ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin OOO-42EC

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香川県にお住まいのA.M.さんからGibson J-200とMartin OOO-42ECのリペアご依頼をいただきました。
OOO-42ECはネックリセット、フレット交換を含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、A.M.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

樋口英之様へ

この度はギターのリペア、どうもありがとうございました。
退院から一週間が経過しましたが、その後、2人の息子は元気一杯で、いい音色を奏でております。あまりにもいい音色を奏でてくれるので、いつもよりも長く弾いてしまい、本当の息子に妬まれてしまう毎日です。ついでにギターを「拭く」いや「磨く」時間も以前よりも長くなり、ますます息子の怒りを買ってしまっている次第です。

リペアをして頂く前は、2本ともとてもピッチが悪く、練習よりもチューニングする時間の方が長いくらいだったので、あまり弾き込んでいませんでした。しかし、今回のリペアでピッチもばっちりになり、なんのストレスを感じる事なく、練習に打ち込めます。オフセットサドル万歳!!また、以前よりも音量がアップしたので、変に力まずとも自然と音が前に出てくるので、演奏が以前よりも楽になりましたし、なによりも楽しくなりました。自然と練習時間が増えてしまうのも当然ですね。

ネットで偶然見つけた、「ギター工房オデッセイ」さんでしたが、思い切って依頼してよかったです。正直、ネットの情報だけでしたので、不安もありましたが、ホームページでの「目から鱗」のリペアファイルを見るたびに、樋口様のギターに対する愛情がひしひしと感じられ、「この人にだったら大切なギターを任せても大丈夫だ。」と思いました。
また、樋口様は、ギターのリペアを依頼されるオーナーさんの気持ちもとても理解されていて、リペアの状況を逐一ブログにアップされたりとか、メールで状況を知らせ頂いたりとか(しかも写真付きで)されていて、特に遠方にいるオーナーさんにとってはとても安心されるのではないでしょうか。

先日、樋口様がメールに「リペア中は、依頼される方にとっては、子供が手術室にいる時のような心境でしょうから」と書いておりましたが、まさにその通りで特に00042-ECのネックリセットの時は気が気ではありませんでした。しかし、その仕上がり具合といったら・・・。多分僕よりもギターの方が喜んでいるのではないのでしょうか。

また、J-200のピックアップの件ではいろいろとアドバイスを頂きどうもありがとうございました。結果、FISHMANのRARE EARTH HUMにして正解だったと思います。最初は、サウンドホールにピックアップを付けるのは嫌だったのですが、このピックアップだとスマートで威圧感がなく、しかもルックス的にもロックっぽく、とても気に入っています。実際の音の方も、Machilessというギターアンプで鳴らしたのですが、自然な響きで聞き惚れています。(若干高音部が際立って、低音部が弱い様な気がするのですが、アンプのセッティングですかね)また少々音を上げてもハウリングが起きません。やりすぎるとBeatlesのI FEEL FINEの様なフィードバックも出来ますので、(本物はJ-160Eの音ですが)僕にはぴったりだと思います。どうもありがとうございました。

今後は、樋口様のギターに対する気持ちを引き継いで、ギターをどんどん弾き込んでいって、ますます「魅せるギター」に僕自身の手で育てて行こうと思います。ライブもどんどんやりたいですね。今迄は、バンドでエレキでの演奏が多かったのですが、アコースティックでの弾き語りライブにも力を入れて行きたいです。
高松辺りでは、そんな店が最近増えているそうです。(実際一度誘われました)では、とても長くなってしまいましたが、この辺で失礼します。

最近朝夕がめっきり寒くなってきましたが、お体に気を付けて、ますます良いお仕事をされますように。樋口様のような方がおられるという事は、ギター弾きにとってはとても心強い限りだと思います。また僕のギターにトラブルが起こった時は宜しくお願いします。

ギターを受け取られた時にA.M.さんからお電話でのご連絡をいただいて、安心していました。

本日、ご丁寧なメールをいただいて、本当に嬉しい気持ちで一杯です。

J-200とOOO-42ECはとても良い意味でとても個性の強いギターだと再認識しました。
(同じギターという楽器のジャンルの個体だとは思えないほどでした(笑))

A.M.さんのおっしゃるとおり、両ギターともリペア後は弦高、ピッチ、音色、全ての点で現在の条件内で最大限のパフォーマンスが出るようになったと思います。A.M.さんの息子様達の世代に受け継がれてもきっと活躍されることと思います。
ギターにとっては最高の幸せですね(笑)。

ギターリペアの作業自体はとても孤独な仕事です。黙々と自分の信じる道を歩いていきます。
その中で自分の結果がA.M.さんのようなお言葉で評価されることは、言葉にできないほど嬉しい気持ちで一杯になります。
自分が歩いてきた道を振り返る時、その道を明るく照らす明かりのようです。

この度は弊工房にリペアのご依頼を賜り、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。


ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。徐々に温度を上げていきます。

7.最高温度でそのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディがはなれました。次にネックの取り外しを行いましょう。

9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11.ジグの裏側はこのような形になっています。
12. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。

13.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。
14.蒸気を注入しながらネックを緩めると、数分後ネックがはずれます。

15.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
16.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

17.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
18.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

19.ネックヒール部分です。ヒールキャップがついています。
20.ヒールキャップを外しました。

21.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
22.ヒール部分を削っていきます。

23.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
24.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

25.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
26.ヒールのサイド部分は削り終えました。

27.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。
28.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

29.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
30.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

31.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
32.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

33.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
34.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

35.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
36.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

37.HideGlue(膠:ニカワ)が木地になじみやすくするため、ドライヤーで少し暖めます。
38.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。

39.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
40.0.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

41.マスキングテープをはがします。
42.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.ここで一旦削り粉をクリーニングしましょう。

11.フレット打ち込みの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
14.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

15.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。
16.第一のフレットプレス・ジグです。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.フレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

31.整形されたフレット端です。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらに研磨タワシ(#600~#800)で研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。深いナット溝ですので、切削除去を行います。
2.ドレメル・ルーターにストレートビットとジグを付けてナットを削っていきます。

3.一回目のパスが終わったナットです。これを何回か繰り返します。
4.深くまで溝が掘れました。

5.ナットに当て木を当てて軽くコンとたたきます。
6.ナットが外れました。

7. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
8.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

9.クリーニング完了したナット溝です。
10.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

11.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
12.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

13.1弦側からもナットの密着を確認します。
14.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

15.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
16.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

17.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
18.ナット上部を切り取りました。

19.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
20.ナットらしくなってきました。

21.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(切削除去する前に計測しておきました)
22.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

23.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
24.弦高調整前のナットです。

25.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
26.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

27.6弦のナット高をギリギリまで下げました。
28.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。


ピッチ調整~サドル作製

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドルピーク位置を書き写しておきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.弦高調整前のサドルです。

13.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。
14.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。

15.ブリッジピン穴加工を終えました。
16.完成したオフセットサドルとブリッジです。


サウンドホール割れリペア

1.サウンドホールに割れがあります。
2.以前にリペアされた跡です。

3.矯正することでできるだけ本来の位置に戻すことにしました。
4.矯正後の割れです。完全には戻せませんでしたが、リペア前よりも目立たなくなりました。