ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

KALAMAZOO KG-11

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愛知県にお住まいのH.K.さんからKALAMAZOO KG-11のリペアご依頼をいただき、ネックリセットを含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、H.K.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

早速弾いてみました。
先ずは,5フレットでAコード。
指がフレットに吸い付きました。
これです,この感触です,求めていた感覚でした。
やっと「極域の弦高」を体験できました。
感動しました。
本当にありがとうございました。
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●私が何故「弦高」にこだわっているのか,少し書かせて下さい。
話は「40数年前」に遡ります。

私がギターに関心を持ったのは,映画「若大将シリーズ」に影響を受けたからです。特に「海の若大将」や「エレキの若大将」の中で「加山雄三」がギターを弾く姿にどれほど憧れたか分かりません。

当時中学生だった私はギターが欲しくてたまりませんでしたが,買ってもらえるような状況ではありませんでしたので,1200円のヤマハの  ウクレレに甘んじておりました。

ところが幸いなことに,中学校の音楽室に「ガットギター」が1本備えて  あることを知ったのです。以来私は,昼休み時間になると毎日のように音楽室に通っていました。

その時はギターを「弾く」というよりも「触る」と言った程度でしたが…。

それから「加山雄三」「ヴェンチャーズ」「寺内タケシ」に夢中になり,その流れから高校に入ると「チェット・アトキンス」に傾倒し,ここ数年は「トミー・エマニュエル」に魅了され続けております。

当時,音楽室に備えてあったギターは「とても弾きにくかった」ことを覚えて  います。「弦高」がとても高かったので,指にかなりの力を入れて「弦」を  「フレット」に押さえつて音を出していました。
今から思えば,「5フレットでAコード」を押さえることなんて不可能に  近かったことでしょう。

そんなこともあり,「ギターを始めてすぐに挫折してしまう人達の多くは,不運にも弦高の高いギターと出会ってしまったからではないだろうか?」と思うようになったのです。

初めてギターを弾く人達に相応しいギターは,「音の良いギター」ではなく,  とにかく「弾きやすいギター(押さえやすいギター)」だと思っています。

3年ほど前,「トミー・エマニュエル」と話をする機会がありましたので,  以下のことを尋ねてみました。

「ここに2本のギターがあります。
1本は,凄く音は良いのですが,少し弾きにくいギター。
もう1本は,音は悪いけれど,とても弾きやすいギター。
もしここに今からギターを習い始める人がいたとしたら,
あなたならどちらのギターを薦めますか?」って。

そしたら即座に「トミー」は答えてくれました。
「もちろん弾き易いギターだよ」

「この答えが帰ってくるのは当たり前」と言ってしまえばそれまでですが,私は「弾き易さ」が1番というスタンスでしたので,「我が意を得たり」と小躍りしました。
余談ですが,その時に「トミー」はこうも言っていました。

「私はいろんな人にGibson J-45を薦めているんだよ。 ギター製作者達にもGibson J-45を研究するように言っているんだ。」私はまだ「Gibson J-45」に触れたことがありませんので,そこら辺の意味はよく分かりませんでしたが,色々と学ぶところは多いようです。

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●今回「樋口」さんにリペアして頂いた「Kalamazoo」を弾いて,「弾き易いギターとはこのギターのことを言うんだ」と初めて実感することができました。
恐らく,現時点で「世界中で一番弾きやすいギター」と言っても良いのではないでしょうか。

この「KALAMZAZOO」ならば,例え「トミー・エマニュエル」が弾いたとしても満足してもらえることでしょう。
今回は,私の「KALAMZAZOO」に魂を入れて頂きまして,本当にありがとうございました。とことん弾き込みたいと思います。

H.K.さん、とても暖かいメッセージをいただき、ありがとうございました。

H.K.さんからのメール文面を拝読させていただいて、私も中学生時代を思い出しました。 と同時に、ギターは想い入れを込めれば込めるほどに人生の伴侶となっていくことを強く感じました。

今回リペアさせていただいたKALAMAZOO KG-11は、初めて試奏させていたいたときに その弦高の高さを強く感じてネックリセットの必要性を確認するまでには時間は長くかかりませんでした。
ただ1936年製という経年の長さと、ボディ内部にも問題が確認できたため、 果たしてネックリセットに耐えられるギターなのかどうか、 さらにネックリセットに対応しているギターなのかどうか、 判断するための工数が比較的多めに必要でした。

リペアを開始してからは、イメージを膨らませ、ひたすら自分を信じて作業を進めてきました。
「弾きやすい超ビンテージギター」という当初のイメージ通りに蘇らせることが出来て、本当に良かったです。
また、一リペアマンである私へのご信頼をいただけたこと、 そしてとても貴重なお仕事の機会を与えてくださったことに心より感謝しております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

フィンガーボード分離の様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

15.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
16.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにローズウッド片を丸く削ります。
4.ドリル穴にローズウッド材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.ハンドルを回してフレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


31.整形されたフレット端です。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。

35.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。
36.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらにスチール・ウールで研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナット溝が深いので切削除去を行います。

3. ドレメル・ルーターにジグを取り付けました。
4.ストレートビットで切削します。

5. 切削粉吸引用ダクトを取り付けて切削していきます。
6.最初の切削パスを行った後のナットです。

7.数回のパスで徐々に溝を掘り下げていきます。
8.ギリギリまで掘り下げました。

ナット取り外しの様子です。


9. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
10.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

11.クリーニング完了したナット溝です。
12.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

13.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
14.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

15.1弦側からもナットの密着を確認します。
16.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

17.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
18.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

19.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
20.ナット上部を切り取りました。

21.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
22.ナットらしくなってきました。

23.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
24.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

25.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
26.弦高調整前のナットです。

27.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
28.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

29.ナット高調整前の弦溝です。
30.弦高調整後のナット弦溝です。

31.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
32.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.ロングサドルのエッジスロープ加工を行いましょう。
16.ブリッジ上面ギリギリまでエッジを下げました。

17.サドルを取り付けました。
18.完成したブリッジとサドルです。


ブレイシング剥がれリペア

1.サウンドホールからのぞいた様子です。
2.バックボード・ブレイシングに剥がれが見られます。

3.合計3箇所のブレイシングが剥がれていました。
4.マスキングテープで保護します。

5.マスキングテープにボンドを乗せた後ナイフでボンドを隙間に流し込んでいきます。
6.ボディ内はジャッキで固定します。

7.ブレイシング剥がれはギターの音色に大きな影響を与えます。
8.ボディ外側はクランプで固定します。