ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson J-50

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兵庫県にお住まいのK.I.さんからGibson J-45とGibson J-50のリペアご依頼をいただきました。Gibson J-50はフレット交換とブレイシング浮きリペア、およびナット交換を行いました。
リペア後のギターを受け取られて、K.I.さんから暖かいメッセージが届きました。

ギター工房 オデッセイ 樋口英之 様、リペアファイルをご覧の皆様へ

私は、ギター音痴(下手・無知)です。私は、吉田拓郎がデビューして間もないころからの吉田拓郎のファンです。今回リペアを依頼したGibsonのギターは、吉田拓郎を真似て買ったものです。

リペアとは、修理(現状維持)と思っていました。ところが、リペアを終えた私のギターは、音がよくなり、弾きやすくなっています。ギターを気分よく弾くことができます。

ギターをケースから取り出すたびに、ピカピカに光るフレット、サンディングされたフィガーボードの美しさにも満足しています。

「Gibson のギターで、吉田拓郎の曲を弾く。」

40年前は夢のように思えたことが、現実になっています。一方、激しく移り変わってゆく世の中を見ていると将来が恐ろしくなってきます。そのような思いにもかかわらず、次回のフレット交換を予約しました。

「ギター音痴が、吉田拓郎の曲を弾く。」そんなささやかな幸せが続く世の中でありますように。

K.I.さん、暖かいメッセージをいただき、ありがとうございました。

リペア後のギターにご満足いただけて、私も嬉しい気持ちでいっぱいです。
次回リペアをさせていただく時にはギターたちもさらに枯れた音色になっていることと思います。
おっしゃるとおり、いつまでもギターを弾いていられるような平和な世の中であって欲しいものだと心から祈るばかりです。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.ここでフィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
10.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

11.第一のフレットプレス・ジグです。
12.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

13.ジグをサウンドホールから入れていきます。
14.ハンドルを回してフレットをプレスします。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
16.2つ目のジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

25.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
26.弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


27.整形されたフレット端です。
28.フレットエンド・ドレッシングファイルでバリを取り除いていきます。

29.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
30.ボディもアクリル板でカバーしました。

31.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
32.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

33.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
34.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

35.さらにスチールウールで研磨を進めます。
36.最後はコンパウンドで磨き上げます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。


ブレイシング剥がれリペア

1.サウンドホールからバックボードを覗いています。
2.バックボードブレイシングに浮きが見られます。

3.向かって右側、下から2番目です。
4.同じく向かって右側、一番下です。

5.反対側(向かって左側)、一番下です。
6.その上の(向かって左側)、下から2番目です。バックボード全体にわたってブレイシングが剥がれています。

7.浮いているブレイシングにマスキングテープを貼ります。
8.向かって右側すべてにマスキングテープを貼りました。

9.向かって左側、一番下のブレイシングです。
10.その上、左側下から二番目にもテープを貼りました。

11.マスキングテープの上にタイトボンドをのせ、ナイフを浮き部分に差し込んで、隙間にボンドを流し込みます。
12.ジャッキで固定して固着を待ちます。

13.一つ下、向かって右の上から二番目です。
14.ジャッキ固定しました。

15.その下、右側の下から二番目です。
16.ジャッキ固定しました。

17.右側一番下です。
18.この部分のジャッキは特殊なものを使用します。

19.左側一番下です。
20.こちらもジャッキ固定しました。

21.左側、下から二番目です。
22.このまま固着を待ちましょう。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。