ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin OO-18

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東京都にお住まいのO.H.さんから2本のギターリペアを頂きました。二本目は超ビンテージなMartin OO-18です(一本目はGibson J-45です)。ネックリセットを中心にトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、O.H.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

古い楽器だけあって難しいリペアでしたが、完璧に仕上げてこの楽器の持つポテンシャルを十二分に引き出して頂き、とても感謝しています。
軽いタッチでも心地よくボディが鳴って音が前に出てきます。
弾いていてとても気持ちが良く、時間が経つのを忘れてしまいます。

ネックリセットをここまで早くきちんと仕上げられる方に初めて出会いました。
素晴らしい技術です。 またローズウッド指板の凹みのパテ埋めをこんなに目立たぬよう仕上げていただいたのにも驚嘆しました。 
ローズはエボニーと違い色目の調合が難しいのですが、『埋めてるよ』と予め知っている人にしかわからぬくらいきれいに仕上げて頂きました。
もちろん、演奏性もバッチリです。

荒っぽいアメリカンタッチアップをカバーするピックガードを作製頂いたおかげでこの楽器の弱点であった見た目の悪さもカバーできましたし、オリジナルのピックガードを丁寧に剥がして頂いたおかげで手持ちの別のギターに転用することができました。

リペア技術の高さとギターへの深い情熱、 詳細な診断と見積り・工程の透明さなど、日本中からリペア依頼が殺到するのも充分に頷ける素晴らしい仕事と感嘆いたしました。 加えて最大限ユーザーの要望を汲み取り、かつ実現できる懐の深さも素晴らしいと感じました。
ありがとうございました。

今回のリペアご依頼を頂いたギター達のオリジナル状態はO.H.さんのおっしゃるようにアメリカの「おおざっぱ」なリペアの跡が多く見られました。でも、このギター達を手にされてきた歴代オーナーさん達の思い入れを感じることができて、なんとか生まれ変わらせたい、という一念でリペアに取り組ませて頂いた次第です。

結果、O.H.さんにご満足して頂くことができた上に、このように暖かいメッセージまでいただき、本当に恐縮しております。
これからもO.H.さんと共にギター達が活躍することを心よりお祈りしております。

この度は弊工房にギターリペアのご依頼を賜り、誠にありがとうございました。重ねてお礼を申し上げます。
また、今後とも何卒よろしくお願い致します。


リペア前の状況確認

1. トップ板はこのギターの年季を物語っています。O.H.さんとのご相談との上、大きなピックガードでカバーすることにしました。
2. フィンガーボード面はブリッジの根本付近を指し示しています。ネックのリセットが必要です。

3. オリジナルブリッジも削り取られた加工跡が見られます。せっかくのネックリセットですので、ブリッジ高を確保するため、交換することにしました。
4. フレット交換時に判明したのですが、フィンガーボードの一部分(赤線で囲った部分)がくぼんでいることがわかりました。埋木を行うこととしました。


ブリッジ脱着

1.オリジナルブリッジ位置をジグに記憶させておきます(サドルマチックというジグです)
2.このジグの先端(ブリッジ側)には2本のピンがあり、オリジナルブリッジ位置を正確に保存することができます。

3.ラバーヒーターです。これを使ってブリッジを暖めます。周囲に輻射熱の影響を与えないようにプロテクタ類を配置します。
4.温度計をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

5.ブリッジが充分暖まったところで、クランプ類を取り除き、ブリッジ下にナイフをゆっくり入れていきます。
6.粘土状になった暖まった接着剤の感触を確認しながら、ゆっくりとナイフを進めていきます。

7.ブリッジが外れました。
8.トップ板をサンディングブロックで軽くサンディングします。

9.新しいブリッジのピン穴にあわせるためにブリッジプレートをプラグで埋木しました。そのため穴がふさがっています。
10.目標位置にマスキングテープを貼って、再接着の準備完了です。

11.ブリッジとトップ板の両方にHideGlue(ニカワ)を塗り、そっと接着位置に乗せます。
12.ブリッジプレートを保護するアクリル板をボディ内に入れます。

13.クランプすると同時にあふれたHideGlueをふき取り、マスキングテープも取り除きます。
14.このまま固着を待ちましょう。


ピックガード交換

1.オリジナルピックガードの浮き部分にナイフを入れます。(ピックガード交換工程はリペア最後の段階で行いました)
2.ナイフはピックガードに当たるようにゆっくりと動かしていきます。

3.オリジナルピックガードの取り外しが終わりました。
4.O.H.さんとのご相談により、トップ板に損傷のある部分をTOR-TIS素材でカバーするような形にすることにしました。型紙(白)より少し大きめにTOR-TISを切り出したところです。

5.型紙を素材に貼り付けて、はみ出た部分を削り取っていきます。
6.常温でTOR-TIS素材はもろく割れやすいので、目の細かいヤスリで根気よく削っていきます。

7.ピックガードの接着面をベンジン(ナフサ)で拭き、油分を除去しておきます。
8.ボディ側も同様にきれいにしておきます。

9.両面粘着シートをピックガードに貼り付け、はみ出た部分を切り取ります。
10.新しいピックガードの完成です。


ネックリセット

1. 弦を外してフレット面のブリッジ高を測定します。目盛りは3.5mmを指しています。
2.ターゲットのフレット面を9.5mmに設定し、オリジナルよりも6mm上げることにします。(計算式からヒール部は約1.9mm削ることになります)

