Martin D-45
戻る 東京都にお住まいのM.S.さんからMartin D-45のリペアご依頼をいただき、ネックリセット、フレット交換などを含むトータル・リペアを行いました。リペア後のギターを受け取られて、M.S.さんからとても暖かいメッセージが届きました。
ギター工房「オデッセイ」
代表 樋口英之様
リペアしていただいたD-45が、本夕、無事に帰還、待ちかねた持ち主と対面を果たしました。
非常に丁寧に仕上げてくださり、ありがとうございました。
ああこれが本来のD-45だよなと思わされる澄んだ残響と大音量。
取り急ぎチューニングを済ませた愛器を妻の前で弾いてみせたところ、妻がずいぶん大きな音がするギターねと驚いていました。
樋口様のゴッドハンドと、TUSQの性能が相まって、愛器の音量は明らかに豊かになりました。
チューニングもびしっと決まりますので、逆に言うと非常に精緻なチューニングが要求されるようになりました。
ギターというのはこれほど繊細なものなのだと、改めて感じています。
弦高もちょうどよく、弾きやすいです。
若かりし頃に黒澤楽器店で衝撃を受けて人生初の衝動買いをして以来、30余年。
あの日の感動がよみがえりました。
夜間なので、ピックでかき鳴らすような弾き方は控えて、ポールマッカートニーのJunkをつま弾きました。
今晩は愛器を枕元に置いて寝ます。
温かい直筆のお手紙もありがとうございました。
この1年、機械式時計をはじめ、身の回りの品々のメンテナンスが立て込み、手元不如意に陥りそうだと、眉を顰めている妻の説得が済み次第、近々に、YD-305のリペアもお願いするつもりです。
YD-305が潜在能力を覚醒させたときの音色をどうしても聴いてみたくなりました。
その節はよろしくお願いいたします。
末筆ながら、樋口様のご健勝と、貴社の一層のご発展をお祈り申し上げます。
M.S.
M.S.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。
リペア後のギターを試奏させていただいた時、ギターに被されていた何かが取り外されたような、そんなクリアかつダイナミックな音色を堪能させていただきました。
今回のリペアを通して「オーナー様に本当に愛されている幸せなギターなんだなぁ」と感じることが多くありました。
「枕元においてもらえるギター」・・・本当に素晴らしいと思います。
これからも蘇ったMartin D-45と一緒に素晴らしいギターライフをお送りください。
この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。
樋口様
D-45は、シリアル番号から推察すると1981年に製造されたようです。
1985年に黒澤楽器店にて中古で購入した当初は鈴が鳴るような美しい響きと豊かな音量がありました。
その後、久しぶりに弾いてみると、繊細な響きも音量も感じられなくなっていました。
7フレットにカポタストをはめてHere Comes The Sunを弾くときなどには、うまくチューニングできず、音が揃いません。
だいぶ音痴になっているようでした。
話が逸れますが、D-45を購入する前に、1975年製のS-Yairi YD-305を同年に新品で黒澤楽器店にて購入し弾いていました。
そのYD-305は、購入当初から新しい弦を張った直後こそマーチン似の響きを奏でてくれるのですが、僅か数日でポコポコしたこもったような音になってしまうという状況でした。
ギターというのはそういうものなのだろうと思っていましたが、その後出会ったマーチンや、比較的安価なギターでさえ、弦交換後数日で音質が顕著に劣化してしまうようなことはありませんでした。
2000年に黒澤楽器店でネック関連リペアをしてもらいましたが、音質が劣化して鳴らなくなるという持病は治りませんでした。
それからは、すぐに鳴らなくなるのはこの個体の特性なのだろうとあきらめて、弦も張らずに放置してあります。
プロではないのでギターを何本も持っている必要はないのですが、そのYD-305を手放していません。
このような症状でも樋口様のゴッドハンドにかかれば改善される可能性がありそうでしょうか。
