ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Eastman AR-605E/SB

戻る
福島県にお住まいのM.M.さんからEastman E-20/OM NaturalとEastman AR-605Eのリペアご依頼をいただきました。Eastman AR-605E/SBはフレット交換と、ピックガード脱着を含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、M.M.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ
樋口様

一昨日、無事に届きまして相方と一緒に一通りの確認をさせていただき、それぞれの愛機を弾いてみました。

・Eastman E-20/OM
まるでボディサイズが一回り大きくなったような豊かな鳴りに驚きました。
それでいて音抜け良さとレスポンスの良さがスポイルされておらず、元々の特性を生かしながらのアップグレードが成された、と実感致しました。
ボトムE弦のG音の音詰まりも見事に解消されており、弾いて聴いて気持ちのいいギターとなりました。

相方は余程気に入ったのか、顔を紅潮させながら無言でずっと弾いておりました(笑)

・Eastman AR-605E
アーチトップは鳴らないぐらいが丁度良い、的なちょっと捻くれた思いを胸にしてのピック選び、マイキング、アンプ選びでしたが、ヘッドからテールピースまで音が一気に伝わり、それがボディバックからお腹まで響いたのは衝撃でした。

フレット一つでこんなに音が変わるものなのか?
そんな疑問を胸に、生音で弾いてマイクを通して弾いて、アンプを通して弾き倒し「こりゃ全てのセッテングの見直しだな」とニヤニヤしながらつぶやく私を、相方はさぞ気持ちの悪い思いで見ていたことでしょう。

交換していただいたトーンの効き方も私のイメージ通りのもので満足でした。
このギターとまた少しづつ対話して一緒に年を経ていくのが喜びとなりました。

樋口さん見事なお仕事、本当にありがとうございました。

M.M.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア前は両ギターとも少し寂しげな音色でしたが、リペア後の試奏を行いながら私もこれだけの変貌をするものかと驚きました。
意外にも今回のリペアで一番難しかったのが、AR-605Eのピックガード取り付けでした。
オリジナルの固定パーツがほとんど破損状態でしたので、ローズウッド材から切り出したのですが、ピックアップがピックガードに固定されているため、ピックガードの取り付け角度によって、弦とピックアップの間隙が大きく変わりました。
ピックガードは比較的演奏時に指や手に触れる機会が多いので、固定する強度をある程度大きくしておかないといけないので、ローズウッド材による固定パーツの微妙な形状を確定するのに最も時間がかかりましたが、なんとか最適解を得られて良かったと思っています。

いずれにしましても、リペア後のギターにご満足いただけて、私もとても嬉しい気持ちでいっぱいです。
これからもM.M.さんの傍らでリペア後のギターが活躍することをお祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

11.タングニッパでタング部をカットします。
12.タング部処理を終えたフレット端です。

13.ボディ付近はフレットを打ち込みます。
14.左右を打ち込み、さらに中央部を軽く打ち込みます。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領で打ち込んでいきます。
16.最初のプレス・ジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.2つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

25.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
26.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


27.整形されたフレット端です。
28.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

29.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
30.ボディもアクリル板でカバーしました。

31.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
32.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

33.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
34.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

35.さらにスチールウールで研磨を進めます。
36.最後はコンパウンドで磨き上げます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.ナットはすでに外れていました。

3. ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピックガード脱着~コントロール部交換

1.リペア前のピックガード取り付け部の様子です。
2.ピックガードを取り外しました。

3.ピックガードを固定しているジャンクションですが、割れが進んでいるので新規作製交換します。
4.また、ボリューム・トーンコントロール部も不安定なので新しいものと交換します。

5.オリジナル・ジャンクション部を取り外しました。
6.ローズウッド材から新しいものを切り出しました。

7.新しいジャンクションを取り付けました。
8.ボリューム・トーンコントロール部はこのパーツと交換します。

9.あたら煮取り付けたボリューム・トーンコントロール部です。
10.ピックガードを固定しました。