3. 15フレットを外し、フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. これはラバーヒーターです。

5.ヒーターを当て木との間にサンドイッチします。真ん中の丸いものはスポット温度計です。
6.ヒーターに通電します。徐々に温度を上げていきます。

7.最高温度でそのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11.ジグの裏側はこのような形になっています。
12. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。

13.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。
14.ネック押さえを徐々に締めながら蒸気を注入していくと、数分後ネックがはずれます。

15.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
16.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

17.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
18.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

19.ネックヒール部です。ネック取り付け角度から算出された高さを削り取ります。
20.ヒール部分を削っていきます。

21.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
22.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(左)は削らず、ヒール部(右側)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

23.同様に1弦側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
24.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

25.ジョイント部の際も薄くノミで削ります。
26.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

27.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
28.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

29.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
30.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

31.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
32.ネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線を乗せ、ブリッジ部分もセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。

33.取り付け準備の整ったネック側ジョイント部です。
34.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

35.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
36.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

37.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
38.クランプと当て木でネックを固定します。

39.クランプによってあふれ出た接着剤をふき取っていきます。
40.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換(フィンガーボード補正処理)

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。ローズウッド材を爪楊枝の先に接着して、円柱状に削ります。
4.ドリル穴にローズウッド材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.フィンガーボードに窪みが見られました。

9.赤い線で囲んだ部分が窪んでいることがわかりました。ここで埋木処理を行うことにしました。
10.埋木を行うとポジションマークも埋もれてしまうので、新しいパール・インレイと交換します。同じ大きさのドットを準備しました。

11.オリジナルのパール・ドットをミニルーターで削り、中央に穴を空けます。
12.針金で外します。

13.新しいパールドットを埋め込みます。
14.ドットは埋木の深さも高く固定します。

15.ワックスペーパーを細く切り、フレット溝にはまるように折り曲げます。
16.フレット溝にはペーストが流れ込まないようにするための準備作業です。

17.埋木を行うエリアのフレット溝にワックスペーパーを埋め込みました。
18.フィンガーボードの窪み部分全体にローズウッドペーストを乗せていきます。

19.窪み部分にペーストを乗せました。
20.全体をワックスペーパーで覆います。

21.あらかじめ計測しておいたフィンガーボードの湾曲度(アール)にあったウッド簿ロックを準備しました。
22.埋木のペーストができるだけフィンガーボードにフィットした状態で固着するようにこのウッドブロックをカバーします。

23.ウッドブロックをクランプで固定して数日間固着待ちします。
24.ローズウッドペーストが固着しました。

25.先ほど使用したウッドブロックの内側にサンドペーパーを貼り付けてパールドットと埋木を一緒に研磨していきます。
26.埋木部分が削れてきましたので、前後をマスキングシートでカバーしました。

27.埋木の切削加工を終えました。
28.直定規で確認しました。フィンガーボードの平面性を復帰できました。

29.フレット溝の加工を行いましょう。専用ののこぎりで埋木に切り込みを入れます。
30.ワックスペーパーまでのこぎりの刃が届いたところで、ペーパーを抜き取ります。

31.フレット打ち込みの準備が整いました。
32.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

33.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
34.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

35.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。
36.第一のフレットプレス・ジグです。

37.ジグをサウンドホールから入れていきます。
38.フレットをプレスします。

39.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
40.2つ目のジグはこのように固定します。

41.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
42.順にプレスを進めていきます。

43.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
44.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

45.打ち込み終わったフレットの端はこのように飛び出ています。
46.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

47.フレット端をカットしました。
48.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。

49.1弦側のフレット端も同じように整形します。
50.ここで削り粉を吸い取りましょう。

51.フレット端を整形しました。
52.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

53.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
54.ボディもアクリル板でカバーしました。

55.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
56.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

57.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
58.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

59.さらに研磨タワシ(#600→#800)で研磨を進めます。
60.最後はコンパウンドで磨き上げます。

61.プロテクタ類を外しましょう。
62.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.当て木を当てて軽くコンとたたきます。
2.ナットが外れました。

3.ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラット・ファイルでナット面の平面を出します。
8.ナット溝にピッタリはまる用に厚みを出すことができました。

9.反対側からもナットが密着していることを確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。(O.H.さんのご希望により、全体を内側に寄せるように変更しました)

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットができあがりました。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させておきます。このジグのおかげで弦を緩めたり張ったりすることが必要なくなりました。

23.ナットの弦溝を徐々に掘り下げていきます。削っては隙間を確認し、の繰り返しを行います。
24.6弦のナット高をギリギリまで下げました。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。

ピッチ調整~サドル作製

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドルピーク位置と目標弦高を書き写しておきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高のの切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.糸鋸加工が終わったブリッジ・ピン穴です。
14.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。

15.ブリッジピン穴加工を終えました。
16.完成したオフセットサドルとブリッジです。