ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-42JC

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京都府にお住まいのシンガーソングライター 野田淳子さんからMartin D-42JCとMartin OO-45Customのリペアご依頼をいただきました。野田さんからは以前Martin OO-45Martin O-17のリペアご依頼をいただいており、3回目4本目のギターリペアとなります。
野田さん、ありがとうございます。

Martin D-42JCは野田さんの旦那様のギターです。弦周りのリペアに加えてボディ内バックボード・ブレイシングの補強を行いました。
リペア後のギターを受け取られて野田さんから暖かいメッセージが届きました。

おはようございます!

昨日、ギター2台無事受け取りました。
中島が帰ってきて、即弾いて、良い音になったなぁ!と、感動してました。
私も、特に低音が深くなった!と思いました。
重篤な病を治してくださって、本当にありがとうございました!
私のギターも、早く仕上げてもらえて30日のコンサートに使えて、感謝です!

本当にお世話になりました!淳子

野田さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。
リペア後のギターの音色にご満足頂いて安心致しました。
私もリペア前のギターのブレイシング状態と症状には少々驚きました。
と同時にリペア前後のギターの音色の差を確認して、ギター構造物の意味と先人達の知恵や経験を再確認させて頂いた次第です。

野田様ご夫婦の今後のご活躍を祈りながら、リペア作業と向かい合わせて頂いた次第です。
どうか、これからも少しでも多くの方々に命のメッセージを伝えていって下さい。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フレット打ち込みの準備が整いました。

7.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
8.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

9.カットしたフレット端です。
10.フレットタング部をプライヤーでカットします。

11.バインディング加工後のフレット端です。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
16.フレットをプレスします。

17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
18.2つ目のジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

29.整形されたフレット端です。
30.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.横にスライドさせて取り外します。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


バックボード・ブレイシング・リペア

1.このギターを受け取った時、バックボードから変な音が聞こえました。
2.バックボードをタッピングするとパンパンという反応がありました。

3.バックボードは3ピースジョイントです。
4.ところが両方の外側のピースとブレイシングが全て浮いていました。

5.上の4枚の写真は1弦側ボディ内部の写真です。
6.こちらは6弦側のボディ内部ブレイシングの写真です。

7.それほど年月が経過していないギターですが完全に剥がれてしまっています。
8.製造上のミスなのか、接着剤の不良なのか・・・いずれにしても重傷です。

9.マスキングテープを浮いている部分に貼ります。
10.こちらは1弦側です。

11.マスキングテープの上にスポイトでタイトボンドを流していきます。
12.マスキングテープの上に乗せた感じです。

13.ナイフでボンドを隙間に流し込んでいきます。
14.浮き部分全体にまんべんなく流し込んでいきます。

15.マスキングテープを剥がし、ジャッキでプレスして、固着を待ちます。
16.サウンドホール付近は比較的容易ですが、ボディエンド部分はジャッキを固定するのに時間がかかるため、事前に練習してから作業を行います。


ピッチ調整~サドル製作

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドルピーク位置を書き写しておきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したオフセットサドルとブリッジです。