ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-35

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広島県にお住まいのK.S.さんからMartin D-35,、OOO-28EC、そしてAndresMartinガットギターのリペアご依頼をいただきました。
Martin D-35はネックリセット、ブリッジ脱着交換などを含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、早速K.S.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

おはよう御座います。
昨日ギターが届いてから朝方まで弾いたり、磨いたり、触ったり・・・バカですね(笑)
感想を書きます。

AndresMartinガットギター:
クラック部分の丁寧なリペアを有難う御座います。
音色は早くから樋口さんにお預けしていましたので、はっきりとは言えませんが、前の時より 澄んだ音になった様に思います。音の輪郭もはっきりした感じです。
我が家にある 他のギターより断然良い音なのは確かですね。
他のギターがボロだから参考にならないかも?(笑)

Martin OOO-28EC:
このギターはもともと、そこそこ鳴っているかなって思っていました。
でもビックリしたのは チューニングしている時から思っていましたが ネック部分からの手に伝わる振動が以前より多く感じました。
弾いて見ると音量感が増した様に感じます、それと音色がくっきりした様に思えます。
弾いていて以前より気持が良くなったのは確かですね。

Martin D-35:
一番気に入っていたギターですが、なんとなく不満を感じていました。
リペア内容も大体の想像はしていましたが、大変大掛かりなリペアになってしまいましたね(笑)。
まず、外見はフレット交換をしたら、大変綺麗に見えます(感激です!)
それとネック調整をしたらサドルの高さにビックリしました ブリッジも新品!!!(嬉)。
恐る恐るチューニングをしたら、これまたビックリ!!!チューニングメーターの振れが無く、以前でしたら指針が左右に振れながらの不安定だったのがビシッと決まって、安定しているのには感激しました。
弾いてまたビックリです。音量が増しているのとサスティーンの違い、音の輪郭など以前とは格段の違いが見られ、D-35本来の音はこれなのかと思いました。
弾いていて気持が良いから、ついつい他のギターより長く弾いてしまうほどです。(笑)
弦高も低くしてもらい、大変弾きやすくなっています。

改めてギターには個性がある事が分かりました。メーカー・機種、それぞれの良さが有ると思います。D-28も欲しくなりました(笑)。
他のメーカーのギターも聞いてみたいですね。
今回は3台のギターを樋口さんにリペアして貰って良かったと思っています。
丁寧なリペアだと思います。3台とも音色、演奏性等、大変気に入って満足しています。

いろいろ無理な注文など、ご迷惑をお掛けしましたが、今後もギター工房オデッセイ さんへリペアをして貰おうと思います。 有難う御座います。

上手く書ければ良いんですが 思いを文章にするって難しいですね(泣)。
最後に 樋口さんの感想をお聞かせください。宜しくお願いします。

K.S.さんのギターへの愛情と、とても熱い想いが伝わって参りました。
リペア後のギター達にご満足されて、私も感無量な気持ちです。

私はリペアを行う前に自分がギターをリペアしている様子(第三者的に見ている様子)をイメージするようにしています。
そのイメージトレーニングが未熟な技術をカバーしてくれることが多々あります。
そしてリペア中は、手がけているギターがオーナー様に演奏されている様子をイメージするようにしています。
こういうのを一般的に「妄想族」というのでしょうか?(笑)

K.S.さんのギター達もイメージ通りのリペアが出来たのではないかと思っています。

AndresMartin ガットギター:
リペア前は弦の振動がどこかで打ち消されているような、悲しい音でしたが、
TUSQ効果でしょうか、リペア後は低音弦、高音弦共にボディやネックから
甘い音色が響き渡るようになったと思います。

Martin D-35:
経年した素晴らしい部材ですので、多分大化けするのではないかと思っていました。
リペア前はネック元起き対策のブリッジ面の削りと超低いサドル高で、潜在能力の半分も出されていなかったように思います。
ブリッジの交換とネックのリセットで弦の振動が最大限にギターに伝搬するようになり、ほぼ100%のパワーが出ていると思います。
フィンガーピッキング中心の演奏スタイルと伺っていましたので、出来るだけ弦高を下げさせて頂きました。

