ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin OM-42

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岡山県にお住まいのK.N.さんからMartin OM-42のリペアご依頼をいただきネック元起き現象が見られたため、ネックリセット、フレット交換などを含むトータル・リペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、K.N.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ 樋口様

お世話になります。
Martin OM-42をリペアーして頂いたK.N.です。
綺麗に細部までリペアーしてもらいありがとうございました。
弾いてみた感想ですが、全体に各弦の音がハッキリと聞こえる様になりました。(これが本当のマーチンの鈴なりの音かと感動しました)
ハイポジションのセーハも押さえ易くなりました。
又、チューニングもし易くなりました。

思い切って樋口様の、ご提案の通りのリペアーをして正解でした。
色々な質問にも丁寧にお答えくださり、安心して依頼出来ました。
これからも、このギターを大切に弾いていこうと思います。

K.N.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア前のギターを受け取り、試奏させていただいた際にまず感じたのが、籠もりがちの音色である事で、どのポジションも高音成分が少なく、ボディの箱鳴り感が少ないことでした。
また、ミドル~ハイフレットの弦高が高く、フィンガーピッキングには少しつらい状態だと感じました。
さらに詳細にギターの状態を確認させていただくと、ネックが元起きしていることが判明しましたので、ネックリセットを含むトータルリペアをご提案させていただいた次第です。

今回のネックリセットの効果は弦高低下は勿論ですが、ボディとネックの接合状態改善による音響特性の向上が顕著に見られたことです。リペア前に聴くことが出来なかった「鈴鳴り音」がとても心地よく、箱鳴り感も相まって、素晴らしいギターに蘇ったと感じました。

リペア後のギターにご満足いただけて私もとても嬉しい気持ちでいっぱいです。
これからも本来の音色を取り戻したOM-42とともに素晴らしいギターライフを送られることをお祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

ネックリセット

ネック取り外し

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3.15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4.ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

フィンガーボード分離の様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.ジグを取り外してジョイント部に残った古い接着剤(ニカワ)をクリーニングしましょう。

別角度から見たネック取り外しの様子です。


15.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。
16.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


ネック調整

17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパーを挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.さらにネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


ネック再接合

33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


別角度からです。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。

ネックリセット後の様子です。


39.リセット後のネックヒール部です。
40.ネックとボディの密着度はギター全体からの出音の要です。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.タングニッパでタング部をカットします。
16.タング部処理を終えたフレット端です。

17.第一のフレットプレス・ジグです。
18.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

19.ジグをサウンドホールから入れていきます。
20.ハンドルを回してフレットをプレスします。

21.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
22.2つ目のジグはこのように固定します。

23.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
24.順にプレスを進めていきます。

25.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
26.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


27.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
28.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

29.カットしたフレット端です。
30.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

31.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
32.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


33.整形されたフレット端です。
34.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

35.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
36.ボディもアクリル板でカバーしました。

37.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
38.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

39.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
40.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

41.さらにスチールウールで研磨を進めます。
42.最後はコンパウンドで磨き上げます。

43.プロテクタ類を外しましょう。
44.ピカピカのフレットになりました。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.ナット溝が深いので切削除去を行います。

3.ミニルーターでナットを削り取っていきます。
4.いくつかのフェーズに分けて少しずつ削っていきます。

5.ギリギリまで掘り進みました。
6.残りは割って取り除きます。

ナット取り外しの様子です。


7. ナットを取り外したナット溝です。
8.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

9.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
10.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

11.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
12.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

13.1弦側からもナットの密着を確認します。
14.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

15.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
16.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

17.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
18.ナット上部を切り取りました。

19.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
20.ナットらしくなってきました。

21.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
22.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

23.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
24.弦高調整前のナットです。

25.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
26.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

27.ナット高調整前の弦溝です。
28.弦高調整後のナット弦溝です。

29.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
30.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。

バインディング剥がれリペア

1.トップ板ウェスト部です。
2.経年収縮によるバインディング剥がれが見られます。

3.バック・バインディングにも剥がれが見られます。
4.再接着を行い固着を待ちます。

5.フィンガーボード端のバインディングです。
6.こちらも剥がれが見られます。

7.バインディング全体的に劣化が見られます。
8.接着~クランプを行います。

9.ネック側バインディング剥がれもリペアしました。
10.補修後のバインディングです。

11.フィンガーボードです。
12.補修跡はほとんど目立たなくなりました。

ペグ脱着

1.オリジナルヘッド部です。
2.ペグブッシュに浮きが見られます。

3.浮きは全体に広がっており、チューニング不安定の原因になっていますので、ペグ脱着を行ってブッシュを再固定しましょう。
4.ペグを取り外しました。

5.ペグブッシュをジグで固定していきます。
6.しっかりと奥まで挿入します。

7.ブッシュ取り付け後ペグ本体を取り付けます。
8.全てのペグを取り付けました。

9.脱着後のペグです。
10.ブッシュはしっかりと固定されました。

11.弦を張りました。
12.安定したチューニングを行えるようになりました。