ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-28

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北海道にお住まいのK.M.さんからMartin D-28とTakamine PSF-48Cのリペアご依頼をいただきました。Martin D-28はブリッジ脱着、ブリッジプレート・リペア、フレットすりあわせ、および弦周りのTUSQ化を行いました。
リペア後のギターを受け取られて、暖かいメッセージが届きました。

樋口様
昨日無事受け取りました。丁寧に梱包していただきありがとうございました。

早速、D28を取り出し、チューニングしたところ、自分の感覚的なものですが、弦を張って行く過程で、各弦のテンションが柔らかく柔軟になったように感じました。
弾いてみると音の違いに驚かされました…
20年前、中学時代に購入したヤマハのギターを使っていた私は、職場の先輩が貸してくれたD28の音に魅せられ、先輩に無理を言って、譲って貰ったのが、このギターでした。

当時28は、ギターに興味のない妻がその音色に振り返るくらいの音色でした。それがいつしか音が平坦というか…もわっとした音に感じ、自分が齢を取って贅沢になり、感動や感謝の気持ちがなくなったのか、あるいはギターに問題があるのかと思い、それを確認するためオデッセイの門を叩きました。

結果は驚きでした…各弦の音が立ち、はっきりとして、もあっと感は全くなく、アルペジオを弾いていてもトップ板が振動していることがはっきりとわかり、生まれ変わった28に、思わず凄い凄いを連発してしまいました。

ブリッジを脱着してもらったにも関わらず、傷ひとつ、接着剤の漏れひとつなく、リベアしていること自体わからない…樋口様の匠に感謝!!です。

サドルとナットを作成して頂きましたが、これも是非、樋口様に製作していただきたいと決めていた箇所です。その弾きやすさは、別なギターを演奏しているような感覚です。
指押は勿論、最初に感じた弦に余裕があるというか柔らかい、SQの太いネックが気にならず、演奏が楽になった感じがします。

更にトップ割れ二箇所を抱えていたタカミネでしたが、ここも丁重に直していただきました。サウンドホール上の割れは、ギターを叩くとトップ板が完全に割れていることが感覚的に判る状態でしたが、再びガチッとした状態に…そしてサドルとナット…プロが作るとサドルもナットもこんなに小さくなるものなんですね…そして演奏して驚きました、もともと弾きやすいギターでしたが、指に張り付くような操作性で、かつ、各弦の音がクリアーになり、カリッとして、生音も一回り大きくなったような印象を受けました。

このギターは本当に弦が良く切れていたのですが、28同様、弦を張っていて、弦が柔らかいレベルでチューニングができるような不思議な感覚があり、今後は、弦も切れないような、そんな印象を覚えました。…理由は全くわかりません…

また、樋口様が製作してくれたコードは、以前、周辺楽器店に持ち込んでも、出来ないと言われたものでした。製作して頂いたコードは完璧で、自分にとってかけがえのないものになります、本当にありがとうございました。

この2台のギターは、妻と結婚してから共に歩み、これからも自分の人生の終着駅まで一緒に歩く相棒です。今回思い切って樋口様にリベアして頂き、本当に良かったと思っています。リベア方針を決定する間のメールのやりとりも、迅速、かつ、丁重で、その内容も解りやすく、樋口様は本当にギターが好きなんだなぁ?と実感し、メールをしていて、自分の友人と話しているように感じました。

リベアして頂いたギターは、大事に使いたいと思います。お金を貯めて、もう一台のJ45のリベアをお願いしたいというのが今後の目標でしょうか…

樋口様、魔法はかかっておりました、リベア、3年待った甲斐があった…というものです。
音に不満を感じ、いつしか使わなくなった28、こいつを弾き込むのが日課になりそうです。

ありがとうございました…遠い北海道より、樋口様のご健康とますますのご活躍、震災材での楽器製作の成功を祈念しております。

K.M.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア後のギターの大変詳細なご感想をお聞かせいただけて、とても嬉しい気持ちで一杯です。

リペア前の試奏の印象はMartin D-28の「もの悲しい音色」とTakamine PSF-48Cの牛骨素材特有の「ぼや~っとした音色」でしたが、リペア後はK.M.さんの仰るとおり、本来の音色を取り戻してくれました。
特にD-28はブリッジ周辺状態の改善によって高音域から低音域まで心地よい音色を奏でてくれるようになりました。

これからも奥様とギターと一緒に素晴らしいギターライフをお送りください。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


フレットすりあわせ

1.マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
2.ボディもアクリル板でカバーしました。

3.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
4.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

5.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
6.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

7.さらにスチールウールで研磨を進めます。
8.最後はコンパウンドで磨き上げます。

9.プロテクタ類を外しましょう。
10.ピカピカのフレットになりました。


ブリッジ脱着

1.ブリッジ剥がれが見られます。
2.ラバーヒーターでブリッジを暖めます。

3.ヒーターをクランプした後、ブリッジの温度をモニタしながら徐々に暖めていきます。
4.ブリッジ剥がれ部分にナイフを挿入していきます。

5.外側からナイフをゆっくりと挿入していきます。
6.ブリッジが外れました。

7.トップ板に残った古い接着剤を削り取っていきます。
8.ブリッジ接着面はトップ板アールにあわせて接着剤を削り取っていきます。

9.再接着準備が整いました。
10.湯煎したニカワを接着面に塗っていきます。

11.全体に薄く塗っていきます。
12.ブリッジをそっと乗せます。

13.クランプしてブリッジを固定していきます。
14.クランプで溢れたニカワを拭き取っていきます。

ブリッジ再接着の様子です。


15.マスキングテープを剥がしていきます。
16.このまま固着を待ちましょう。


ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

プラグ切り出しの様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.. プレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.ワックスペーパーと当て木を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。

ブリッジピン穴を開けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたき、スライドして外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。