ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson J-50

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Gibson J-50
栃木県にお住まいのF.M.さんからGibson J-50のリペアご依頼をいただき、フレット交換、アジャスタブルサドル・スロット化、ブリッジプレート・リペア、弦周りのTUSQ化を行いました。
リペア後のギターを受け取られて、F.M.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

樋口様

金曜日にギター受け取りました。
ます始めに、本当に丁寧なお仕事でリペアして戴き、ありがとうございました。
リペアファイルの内容も拝見いたしました。

色々な側面からリペア頂いた状態を確認させて戴きました。

最初に質問ですが、今回張ってあるのはフォスファーブロンズ弦でしょうか?音的にはそう感じました。
また、アジャスタブル部分に埋めてあるブリッジは取り外し可能でしょうか?(元のアジャスタブルブリッジにも戻せる形でしょうか?)

まず最初にチューニングをした時、簡単に全ての弦のチューニングがピッタリ合うことにびっくりしました。
これまでは特に低音弦で、色々な倍音が含まれていたのかなと感じました。
ナットの形状と固定サドルへの変更がポイントでしょうか。

弾き始めてすぐ、各弦の音が綺麗に聞こえると同時に互いによく共鳴していることが分かりました。
そして音量はリペア前の何割か増した感じでよく鳴っています。アルペジオ、コードストローク、いずれも気持ちよいです。
高いフレットの部分まで、ピッチがすごく正確です。カポを付けても、それは全く同じです。これには一番びっくり! 新しいフレットとともに、主役はサドルのピッチ調整の正確さですね。本当に素晴らしいです。

貴殿曰く”音響的には問題のある”アジャスタブルブリッジを通常サドルに交換したことについて、音の変化としては 実は小生の予想通りでありました。
音の鳴り、ピッチなど、音響的には固定サドルにしてもちろん良くなったと思いますが、”音楽的”にどうかという点 では、最終的にはプレーヤーの好み次第かなと感じます。
今回のブリッジ変更で、よくなった点は①ピッチの正確さ、②各弦の鳴り、でしたが、一方で③コードのまとまり と言う点ではアジャスタブルに軍配が上がると思います。
アジャスタブルブリッジは鳴りを犠牲にしながら、コード音のまとまり=倍音を含めた共鳴を優先していると感じます。
60年代後半のギブソンが、あれだけ大きな手の多いアメリカで、あれだけ極細のネックを採用しているのも、同じ理由 なのではないかと思います。正反対の考え方が、マーチンの12フレットジョイントの幅広ネックですよね。

今回の変更で、弾き語りを中心に小生のJ-50がより幅広い場面に使いやすい一本になったことは間違いありません。
一方で、バンドサウンドに入った場合には、アジャスタブルブリッジのジャキジャキストロークの音の抜けも捨てがたいのかもしれません。これは、これから小生にて実験したいと思います。
上に書いたように、ブリッジ取り外し可能であれば、場合によって使い分けの実験をしてみようと思っています。
そう言う意味では、アジャスタブルブリッジで、今回のような正確なピッチの出るものを同時に作って貰えばよかったかなと思いました。

長々と書きましたが、結論としては、予想通りにとても良いリペアをしていただいたと思い、大変感謝しております。
また機会あれば依頼しようと思っています。
それでは。

F.M.

F.M.さん、とても暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア前はモコッとしたような音色でしたが、今回のリペアを行うことで箱鳴り感が増して、チューニング中にヘッド部ペグまで弦の振動を感じることが出来ました。
ギター全体から音を発しているなぁ、とビンテージGibsonの魅力を感じた次第です。

なお、アジャスタブルサドル溝の埋木は取り外し可能ですので、お好みに応じてアジャスタブルサドルを取り付けてください。
また、今回張らせていただいた弦は仰るとおり、PhosphorBronze弦です。

これからも本来の音色を取り戻したGibson J-50とともに素敵なギターライフをお送りください。
蛇足とはなりますが、TUSQ素材の効果で弦もメーカーや素材によって音色を楽しむことが出来ます。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

11.第一のフレットプレス・ジグです。
12.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

13.ジグをサウンドホールから入れていきます。
14.ハンドルを回してフレットをプレスします。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
16.2つ目のジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

25.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
26.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


27.整形されたフレット端です。
28.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

29.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
30.ボディもアクリル板でカバーしました。

31.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
32.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

33.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
34.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

35.さらにスチールウールで研磨を進めます。
36.最後はコンパウンドで磨き上げます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。

アジャスタブル・サドル・スロット化

1.アジャスタブルサドルです。
2.特徴的な外観ですが、ギターの音響特性的には極めて問題のある構造になっています。

3.一旦サドル溝を埋木してスロットサドル化による音響特性改善を行います。
4.サドルを取り外しました。溝の下に接着剤が残っています。

5.底面をクリーニングしました。
6.サドル溝より少し大きめにローズウッド材を切り出しました。

7.サドルスロット・サイズに合わせてピッタリのスラブを切り出しました。
8.ブリッジ上面に合わせて切り取りました。

9.さらに調整を行い、ブリッジ上面ギリギリまで埋木を削りました。
10.サドル位置記録用のマスキングテープを貼りました。

11.ブリッジにイントネーターを取り付け、サウンドホールにチューナーを付けました。
12.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

13.サドル山位置とサドル溝位置を重ねていたマスキングテープに書き込んでおきます。
14.サドル溝加工ジグを取り付けました。

15.トリマのビット先端がサドル溝をなぞるように位置を微調整します。
16.サドル溝を掘っています。

サドル溝加工ジグとトリマで溝加工を行っている様子です。


17.マスキングテープを剥がします。
18.ジグも取り外し、サドルスロット化ができました。あとはサドル作製を行いましょう。

ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

プラグを切り出している様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.アクリル板を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.ナットはすでに外れていました。

3. ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
16.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

17.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
18.弦高調整前のナットです。

19.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
20.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

21.ナット高調整前の弦溝です。
22.弦高調整後のナット弦溝です。

23.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
24.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。