Martin OOO-28EC:
若いギターですが、リペア前から素晴らしい響きを持っていました。
今回、牛骨素材特有のフィルター効果が無くなったことで、凄まじい箱鳴りが生まれたのではないかと思います。

この度は弊工房にリペアのご依頼を賜り、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。


ブリッジ脱着(交換)

1.ブリッジに浮きが見られます。
2.弦のテンションがほとんどサドルに伝わっていない状態です。

3.新しいブリッジと比較したところ、オリジナルブリッジはブリッジ高を下げるために削られていることがわかります。オリジナル状態に戻すためにブリッジ交換を行うことにしました。
4.ブリッジを取り外しましょう。周囲の輻射熱対策を施した後、ラバーヒーターをブリッジの上に載せます。

5.ヒーターの両端はマグネットで固定します(ボディ内のマグネットとで挟みます)
6.更に温度計をヒーターの上に載せて徐々に加熱していきます。

7.ブリッジ接着面が暖まったところでヒーター類を取り外し、ナイフを差し込んでいきます。(下の白いものは傷予防用の普通の紙切れです)
8.ブリッジの外側から徐々にナイフを挿入していきます。

9.ブリッジが取り外せました。
10.ブリッジ取り外し後のブリッジの高さを比較しました。これだけ削られているとギターの音色はかなり損なわれていると思われます。サドル溝の位置が新旧で若干異なっているので、新しいブリッジに交換した後、サドル溝再加工を行うことにします。

11.トップ板接着面を軽くサンディングします。
12.再接着の準備が整いました。

13.ブリッジ固着用のクランプ類も準備しておきます。
14.接着面にニカワを均一に塗ります。

15.ブリッジをそっと接着位置に乗せます。
16.アクリル板はクランプ圧を均一にするため、ブリッジプレートに当てます。

17.クランプであふれたニカワをふき取り、マスキングテープをはがします。
18.このまま固着を待ちましょう。


ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。徐々に温度を上げていきます。

7.最高温度でそのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11.ジグの裏側はこのような形になっています。
12. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。

13.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。
14.ネック押さえを徐々に締めながら蒸気を注入していくと、数分後ネックがはずれます。

15.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
16.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

17.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
18.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

19.ネックヒール部分です。ヒールキャップがついています。
20.ヒールキャップを外しました。

21.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
22.ヒール部分を削っていきます。

23.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
24.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

25.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
26.ヒールのサイド部分は削り終えました。

27.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。
28.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

29.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
30.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

31.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
32.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

33.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
34.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

35.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
36.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

37.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
38.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

39.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
40.0.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

41.マスキングテープをはがします。
42.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.ここで一旦削り粉をクリーニングしましょう。

11.フレット打ち込みの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
14.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

15.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。
16.第一のフレットプレス・ジグです。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.フレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

31.整形されたフレット端です。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらに研磨タワシ(#600~#800)で研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.ローズウッド材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ、ローズウッド材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工が終わった様子です。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.ワックスペーパーと当て木を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24. 弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。


ナット交換

1.ナットに当て木を当てて軽くコンとたたきます。
2.ナットが外れました。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.6弦のナット高をギリギリまで下げました。
24.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。


サドル溝再加工

1.ピッチ調整範囲内にサドルピーク位置を移動するため、一旦オリジナルのサドル溝をエボニー材で埋めきします。
2.深さと幅がピッタリのエボニー材を切り出し、埋めました。

3.マスキングテープを両側に貼って、良く切れる彫刻刀でエボニー材をカットしていきます。このとき、ブリッジに傷を付けないように注意します。
4.サンドペーパーで軽くサンディングし、埋木が完了したブリッジです。

5.ピッチ調整を行った後です。サドルピーク位置が確定しました。(ピッチ調整に関しましては下記セッションをご参照ください)
6.サドルピーク位置(上)とサドル溝位置(下)が確定しました。

7.サドル溝加工用のジグを装着し、トリマで溝を掘っていきます。
8.新しく掘ったサドル溝です。若干エンドピン側へ移動しました。


ピッチ調整~サドル作製

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドルピーク位置を書き写しておきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.糸鋸加工が終わったブリッジ・ピン穴です。
14.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。

15.ブリッジピン穴加工を終えました。
16.完成したオフセットサドルとブリッジです。