ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

GUILD D55

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大阪府にお住まいのT.T.さんからGUILD D55のリペアご依頼をいただきました。ネック元起きが見られたため、ネックリセット、フレット交換を含むトータル・リペアを行いました。リペア後のギターをお引き取りにお越しになった後、ご帰宅後T.T.さんから暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ 樋口様

T.T.です。
この度は大変お世話になり、ありがとうございました。

家に帰るなり、すぐさまギターを弾きましたが、弾きやすさには大変驚きました。
私も数十年ギターを触ってきましたが、『今までで一番弾きやすいなぁ』と感心しました。

それと、色々な人のコメントにもある様に、一音一音がハッキリしてて、修理して良かったと実感しています。
リペアファイルを見ても、これだけ手を施して頂いて感謝、感心した次第です。

私が言うのも何なんですが、いつまでもお身体に気を付けて、この様なリペアを続けて下さい。
ありがとうございました。

敬具

T.T.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア後のギターにご満足いただけて、私も本当に嬉しい気持ちで一杯です。
こうやって一本一本ギターをリペアさせていただき、その結果を喜んでいただけるという、この仕事に巡り会えたこととギター・オーナー皆様とのご縁にいつも心から感謝しております。

私は今年(2016年)還暦を迎えますが、はやり体力、集中力、精神力の衰えを感じることが多々あります。
そんなとき、お客様からいただく温かいお言葉は、明日への活力となっており、モチベーションは物理的な衰えをカバーしてくれるんだ、ということを実感しています。

T.T.さんにおかれましては蘇ったD55とともに、素晴らしいギターライフをお送りいただき、素敵な音色を奏で続けてください。心よりお祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3.15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4.ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

ネックポケット・アクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

フィンガーボード分離の様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.ジグを取り外してジョイント部に残った古い接着剤(ニカワ)をクリーニングしましょう。

別角度から見たネック取り外しの様子です。


15.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。
16.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.さらにネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ネック取り付け角度も確認します。

33.フィンガーボード面がブリッジ上面を狙うようにヒール部調整を行います。
34.ネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


35.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
36.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

37.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
38.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


別角度からです。


39.マスキングテープをはがします。
40.このまま固着を待ちましょう。

ネックリセット後の様子です。


41.ネックリセット後にオリジナルヒールキャップを付けてみました。
42.約1mmヒール部を削りました。ヒールキャップも下部分を削って接着します。

43.ボディとネックの接合の様子です。
44.ほぼ完全に密着しています。ギター全体から奏でられる音色が楽しみです。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.タングニッパでタング部をカットします。
18.タング部処理を終えたフレット端です。

19.ジグをサウンドホールから入れていきます。
20.ハンドルを回してフレットをプレスします。

21.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
22.2つ目のジグはこのように固定します。

23.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
24.順にプレスを進めていきます。

25.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
26.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


27.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
28.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

29.カットしたフレット端です。
30.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

31.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
32.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


33.整形されたフレット端です。
34.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

35.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
36.ボディもアクリル板でカバーしました。

37.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
38.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

39.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
40.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

41.さらにスチールウールで研磨を進めます。
42.最後はコンパウンドで磨き上げます。

43.プロテクタ類を外しましょう。
44.ピカピカのフレットになりました。

ナット交換

1. オリジナルナットです。ナット溝が深いので切削除去を行います。
2.ミニルーターにジグとストレートビットを取り付けました。

3.ナットを切削していきます。
4.途中まで削ったナットを横から見た様子です。

5.ナット溝底ギリギリまで切削しました。
6.当て木を当ててコンとたたいて外します。

7.残った部分を取り除いていきます。
8.大部分を取り除きました。

ナット取り外しの様子です。


9. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
10.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

11.クリーニング完了したナット溝です。
12.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

13.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
14.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

15.1弦側からもナットの密着を確認します。
16.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

17.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
18.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

19.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
20.ナット上部を切り取りました。

21.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
22.ナットらしくなってきました。

23.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
24.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

25.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
26.弦高調整前のナットです。

27.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
28.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

29.ナット高調整前の弦溝です。
30.弦高調整後のナット弦溝です。

31.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
32.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

サドル溝再加工

1.オリジナルブリッジです。サドル位置移動することでフレット音痴解消を行います。
2.オリジナルサドル溝を埋木するためエボニー材を切り出しました。

3.オリジナル・サドルスロットにぴったりはまるようになりました。
4.ブリッジ上面より少し高く切り出し、削っていきます。

5.埋木を終えました。
6.サドル位置を書き写すためにマスキングテープを2重に貼りました。

7.サウンドホールにチューナー、ブリッジにイントネーターを取り付けます。
8.サドル山位置を書き写していきます。

9.サドル溝位置を書き込みます。
10.ピッチ調整時に確認したサドルピーク位置も書き込んでいきます。

11.サドル溝加工ジグを取り付けました。
12.位置決めを行っています。

トリマでサドル溝再加工を行っている様子です。


13.新しいサドル溝を掘っています。
14.マスキングテープをはがします。

15.オリジナルよりも約1mmボトム側へサドル位置が移動しました。
16.サドル作製工程へ移りましょう。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。

ブレイシング剥がれリペア

1.ボディ内の様子です。
2.バックボード・ブレイシングが浮いています。

3.浮き部分にマスキングテープを貼り、その上にタイトボンドを乗せました。
4.ブレイシング浮きの隙間にナイフでボンドを流し込んで行きます。

5.浮き部分に同様の処置を行っていきます。
6.ジャッキで固定して固着するのを待ちます。