ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Epiphone EC30 Madrid

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千葉県にお住まいのK.I.さんからEpiphone EC-30 MadridとGibson SouthernJumboのリペアご依頼をいただきました。Epiphone EC-30 Madridはネックリセット、ブリッジ脱着を含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、とても勇気づけられる、暖かいメッセージが届きました。

樋口様

お世話になっています。昨日2本のギターを受け取りました。

初めてギターを買った時のようにわくわくしながらケースを開け、早速チューニングし、弾いてみました。

Epiphone EC-30 Madridは、ネックリセットのおかげで弦高が下がり、とても弾きやすくなりました。
弦高が高い以前の状態のときは、無理に弦を抑えつけて音を出している感じでしたが、リペア後は軽いタッチで音を出せるので、ストレスなく弾けます。
音もとてもまろやかな感じで、いつまでも弾いていたくなります。
クラシックギターの音も、やはりいいものですね。
これから先、秋の夜長が楽しめそうです。

Gibson SouthernJumboは、大変面倒な作業をお願いしてしまいましたが、しっかりとアジャスタブルサドルでも演奏できるようになり満足しています。発送時に張っていただいた弦で演奏したところ、低音の大きさが以前よりも目立ちました。弦がいつもよりも太いこともあるのでしょうが、それでも音がしっかりと前に出ているような気がしました。
普段使用している弦に張り替え、アジャスタブルサドルにして弾いてみました。
よく言われているようなジャキジャキ感があるにもかかわらずサスティーンもほどよくあり、この音がかなり気に入りました。
音もさることながら、指板調整やリフレット、ナットやサドルの調整で、ここまでしゃっきりと、まるで新品のような演奏性になることに驚いています。
これも、樋口様のリペア技術の成せるものかと思っています。

2本とも一応ヴィンテージギターということになると思いますが、状態が悪くボロボロで、リペアしてまで使うべきかどうか迷ったこともありました。
ですが、リペアによって生まれ変わり、さらに愛着がわきました。
樋口様にリペアをお願いしてよかったです。

最後になりますが、わたしのわがままを聞いてくださり、ありがとうございました。
この2本とともに、これからも演奏を楽しんでいきたいと思います。

まだまだ暑い日が続きます。お体に気をつけて、ギターライフを楽しむ方々のために引き続きご尽力ください。

K.I.

K.I.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

今回のギターリペアは私にとってもとても想い入れ深い仕事の一つとなりました。
最初、2本のギターを受け取ったときから、果たしてこのギターをリペアすることが出来るのだろうか?
ひょっとして自分の技術以上のことを求められているのではないだろうか?
など、いつも不安を抱えながらの作業でしたが、K.I.さんにご確認、ご相談をさせていただきながら、常に明確なご指示とご回答をいただけて、一筋の光を信じながら進めさせていただいた次第です。

Epiphone EC30 Madridはネックリセット時に使用した蒸気による影響がとても心配でしたが、予想通りサウンドホール・ロゼッタシール劣化促進が見られ、ご相談申し上げた際、


ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

フィンガーボード分離の様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

15.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
16.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.そしてネックとボディの接合部(12フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。


ブリッジ脱着

1.ブリッジボトム側が全体に浮いています。
2.浮き部分が広いので一旦ブリッジを外して再接着します。

3.ブリッジにラバーヒーターを乗せます。
4.ヒーターをクランプして通電します。

5.温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。
6.加温後、ブリッジ接着面にナイフを挿入していきます。

7.ブリッジを取り外しました。
8.接着面に古い接着剤が残っています。

ブリッジ取り外しの様子です。


9.接着面をクリーニングします。
10.ブリッジ底面もクリーニングします。

11.クリーニングを終えました。
12.マスキングテープで接着面周囲を保護しました。

13.接着面に湯煎したニカワを塗っていきます。
14.接着面全体に薄くのばしていきます。

ブリッジ再接着の様子です。


15.ブリッジをボディにそっと乗せます。
16.クランプした後、溢れたニカワを拭き取っていきます。

17.マスキングテープを剥がしていきます。
18.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにローズウッド片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わったフレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フィンガーボードがフラットであることを確認します。

13.フレットベンダーでフレットに微妙なアールをつけていきます。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.先端ビット(フラット)をジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.ハンドルを回してフレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


31.整形されたフレット端です。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらにスチールウールで研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
22.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にフレット片を取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、フレット片のサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.完成したサドルです。