカーを乗せ、乾燥を待ちます。

5.ラッカーが乾燥した後、盛り上がった部分を削り取ります。
6.水研磨を施してタッチアップ完了です。

7.打痕跡はほとんど目立たなくなりました。
8.比較的浅い打痕跡でした。


ピックアップ脱着

1.ピックアップ交換を行いました。
2.Fishman RareEarthBlendです。

3.取り付けたところ、弦振動がピックアップ上面に干渉しましたので、固定材(コルク)を薄手の物と取り替えます。
4.オリジナルのコルクです。

5.トップ側にコルクです。
6.取り外しました。

7.薄手のコルクシートを貼りました。
8.ボディ内側の固定材を取り付けました。

9.弦振動との干渉は無くなりました。
10.横から見た様子です。