ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson Dove

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三重県にお住まいのH.K.さんからGibson Doveのリペアご依頼をいただき、ネックリセット、トップ板ずれリペアなどを含むトータル・リペアを行いました。
最初、次のようなギターリペアのご相談をいただいておりました。

ギター工房オデッセイ様

Gibson Doveの修理に関してネットで検索していましたら、ギター工房オデッセイ様のサイトにたどり着きました。
修理は無理だろうとあきらめていましたが、何とかしてもらえそうだと思い、メールしました。
43年前に購入したGibson Doveですが、10年前に日本を留守にした時に弦を張ったまま保管してしまい、ネックがずれてしまいました。
15年ほど前に一度、アメリカのGibson社にてネックのそりの修理をしています。
三重県在住ですので、依頼品の送付にて見積もりをお願いしたいと思います。
どうすればよろしいでしょうか?

そしてリペア後のギターを受け取られて、H.K.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

樋口様

ギター、受け取りました。
修理、大変だった様子がうかがえます。大切に使わせていただきます。
もう30年以上もギターを弾いていなかったので、私の指の感覚が戻っていません。
中々本来の音が出せず、リハビリに時間がかかりそうです。
折角直していただいたので、しっかり練習していい音を出せるように頑張ります。
ありがとうございました。

H.K.

H.K.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア前のギターを受け取り、状態を確認させていただきながら、果たして演奏に耐える状態に戻すことが出来るだろうか、正直少し心配でした。
そのため、見積もり段階で「トップ板ずれ補修が強度確保できないと判断した場合、ボディ内にジャッキを残す可能性もあります。」というコメントを残させていただいた次第です。

リペアご依頼を頂戴して、ネックリセット工程のなかでネック取り外しを行った後、フィンガーボード下のトップ板が完全に剥離・分離していることを確認できた時点で、ようやく完全に楽器としてのギターに復活する確信を得ることが出来ました。

今回はかなり大がかりなリペアとなりましたが、リペア後の負荷試験でも強めの弦の張力に耐える強度を確保できたことを確認できた上に、試奏では凄まじい音色を奏でてくれるようになりました。

H.K.さんの「指のリハビリ(?)」が進んでいくと、リペア後のギターの潜在能力の大きさに驚かれるのではないかと思います。
今後の素敵なギターライフを楽しまれるよう、心からお祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

トップ板ずれリペア

1.リペア前のサウンドホール上部、フィンガーボードがトップ板に乗っている部分の様子です。
2.トップ板がフィンガーボードと一緒にサウンドホールにずれ込んでいます。

3.フィンガーボードをネックと一緒に外した状態で(ネックリセット工程の中で)トップ板とネックブロックの再接着を行います。
4.ボディ内フィンガーボード裏側の様子です。ずれ込んでいるトップ板はブレイシング材から剥離しているのがわかります。

5.ネックと一緒にフィンガーボードを取り外しました。
6.フィンガーボード裏側のトップ板は完全に浮いています。

7.トップ板割れ部分を取り外しました。
8.ネックブロックとトップ板も剥離しています。

9.ネックブロックを元に一に戻すため、ボディ内に入れる矯正用ジャッキを準備しました。
10.ジャッキでネックブロックを元の位置に戻します。

11.サウンドホール・ロゼッタとサウンドホール内側ラインを使って矯正状態を確保します。
12.ネックブロックとトップ板を接着します。

13.このまま固着を待ちます。ネックリセット工程(ネック取り付け角度調整以降)を再開します。
14.固着後のトップ板です。

15.ネックリセット工程(ネック取り付け角度調整以降)を再開します。
16.リペア後のサウンドホールです。

17.ボディ内もパッチ材で補修しました。
18.弦を張りました。弦のテンションに十分耐えられる強度を確保できました。

ネックリセット

ネック取り外し

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3.15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4.ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

フィンガーボード分離の様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.ジグを取り外してジョイント部に残った古い接着剤(ニカワ)をクリーニングしましょう。

別角度から見たネック取り外しの様子です。


15.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。
16.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


ネック調整

17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパーを挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.さらにネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


ネック再接合

33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


別角度からです。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。

ネックリセット後の様子です。


39.リセット後のネックヒール部です。
40.ネックとボディの密着度はギター全体からの出音の要です。

サドル溝再加工

1.オリジナルブリッジです。
2.ピッチずれが確認されるため、一旦埋木をしてサドル溝を加工し直します。

3.埋木用のエボニーを切り出しました。
4.溝にフィットするように加工しました。

5.上面とサイドを少しずつ削り取っていきます。
6.埋木を終えました。サドル溝を加工していきましょう。

7.サドル位置を書き写すためにマスキングテープを2重に貼ります。
8.サウンドホールにチューナー、ブリッジにイントネーターを取り付けます。

9.ピッチ調整を行い、イントネーターでサドル山位置を確認していきます。
10.サドル山位置をマスキングテープに書き込んでいきます。

11.サドル山位置を確定します。
12.弦高測定によって目標サドル高も記録しておきます

13.溝位置とサドル山ピーク位置を別々に記録しておきます。
14.サドル溝加工ジグを取り付けました。

15.トリマの位置決めを行っています。
16.サドル溝加工を行っています。

サドル溝加工を行っている様子です。


17.マスキングテープをはがします。
18.サドル溝加工を終えました。約2mmサドル溝が移動しました。サドル作製工程へ移りましょう。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.タングニッパでタング部をカットします。
16.タング部処理を終えたフレット端です。

17.第一のフレットプレス・ジグです。
18.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

19.ジグをサウンドホールから入れていきます。
20.ハンドルを回してフレットをプレスします。

21.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
22.2つ目のジグはこのように固定します。

23.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
24.順にプレスを進めていきます。

25.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
26.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


27.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
28.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

29.カットしたフレット端です。
30.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

31.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
32.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


33.整形されたフレット端です。
34.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

35.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
36.ボディもアクリル板でカバーしました。

37.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
38.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

39.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
40.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

41.さらにスチールウールで研磨を進めます。
42.最後はコンパウンドで磨き上げます。

43.プロテクタ類を外しましょう。
44.ピカピカのフレットになりました。

ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

埋木用プラグを切り出している様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.アクリル板を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着状態の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。

ブレイシング剥がれリペア

1.サウンドホールからボディ内を覗いています。
2.ボディ向かって右側一番下のブレイシングです。

3.浮き部分をマスキングテープで保護した後、タイトボンドを乗せてナイフでボンドを隙間に流し込んでいきます。
4.ジャッキで固定します。

5.ブレイシング材が一本はずれていましたので接着します。
6.ボディ内ブレイシング周囲をマスキングテープで保護します。

7.ジャッキで固定します。
8.このまま固着を待ちましょう。

ピックガード脱着

1.オリジナルピックガードです。経年収縮と浮きが見られますので、一旦取り外して再接着します。
2.端部分からナイフを挿入して行きます。

3.トップ板を傷つけないようにゆっくりナイフを進めていきます。
4.ピックガードが取り外せました。

5.接着面に両面接着シートを貼った後、周囲をカットします。
6.位置決めを行っています。

7.脱着完了です。
8.弦を張りました。