ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Morris W-80

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Morris W-80
三重県にお住まいのS.K.さんからMorris W-80のリペアご依頼をいただきフレット交換、ブリッジプレート・リペア、弦周りのTUSQ化、およびピックアップ取り付けを行いました。
リペア後のギターを受け取られてS.K.さんから、とても暖かいメッセージが届きました。

樋口様

お世話になっております。
ギターは無事の到着しておりましたが、
仕事関係でギターを弾くことができず、
昨日確認させていただきました。

この度は、古いギターのリペアをしていただき
本当に感謝しています。

前にもお話をさせていただきましたが、
このギターは中学1年生の時に、父親に
買ってもらいました。42年前になります。
ギターを弾いてきたことで、
自分の人生を豊にしてくれた楽器だと
思っています。

私には、二人の娘がいます。
二人ともギターは弾きませんでしたが、
吹奏楽部に所属し、演奏が好きになり、
演奏を通して、色々な経験をつみ、
楽器が大切な友人になりました。

娘たちが楽器を演奏するきっかけになったのも、
幼い頃から、ギターを演奏する私の影響だと
娘たちが話していました。

そのきっかけになったは、リペアしていただいた
このギターだと思っています。


古いギターゆえ、また私の保管が至らず、 リペアするに際に、色々大変だったのではないかと
思っています。

これまでリペアの作業工程をHPで拝見させていただきますと
中古品の修理なので、いろいろ細心の注意を
払っている様子が伝わってきました。
私のギターにも、同様に心血を注いでいただいたことに
感謝したします。

フレット交換のおかげで、音程も良くなり、フレットの
サビもなく綺麗になり、演奏がしやすくなりました。

ブリッジプレート・リペア、弦周りのTUSQ化のおかげで
これまでの音質の違いが歴然と違う感じがしました。
サスティンもよく、音の響き(エコー感)が感動ものに
素晴らしくなりました。
当時の販売価格は8万円でしたが、現在販売している
同価格帯のギターを試奏しても、同じような音質は
感じられないと思います。
リペアの相談をさせていただいた時に、
樋口様の推察どおりの音質になったと感じております。

ピックアップもしっかり装着いただき、アンプに繋いでみると
ピックアップ本体の性能もありますが、生音が良いので、
輪郭がはっきりした音になっていると感じます。

最後に、何度も私のわがままに真摯に対応していただき、
本当にありがとうございます。
これからもまたリペアのご相談をさせていただきますので、
どうぞよろしくお願いいたします。

S.K.

S.K.さん、とても暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

これまでMorris Wシリーズを数本リペアさせていただき、リペア前後の劇的な変貌ぶりに驚かされておりました。
今回もリペア後の試奏では、澄んだ音色を堪能させていただきました。
仰るとおり現在において、このレベルの音色のギターを入手するには非常に難しいと思います。
まさにジャパニーズビンテージの底力、実力を感じざるを得ません。
リペア後のギターにご満足いただけて私もとても嬉しい気持ちでいっぱいです。

これからもご家族と一緒に音を楽しんでください。
今回リペアさせていただいたギターもその和には入れてとても嬉しいのではないかと思います。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

11.タングニッパでタング部をカットします。
12.タング部処理を終えたフレット端です。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
16.ハンドルを回してフレットをプレスします。

17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
18.2つ目のジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


29.整形されたフレット端です。
30.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。

ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

プラグを切り出している様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.アクリル板を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて取り外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。

ピックアップ取り付け

1.ピックアップを取り付けます。
2.L.R.Baggs社製のAnthemシステムです。

3.ブリッジ上にアンダーサドルピエゾ素子を封入します。
4.ブリッジプレートにマイクを取り付けます。

5.さらにサウンドホールにプリアンプブロックを取り付けます。
6.エンドピンジャックを取り付けました。