ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-28

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宮城県にお住まいのY.K.さんからMartin D-28のリペアご依頼をいただきました。フレット交換、ピックガード交換を含むトータルリペアを行いました。リペア後のギターを受け取られて、Y.K.さんから暖かいメッセージ届きました。

ギター工房 オデッセイ 樋口様

あけましておめでとうございます。連絡の方が遅くなってすみませんでした。

弾いてみた感想は、『これはリペアと言うか、このギターのいい所だけを残して全く別のギターなった。』と思うくらい自分の気になっていた所がよくなっていました。

我儘なくらい色々な点について相談させてもらい樋口様のアドバイス通りにお願いしたところ全て解消されました。

ケースから出して弾き始めるや否や、ギターについては全くの素人の妻が『一つ一つの音がはっきり聞こえて綺麗だね』と言ってくれました。

リペアお願いしてよくわかった事は、ナット、サドルはギターにとって本当に大事な部分であり弦と同じで消耗品であるということでした。

今回作製していただいた弦周りパーツもいずれ交換の時期が来るものだろう、と今のうちから心配しております。このギターを所有した者として責任を持って鳴らしてやりたいと思います。(そのためには自分の腕の上達も条件ですが・・・)

東松島市在住の者としてZERO-ONEプロジェクトの進行は復興へ向かい少しずつ変わってゆく街並みや人々の表情と同じような感じがします。

完成したウクレレが音を奏でるころにはこの街も3.11の前以上の活気を取り戻してくれるものと思っております。

震災を乗り越えた者同士このギターは大事にしていきたいと思います。

今回、樋口様にお願いして本当に良かったと思いました、ありがとうございました。

リペアの順番待ちをしてる間と弦周りの消耗度を考慮しつつまたリペアをお願いしたいと思っております。

Y.K.さん、暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

今回は大変長い期間、リペアをお待ちいただいて本当にありがとうございました。
改めてお礼を申し上げます。

Y.K.さんからギターリペアご予約をいただきましたのが2009年7月、そしてリペア開始をお知らせしたのが2011年10月でした。

この間にY.K.さんからご住所とメールアドレスの変更ご連絡を受け取りました(2011年7月)。
下記はその時のメール文面の抜粋です。

今回の東日本大震災により、アパートの一階で1メートルの床上浸水でした。
幸い、自分達の部屋は2階ということもあり浸水は免れましたが、部屋の中は原形を留めておらず悲惨なものでした。
2本のギター達は何とか無事でした。それを見て震災直後の悲壮感の中、
『俺はまだギターを弾いてもいいんだ…。』と小さな希望を持ち乗り越えてきました。


この文面を拝読させていただき、Y.K.さんがご無事であったこと、ギターが奇跡的に無事であったことにほっとした安堵感を感じました。

そして実際にギターを受け取り、手にしたときは何ともいえない感慨の念に併せて、震災・津波で被災された方々、また命をなくされた方々への哀悼の念を改めて強く感じた次第です。

今回、自分なりに「ギターとの会話」をさせていただきながら、Y.K.さんの「奇跡のギター」をリペアさせていただきました。

きっとこれからもず~っと長い間、Y.K.さんの傍らで音色を奏でていってくれるものと信じています。消耗系メンテナンス・リペアの際はお気軽にお声がけください。

ZERO-ONEプロジェクトの楽器製作は少しずつですが確実に前に進んでいます。
東松島の街の人々の家や生活を支えていた部材を手にして加工作業をするたびに、「今はつらいけど、乗り越えていこう」という気持ちになります。

現在製作しているウクレレが完成した暁には、ZERO-ONEプロジェクトの方々へ手渡すために 再び宮城県へ伺いたく、そのときは街も皆さんの気持ちも復興が進んでいれば良いなぁ、と思っています。

まだ色々な面でご苦労されることが多いかと思いますが、ゆっくりで良いので一歩ずつ前へ歩いて行ってください。
また私に出来ることでありましたら、ご遠慮なくご連絡ください。微力ながらお力になれれば幸いです。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.フレット溝のグルー除去を行います。

5.グルー除去を終えたフレット溝です。
6.軽くサンディングします。

フレット溝のグルー除去を行っている様子です。


7.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
8.ここでフィンガーボードをクリーニングします。

9.フレットプレスの準備が整いました。
10.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

11.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
12.タングニッパでフレット端の加工を行います。

13.タング部のカットされたフレット端です。
14.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.ハンドルを回してフレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


31.整形されたフレット端です。
32.フレットエンド・ドレッシングファイルでバリを取り除いていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらにスチールウールで研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


ピックガード交換

1.オリジナルピックガードです。
2.接着面にナイフを挿入していきます。

3.トップ板を傷つけないように少しずつナイフを進めていきます。
4.外れました。

5.接着シートが分厚く残っています。
6.大量のシートが外れました。

7.オリジナルピックガードが外れたトップ板です。日焼けが残っています。
8.TOR-TIS素材をオリジナルより少し大きめに切り出しました。

9.2枚を仮付けします。
10.周囲をやすりで削っていきます。

11.TOR-TIS素材は常温ではもろい素材なので慎重に削っていきます。
12.切り出したピックガードに接着シートを貼りました。

13.位置決めを行います。
14.ピックガード交換完了です。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。


ピックアップ交換

1.交換前のピックアップ、L.R.Baggs社製のM1 Activeを取り外しました。
2.Anthemに交換します。

3.Anthemはアンダーサドルのピエゾ素子とブリッジプレートに取り付けるコンデンサマイクの信号をミックスします。
4.サドル下のピエゾ・ピックアップです。

5.サドル溝に固定できました。
6.ブリッジプレートにコンデンサマイクを取り付けました。

7.2つの信号とバッテリー、そしてエンドピンジャックをプリアンプブロックに接続しました。
8.取り付け完了しました。コントロールパネルです。


ペグ交換

1.オリジナルペグです。
2.取り外しました。

3.ペグの取り付け跡が残っています。
4.跡を目立たなくしました。

5.オープンバックタイプのペグを取り付けます。
6.交換完了です。


ストラップピン取り付け

1.ネックヒール部にストラップピンを取り付けます。
2.フェルトを切り出しました。

3.フェルトをドーナツ型に切り出しました。
4.ドリルで下穴を空けます。

5.ネジ固定します。
6.ストラップピン取り付け完了です。