そもそもどのような問題があるとこのような症状になるのか、樋口様ならば見当がつきますか。
仮に改善する見込みがあるとしても当時10万円で購入した安価なギターのリペアに数十万円をかける意味があるのだろうかとも考えてしまいますが。
お時間のあるときに樋口様の見解をお聞かせいただけるとありがたいです。
ギター工房オデッセイの樋口です。
ご連絡をいただき、ありがとうございました。
所要が立て込んでおり、お返事が遅くなり、申し訳ございません。
> そもそもどのような問題があるとこのような症状になるのか、樋口様ならば見当がつきますか。
「ポコポコしたこもったような音」のギターは数例拝見したことがあります。
この症状の原因はギターによって異なり、一概に「こうすれば治せる」ということは言えないのですが、ギターの音色は弦の振動を「ボディで共振させる」部分と「ネックから帰還させている」部分が合成されています。
従いましてボディとネックの接合状態が音色に大きく影響することは間違いありません。
ただ、接合状態が良くても、弦振動の伝搬が難しい個体が存在することも確かです。
私も全ての症状の原因が特定できる技術を持ち合わせておりませんので、「リペアしてみないとわからない」という気持ちが正直なところです。
ただ、リペアさせていただくからには弦振動を伝える全てのパーツ類が「隙間のない状態」になるように留意しながら作業を進めております。
> 仮に改善する見込みがあるとしても当時10万円で購入した安価なギターのリペアに数十万円をかける意味があるのだろうかとも考えてしまいますが。
(以下はギターリペアマンとしてではなく、ギタープレイヤーとしての考えです)
ギターの値打ちについて考えることがあるのですが、ギターは他の家具などの木製製品とは異なり、オーナー様の魂が住み着き、想い出を一緒に共有できる存在だと考えております。
特に入手してからの時間が長く過ぎたギターの値打ちは購入した際の「金額」ではなく、一緒に過ごした「時間」とオーナー様の「思い入れ」がその値打ちであると考えています。
(私も中学生の時に入手したYAMAKIギターを一緒の宝物としています)
そう考えると、リペアを行うための金額というのは、購入金額とは全く違う次元の数字ではないかと思います。
私のお客様にも学生時代に数万円で購入したギターを数十万円費やしてリペアされて、ご満足いただけている方が多くおられますし、逆に最近数十万円のギターを購入して数万円のリペアを行っても、すぐに手放されるお客様もおられます。
どちらのギターが幸せなのでしょうか?と考えてしまうこともあります。
大変長くなりましたが、思いつくことを記させていただきました。
ご参考になりましたら幸いです。
お忙しい中、非常に丁重なご返答を賜りありがとうございます。
10万円で買ったギターに対してどこまでのリペア料金を許容すべきかという話は甚だ愚問でした。
リペア専門家であられる樋口様に対して失礼極まる物言いだと恥じております。
おっしゃる通り、モノに対する価値は愛着や思い入れに比例するもので、「元値」から乖離することがあります。
胸に手を当ててみれば、YD-305を手放さずにいたのは愛着や思い入れに他なりません。
2000年に黒澤楽器店へ依頼したのはネックの順そりの修正とフレット調整でした。
当時の記憶は定かではないのですが、期間は1か月、費用は3~4万円程度でした。
樋口様がなさっている「ネックリセット」のようにネックを取り外すといった作業を伴ったかどうかわかりません。
YD-305のメンテナンス後も、マーチンの音を聴いてしまってからはもはやYD-305には戻れなくなったというのが正直なところです。
先ほど、樋口様のリペアファイルでYD-305の音響特性が向上したという事例を拝見しました。
前述した価値の話と同様に、音質を絶対評価することは難しいと思いますし、マーチンと比較すべきではないのかもしれませんが、もしYD-305に秘めた能力があるのならば樋口様のお力で覚醒させてほしいと考えております。
まずは、D-45の帰還を待とうと思います。
ありがとうございました。