ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Kawase Master M-100

戻る
新潟県にお住まいのT.S.さんからKawase Master M-100のリペアご依頼をいただき、フレット交換、バック割れリペア、サドル溝再加工を含むトータルリペアを行いました。リペア後のギターを受け取られて、T.S.さんから暖かいメッセージが届きました。

オデッセイ樋口様

ご報告遅くなりまして失礼しました。

リペアしていただいたKAWASEマスター、毎日弾いております。
素晴らしい出来上がりです。ありがとうございます。

押しも押されもしない これぞジャパン・ヴィンテージといえるギターになって帰ってきました。
感激です。

弾きやすく、音色が芯があり、音が前に出ます。チューニングを念入りにしてコードのハーモニックスを叩くと目の前の空間から音が湧きあがり広がります。
音程の確かさと さらに伸びたサスティーンのおかげでしょう。

サドル位置改善のためのブリッジの埋め木は目を凝らさなければわからない程、驚きの仕上がりです。
素晴らしいリペア ありがとうございました。

またメンテナンス、他のギターのリペアなど、よろしくお願いいたします。

         T.S. 拝

T.S.さん、とても暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア前のギターはとても悲しい状態でしたので、どこまで蘇らせられるか、少し不安がありましたが、1970~80年代の日本製のギターに見られる「リペア後の激変」の典型的な変貌を遂げてくれました。

特にバックボードの割れは長さが比較的長かったので、これをリペアすることにより、そこから漏れ出ていた振動を防げるようになったことと、ボディ全体が堅固になったことで素晴らしい音色のギターに生まれ変わりました。
リペア後のギターにご満足いただけて、私もとても嬉しい気持ちで一杯です。

これからもThe Japanese Vintage Guitarとともに素晴らしいギターライフをお送りください。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

11.タングニッパでタング部をカットします。
12.タング部処理を終えたフレット端です。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
16.ハンドルを回してフレットをプレスします。
17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
18.2つ目のジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


29.整形されたフレット端です。
30.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


サドル溝再加工

1.オリジナルブリッジです。サドル位置移動することでフレット音痴解消を行います。
2.オリジナルサドル溝を埋木するためエボニー材を切り出しました。

3.オリジナル・サドルスロットにぴったりはまるようになりました。
4.ブリッジ上面より少し高く切り出し、削っていきます。

5.埋木を終えました。
6.サドル位置を書き写すためにマスキングテープを2重に貼ります。

7.サウンドホールにチューナー、ブリッジにイントネーターを取り付けます。
8.サドル山位置を書き写していきます。

9.サドル溝位置を書き込みます。
10.ピッチ調整時に確認したサドル高を書き込んでいきます。

11.サドル溝加工ジグを取り付けました。
12.位置決めを行っています。

トリマでサドル溝再加工を行っている様子です。


13.トリミングを終えたブリッジです。
14.マスキングテープをはがします。

15.オリジナルよりも約2mmボトム側へサドル位置が移動しました。
16.サドル作製工程へ移りましょう。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.ロングサドル・エッジスロープの加工を行います。
16.半丸ヤスリでスロープを粗く削り取ります。

17.ブリッジ面をマスキングテープで保護します。
18.粗削りを行ったサドルを取り付けました。

19.ミニルーターに円錐ビットを取り付けて少しずつブリッジ面に合うようサドルスロープを低くしていきます。
20.ルーター加工を終えたところです。マスキングテープを少しこするところで止めました。

ロングサドル端整形の様子です。


21.スロープ加工後のエッジです。
22.ブリッジ面とほとんどツライチになっています。

23.サドルを取り付けました。
24.完成したブリッジとサドルです。


バック割れリペア

1.バックボードです。
2.割れが見られます。

3.サウンドホールから覗いた様子です。
4.割れ部分が確認できます。

5.割れ補修の前にブレイシング浮きを補強します。
6.浮き部分にマスキングテープを貼って保護した後、ボンドを乗せます。

7.ナイフでボンドを隙間に流し込んで行きます。
8.クランプして固着を待ちましょう。

9.バック・クラック補修のため、このジグを使用します。、
10.パッチ材をジグと一緒にボディ内に入れていきます。

11.外側からパッチ材を引き込むようにレバーを回します。
12.固着待ちのストリップ・パッチ材です(最も大きなクラック部分にはストリップ・パッチ材を使用します)。

13.クラックに沿ってパッチ材を接着していきます。
14.ボディ奥に接着したパッチ材です。

ペグ交換

1.オリジナルペグです。
2.経年消耗のため、ガタ、バックラッシュが見られるため交換します。

3.取り外しました。
4.新しいペグを取り付けていきます。

5.取り付け完了しました。
6.弦を張り、スムーズなチューニングができることを確認しました。