ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson J-45

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東京都にお住まいのO.H.さんから2本のギターリペアを頂きました。一本目はGibson J-45です(もう一本はMartin OO-18です)。ブリッジ交換を中心に弦周りのリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られてO.H.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

素晴らしい音質の楽器に仕上げて頂いてとても感謝しています。
驚くほど良く鳴って、しかも深みのある音質です。

この時期のJ-45はジャキジャキ感はあっても鳴り自体は貧弱な個体が多いのですが、楽器が本来持つポテンシャルを引き出すとこんなに鳴るものだ、と認識を新たにいたしました。

入手時にブリッジが破損しており、音が出せる状態ではなく、荒っぽいアメリカンリペアのおかげで周辺の塗装にもダメージがありました。
完璧なブリッジ交換のみならず塗装も目立たぬようにして頂きました。

リペア技術の高さとギターへの深い情熱、 詳細な診断と見積り、工程の透明さなど、日本中からリペア依頼が殺到するのも充分に頷ける素晴らしい仕事と感嘆いたしました。 ありがとうございました。

今回のリペアご依頼を頂いたギター達のオリジナル状態はO.H.さんのおっしゃるようにアメリカの「おおざっぱ」なリペアの跡が多く見られました。でも、このギター達を手にされてきた歴代オーナーさん達の思い入れを感じることができて、なんとか生まれ変わらせたい、という一念でリペアに取り組ませて頂いた次第です。

結果、O.H.さんにご満足して頂くことができた上に、このように暖かいメッセージまでいただき、本当に恐縮しております。
これからもO.H.さんと共にギター達が活躍することを心よりお祈りしております。

この度は弊工房にギターリペアのご依頼を賜り、誠にありがとうございました。重ねてお礼を申し上げます。
また、今後とも何卒よろしくお願い致します。


ブリッジ交換

1.リペア前のブリッジです。ブリッジピン穴づたいに割れ目が入っています。左側のボルト穴にはリペア跡と見られる接着剤が注入されています。
2.ブリッジ全体がサウンドホール側に引っ張られているようで、トップ板塗装部がブリッジエッジにより、剥がれているます。

3.交換するブリッジパーツはO.H.さんがご支給してくださいました。ラバーヒーターを使って古いブリッジを取り外しましょう。
4.温度計でモニターしながら徐々に温度を上げていきます。

5.暖まったブリッジとボディの間にパレットナイフを入れて、ブリッジを取り外しました。
6.オリジナルブリッジの割れ補修の接着剤の跡が厚く残っています。根気よく削り取ります。

7.サウンドホール側の塗装部剥がれをシェラックニスでタッチアップしています。数日乾燥させます。
8.ほとんど目立たなくなりました。

9.新しいブリッジの位置にあわせて、マスキングテープを貼りました。
10.接着面がラッカー塗装されているとブリッジの粘着力が弱まりますので、塗装部を剥がすことにしました。

11.接着面の塗装を剥がしました。
12.アジャスタブル・サドルの位置を基準にブリッジを接着しますので、仮固定しました。

13.ブリッジの裏に湯煎したHideGlue(ニカワ)を塗ります。
14.サドルをそっと接着位置に乗せます。

15.片方をクランプし、マスキングテープをあふれたHideGlueと共に取り除きます。
16.もう片方のクランプも行い、マスキングテープを外します。

17.位置決め用のアジャスタブルサドルを外します。
18.ブリッジ溝にあふれたHideGlueもふき取っておきます。

19.真ん中にもクランプを当てて、このまま数日間固着待ちします。
20.固着完了したブリッジです。

21.ブリッジ固定用のボルトを取り付けました。ボルトのカバーにはパールのインレイを使用します。
22.ブリッジ交換完了です!


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝に残った古い接着剤の跡を削りだしていきます。
6.フレット溝のエッジを傷つけないように溝のクリーニングを行います。

7.フレット打ち込みの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
10.フレットプレスを行うジグ達です。

11.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。
12.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.ジグをサウンドホールから入れていきます。

15.フレットをプレスします。
16.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。

17.2つ目のジグはこのように固定します。
18.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。

19.均一な圧力でプレスされるようにネジの締め具合を調整します。
20.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。

21.最終フレットです。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

23.打ち込み終わったフレットの端はこのように飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットし終えたフレット端です。
26.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

29.フレット端を整形しました。
30.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらに研磨タワシ(#600→#800)で研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.当て木を当てて軽くたたきます。
2.ナットを取り外しました。

3.古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルでネックとフィンガーボードの接触面の平面を削りだしていきます。
8.ナット位置にピッタリはまるように加工しました。

9.1弦側からもナットの接触状態を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。(O.H.さんのご希望により、1弦と6弦を心持ち内側にします)

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットができあがりました。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させておきます。このジグのおかげで弦を緩めたり張ったりすることが必要なくなりました。

23.ナットの弦溝を徐々に掘り下げていきます。削っては隙間を確認し、の繰り返しを行います。
24.6弦のナット高をギリギリまで下げました。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。

ブリッジピン穴加工

1.完全に固着された新しいブリッジです。ブリッジピン穴加工を行いましょう。
2.糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

3.糸鋸加工が終わったブリッジ・ピン穴です。
4.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。

5.ブリッジピン穴加工を終えました。
6.完成したサドルとブリッジです。