ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

YAMAKI W-500

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栃木県にお住まいのY.S.さんからYAMAKI W-500のリペアご依頼をいただき、フレット交換、ブリッジプレート・リペア、弦周りのTUSQ化を行いました。
リペア後のギターを受け取られて、Y.S.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ
樋口英之 様

去年の7月にYAMAKI W-500のリペアを依頼させていただきましたY.S.です。
長らく到着のご連絡が出来ず申し訳なく思っております。 昨年の7月18日に無事到着しギターの状態も大変満足しております。
予想してましたネックリセットが出来ないための弦高も予想していた程度で、TUSQ化したナットとサドルによる音色の変化も元の暖かみのある音色を損なわず、以前より前に出てくる感じがたまりません。(友人に演奏してもらいました。)
デッドポイントも以前ほど気にならなくなりました。
12フレット付近でのピッチの狂いもとても良くなり樋口様に依頼してとても良かった と思っております。

現在、右肩を負傷し自分では満足に演奏出来る状態ではありませんが、思い通りに弾けるようになる日がとても楽しみです。

また依頼をさせて戴くことにことになると思いますがその時もどうぞ宜しくお願いし ます。

Y.S.

Y.S.さん、とても暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

これまでのリペア経験からYAMAKIギターの潜在能力は大変大きいものと把握しておりました。
Y.S.さんのW-500も例外ではなく、澄み切った音色を奏でてくれるようになったと思っています。
ただネックリセットを施すことが出来ず、演奏性に若干支障が残ったことが少し残念でした。

お怪我をされているとのこと、心よりお見舞いを申し上げます。
きっといつか思いっきりギターを弾ける日がやってくると信じてリハビリに専念されてください。
「夢」はどんなハンディも超える奇跡を起こしてくれます!

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.ここでフィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
10.タングニッパでフレット端の加工を行います。

11.タング部のカットされたフレット端です。
12.ボディ内フィンガーボードの裏側です。

13.ネックブロックが張り出しているのでジャッキ固定し、この部分はハンマーで打ち込みを行います。
14.フレットの端を打ち込みます。

15.反対側を打ち込みます。
16.最後に中央部分を打ち込みます。

17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領で進めていきます。
18.プレスジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.次のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレット打ち込み~プレスの様子です。


23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


29.整形されたフレット端です。
30.フレットエンド・ドレッシングファイルでバリを取り除いていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。

33.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。
34.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。

35.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。
36.さらにスチールウール~コンパウンドで研磨を進めます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。


ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

プラグ切り出しの様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.プレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.ワックスペーパーと当て木を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。

ブリッジピン穴を開けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナットはすでに外れていました。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。