ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin OOO-21

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兵庫県にお住まいのH.K.さんからMartin OOO-21とGibson JohnnySmithのリペアご依頼をいただきました。両ギターとも年季の入ったギター達です。Martin OOO-21はネックリセット、ブリッジ交換を含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターをお引き取りにお越しになり、ご帰宅後H.K.さんから暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ 樋口英之 様

昨日は丁寧なリペアをありがとうございました。
2台とも早く弾いてと言わんばかりにキラキラと輝いて見えました。
そちらでの試奏でははっきりわからない部分もありましたが、早速家へ持って帰り弾いてみました。

1948年製の000-21は、本当はこれほど鳴るギターだったのですね。
音量が大きすぎて、なんか逆に戸惑っています。繊細なタッチで弾かないと出た音がすべてフォルテに聞こえます。

リペア前に希望していたように、ハイポジションまでストレス無く弾けて、しかもオクターブピッチも満足できるものであり、諦めていて言いはしませんでしたが、気になっていたデッドポイントも不思議なことに消えており、使えるギターになっています。

1960年製ジョニースミスの方は、あのまま木製のサドルのままでしたら、もっと鳴っていたというか、鳴りすぎてアンプを通したときハウリングを起こしやすく、逆に使えないギターになってしまったと思います。思い切って正確なピッチが得られる物に変更して2重に正解です。生音でも十分抑制の効いた感涙ものの、私の表現したいものをダイレクトに伝えることのできるようなギターに仕上がりました。結局3重に正解でした。
また、細いフレットを打ってもらったことも弾きやすくしてくれ何時間でも弾ける感じです。

これ以上の楽器は弾いたことがありません。素晴らしいリペアに感激しております。

これからも私の楽器たちをよろしくお願いいたします。
お元気で活躍されることをお祈りいたします。
有難うございました。

H.K.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

大変年季の入った貴重なギターのリペアをさせていただき、大変感謝しております。
両ギターとも、これまでにも何回かのリペアを経てきた跡もあり、リペア跡のリペアも含めた工程でした。

Martin OOO-21は、おそらく以前に弦高上昇を補うためにブリッジ上面が削られており、そのため、リペア前は本来のボディの鳴りが出来なかったのではないかと思っています。
今回、ブリッジを本来の高さ(厚み)に戻すことで、適度な弦のテンションがボディにかかるようになり、理想に近い音色を発するようになったと考えています。

Gibson JohnnySmithは、おそらくこれまで何回かのリフレットを経てきており、今回フレットを抜いた時には、フレット溝の縁がぼろぼろになっていましたので、リペア前はフレットとフィンガーボードとの接触状況が良好ではありませんでしたが、フレット溝を埋木整形することでフレットがしっかり固定されるようになりました。

また両ギターとも、ペグ脱着(OOO-21は交換)を行う際、ペグ固定ネジ穴埋木再加工とブッシュの固定化を行うことでチューニングの安定も図ることが出来ました。

リペアご予約をいただいた後、大変長い期間お待ちいただきましたが、両ギター共、H.K.さんのご満足のいただける状態にすることができて、とても嬉しく思うと共に、ホッと安心しております。

昨日、ギターご返却の際、H.K.さんから「今回のギターリペアには運命的なものを感じている」旨のお言葉を頂戴しましたが、私自身もリペア工程を進めていく中で「ギターが自分を動かしている」ことを幾度も感じました。

少しオーバーな表現になるかもしれませんが「ギターの意志」をはっきりと感じることが出来ました。
このようなリペアの機会を与えていただき、改めてお礼を申し上げたいと思います。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

ボディからフィンガーボードを外している様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

15.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
16.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。


ブリッジ交換(新規作製)

1.オリジナルブリッジです。
2.サドル溝の底面を削られた跡が残っています。

3.サドル溝の側面がサウンドホール側に傾斜していますが、底面に厚みがないため、再加工が難しい状況です。
4.ブリッジを新規作製することにしました。まずオリジナルブリッジを取り外すためにヒーターを準備しました。

5.ヒーターをクランプし、徐々に温度を上げていきます。
6.ブリッジ接着面の温度が上がったところでクランプを外します。

7.接着面にナイフを挿入していきます。
8.ブリッジが取り外せました。

ブリッジ取り外しの様子です。


9.ローズウッド材を切り出しました。
10.オリジナル・ブリッジのコピーを削り出していきます。

11.ブリッジピン穴を空けました。
12.両サイドにスロープを加工しました。

13.さらに前後にアールを付けました。
14.ブリッジピン穴に傾斜を付けました。

15.ボディ側の接着面を軽くサンディングして古い接着剤を取り除きます。
16.ブリッジ再接着の準備が整いました。

17.接着面に湯煎したニカワを塗っていきます。
18.ブリッジをボディに乗せ・・・

19.クランプして溢れたニカワを拭き取り・・・
20.マスキングテープを剥がします。

ブリッジ再接着の様子です。


21.このまま数日間、固着を待ちます。
22.サドル溝加工へ進みましょう。


サドル溝加工

1.ピッチ調整を行い、サドル山位置を確定していきます。
2.マスキングテープにサドル山位置を記録していきます。

3.サドル山位置がカバーできるサドル位置を記入します。
4.サドル溝加工ジグを取り付けました。

5.加工位置の微調整を行っています。
6.トリマにストレートビットを取り付けてサドル溝加工を行います。

ブリッジ取り外しの様子です。


7.マスキングテープを剥がします。
8.サドル溝加工を終えたブリッジです。


ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

埋木用プラグを切り出している様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.ワックスペーパーと当て木を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにローズウッド片を丸く削ります。
4.ドリル穴にローズウッド材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.ハンドルを回してフレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


31.整形されたフレット端です。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらにスチールウールで研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナットはすでに外れていました。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.ロングサドル・エッジスロープの加工を行います。
16.ブリッジ面をマスキングテープで保護します。

17.半丸ヤスリでスロープを粗く削り取ります。
18.ブリッジ面の直前で止めておきます。

19.ミニルーターに円錐ビットを取り付けて少しずつブリッジ面に合うようサドルスロープを低くしていきます。
20.ルーター加工を終えたところです。マスキングテープを少しこするところで止めました。

ロングサドルのエッジ・スロープ加工を行っている様子です。


21.スロープ加工後のエッジです。
22.ブリッジ面とほとんどツライチになっています。

23.サドルを取り付けました。
24.完成したブリッジとサドルです。


ネック再塗装

1.オリジナルネックです。
2.裏側のクリアがほとんど剥がれています。

3.ネック裏側の部分塗装を行います。
4.再塗装部分を軽くサンディングした後、クリーニングします。

5.マスキングを施し・・・
6.クリアラッカーを吹き付けていきます。

クリアラッカーを吹き付けている様子です。


7.ラッカー乾燥の後、水研磨を行います。
8.しっとり感が戻りました。


ペグ交換

1.オリジナルペグです。
2.ブッシュが浮き上がっています。

3.ギア部もガタ、バックラッシュがあり、チューニングが安定しませんのでペグ交換します。
4.ペグを取り外しました。取り付けねじ穴も大きくなっています。

5.ねじ穴を埋木しました。
6.新しいペグ(GOTOH製)を取り付けていきます。

7.ペグを取り付けました。
8.しっかり固定された、新しいペグで安定したチューニングが出来るようになりました。