ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson LG-2

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愛知県にお住まいのA.K.さんさんからMartin Gibson LG-2のリペアご依頼をいただき、ネックリセットを含むトータルリペアを行いました。 リペア後のギターを受け取られて暖かいメッセージが届きました。

樋口 様

ギター、無事に届きました。
このギターに対するストレスが、一気に解消された、そんな感じです。
音の方は、現状でも大変素晴らしいですが、全てのパーツが馴染んだ時に、どの様になるか楽しみにしております。

今回、途中で出てきた不具合にも丁寧に対応してくださり、深く感謝致します
色々な、ギター工房がある中で偶然にもオデッセイさんを見つけ、直接お会いした事は御座いませんが、樋口様を知る事ができて本当に良かったなと思います

いずれ、また御世話になる機会があると思います。その時は宜しくお願い致します。 それでは、お元気で。

A.K.

A.K.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

今回、ネックリセット工程途中、フィンガーボードをボディから分離した段階でヒール部にひび割れがあることが判明し、分離されたヒール部の残りを取り外す段階で非常に時間を要しましたが、無事取り外せて良かったです。
また割れたネックヒール部にボルトを埋め込む際も、外観上問題のない場所を確保することが出来て、目立たないように埋め込んで強度保持することが出来て良かったです。

ボディ内部のXブレイシング剥がれも相まって発生していたネックの元起きも解消されて、演奏性が格段に向上したギターに弦を張ったときの枯れきったボディから流れ出てくる音色は今でも耳に残っています。

リペアマンとして「やったぁ!」と思う瞬間が、その音色を体で感じる時なのですが、やはりオーナー様からの暖かいメッセージをいただいたときは何者にも代え難い喜びを感じます。

「この進め方で良いのか?結果は本当に良かったのか?」という不安を吹き飛ばしてくれると同時に 新しい自信を持つことが出来る、そんな大きなパワーを暖かい文面からいただけることに心から感謝しています。
これからも黙々と着実に技術を身につけながら、人間としても精進していく所存ですので、よろしくお願いいたします。

リペア後のギターにご満足いただけて、本当に嬉しい気持ちで一杯です。
蘇ったLG-2と共に素晴らしいギターライフをお送りください。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


ネックリセット

1.フィンガーボードの延長線とブリッジの交点を確認します。
2.ネック元起きが見られ、本来であればブリッジ上面を指すべきラインが、ブリッジ根本を指しています。

3.15フレット溝にネックポケットへのアクセスホールを空けます。
4.フィンガーボードをラバーヒータで暖めます。

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。(この段階でネックヒール部に割れがあることが判明しましたが、引き続き作業を続けることにしました)

フィンガーボード取り外しの様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

15.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
16.ボディに残ったヒール部も取り外せました。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ヒール部を修復します。
18.まず接着を行います。

19.さらに強度確保のためにボルトを埋め込みます。
20.下穴を空けます。

21.ボルトを埋め込みます。
22.奥まで入ったことを確認します。

23.ボルト穴をマホガニ材で埋木します。
24.反対側も同様にしてボルトを埋め込みます。

25.両方にマホガニ材を挿入しました。
26.埋木の飛び出した部分をカットします。

27.埋木完了です。
28.こちらもボルトで補強できます。

29.次は塗装タッチアップです。
30.ステイン(オーク)を塗っていきます。

31.さらにラッカーを上乗せしていきます。
32.ラッカー乾燥と上乗せを数回繰り返します。

33.スクレイパー(安全カミソリ)でラッカーを削っていきます。
34.タッチアップ工程を数回繰り返して割れはほとんど目立たなくなりました。

スクレイピングしている様子です。


35.ネックヒール部です。この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
36.ヒール部分を削っていきます。

37.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
38.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

39.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
40.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

41.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
42.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

43.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
44.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

45.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
46.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


47.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
48.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

49.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
50.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


51.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
52.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

53.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
54.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


55.マスキングテープをはがします。
56.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにローズウッド片を丸く削ります。
4.ドリル穴にローズウッド材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.ハンドルを回してフレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


31.整形されたフレット端です。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらにスチールウールで研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.ロングサドル・エッジスロープの加工を行います。
16.半丸ヤスリでスロープを粗く削り取ります。

17.ブリッジ面の直前で止めておきます。
18.ブリッジ面をマスキングテープで保護します。

19.ミニルーターに円錐ビットを取り付けて少しずつブリッジ面に合うようサドルスロープを低くしていきます。
20.ルーター加工を終えたところです。マスキングテープを少しこするところで止めました。

ロングサドル端スロープ整形の様子です。


21.ルーター加工を終えたところです。マスキングテープを少しこするところで止めました。
22.ブリッジ面とほとんどツライチになっています。

23.サドルを取り付けました。
24.完成したブリッジとサドルです。


ブレイシング剥がれリペア

1.サウンドホールからのぞいた様子です。
2.トップ板ブレイシングに剥がれが見られます。

3.マスキングテープで保護します。
4.反対側も同様に保護します。

5.ナイフでボンドを隙間に流し込んでいきます。
6.ジャッキで固定します。

7.反対側も同様にしてボンドを流し込みます。
8.ジャッキで固定して固着を待ちます。


ペグ交換

1.オリジナルペグです。
2.Wavery社製です。

3.オリジナルペグを外しました。
4.ペグ取り付けネジ穴です。

5.マホガニ材を埋木します。
6.飛び出た部分をカットします。

7.カットした埋木です。
8.ステインで着色しました。

9.ペグブッシュが少し大きめですので、ペグ穴を拡張します。
10.リーマーで穴を広げます。

11.ブッシュ取り付け完了です。
12.ヘッド部裏側からペグをネジで固定します。

13.ペグ取り付け完了です。
14.弦を張りました。スムーズなチューニングが出来るようになりました。