ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-41

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兵庫県にお住まいのH.O.さんからS.Yairi YHV-28NとMartin D-41のリペアご依頼をいただきました。
Martin D-41はボディ割れリペア、フレット交換を含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、H.O.さんから暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ 樋口英之様

お世話になります。H.O.です。
このたびは私のギターをリペアしていただき誠にありがとうございました。

家に持ち帰り早速、弾かせていただきました。

どちらのギターも弾きやすく音色は前より余韻も残り、ビビリも無くなり、すこぶるよくなっていると改めて実感いたしました。ありがとうございました。

私が弾いている時に家内が音楽室に入ってきて「なんか、音色がまろやかになったんちがうん?」っていってました。
すかさず「そうやろ~」って言っちゃいました。
夫婦ともども大満足です。
そのあと、ギターとピアノと娘(小6)の歌で卒業式に歌った「旅立ちの日に」をセッションしながら家族で共に楽しみました。

また、今日は素人の私にいろいろ音源についてのアドバイスありがとうございました。
もっと、いろいろお話したかったのですが、いざ樋口さんを前にすると緊張してしまい私自身、人見知りする性格でして聴こうとしていたことの半分くらいしか聞けずちょっと後悔しています。 今後もし、樋口さんのお時間のある時で結構ですのでよろしければ今後もメールのやり取りなどで音源やギターについていろいろと質問させていただいたり教えていただいたりできないでしょうか?

このたびは本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

    H.O.

H.O.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

両ギターとも弦周りを中心にリペアを行わせていただき、本来ギターの持っている音色を引き出すことが出来たかと思っています。
リペア後のギターにご満足いただけて私もとても嬉しい気持ちでいっぱいです。

震災の影響でH.O.さんの仕事の関係上、およそ3週間リペア後のギターをお預かりさせていただきました。
昨日、H.O.さんがギターをお引き取りにお越しになり、試奏されているギターを見ていると、なんだか微笑んでいるように見えました(笑)。

ご帰宅後、ご家族でセッションされたのことをお聞きして、きっとギターも大喜びだったと思います。
ご家族で音楽を楽しまれるって、本当に素晴らしいことですね!!!
これからも素晴らしいミュージック・ライフをお送りください。
H.O.さんとご家族の傍らでギターが活躍することをお祈りしております。
また私の知りうる範囲でしたらギターのこともお伝えさせていただきたいと思います。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


ボディ割れリペア

1.ボディサイド部に凹み傷があり、オーナー様がご自身でパテを埋められています。
2.凹みの横には木目に沿って大きく亀裂が入っています。こちらも同様の処理が施されています。

3.ボディ内からの撮影です。凹みはボディ内に貫通しており、一部は欠損しています。
4.ボディ内部からパッチ材を接着することにしました。

5.まずパテを彫刻刀で削っていきます。
6.オリジナル部材を傷つけいないように慎重に削り取っていきます。

パテを取り除いている様子です。


7.次に凹んだ部分を蒸気で元の形に矯正します。作業箇所がボディの奥にあるので半田ゴテにステンレスヘラを付けたアイロンを使います。
8.ボディの外からスポイトで水を垂らしてアイロンが蒸気を発生するようにします。

凹み部分を蒸気で矯正している様子です。


9.陥没部分がボディ曲面形状にに矯正できました。
10.ボディ内から見た矯正部分です。

11.ボディサイド材の木目と垂直になるようにローズウッド材からパッチ材を切り出しました。
12.周囲に傾斜を付けました。

13.パッチ材にボディと同じアールを付けるために、ベンディングアイロンを使います。
14.蒸気の力でパッチ材を湾曲させていきます。

15.ボディサイドにピッタリのアールがつきました。
16.もう一カ所の亀裂部分の大きさにあったパッチ材を作ります。

17.周囲に傾斜を付けました。
18.ベンディングアイロンでアールを付けていきます。パッチ材が割れないように慎重に曲げていきます。

19.パッチ材ができあがりました。
20.サイドの湾曲にピッタリ合っています。

パッチ材に蒸気でアールを付けている様子です。


21.パッチ材の接着はマグネットクランプを使います。
22.ボディ外側からもマグネットを用意して目標位置にパッチ材を固定します。

23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24. 2個のパッチ材が固着しました。

25.欠損部分にローズウッド・ペーストを埋めて乾燥させます。
26.乾燥後ラッカーを塗っていきます。

27.タッチアップ途中の様子です。
28.亀裂部分も同様にタッチアップしています。

29.ラッカーが固着してきました。
30.盛り上がったラッカーを安全カミソリでスクレイピングします。

31.根気よく周囲と同じレベルになるように削っていきます。
32.高さがそろったところで研磨シートで水研磨します。

スクレイピングと研磨を行っている様子です。


33.タッチアップ完了です。
34.傷跡はほとんど目立たなくなりました。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フレットプレスの準備が整いました。

7.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
8.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

9.カットしたフレット端です。
10.プライヤーでフレット端のバインディング処理を行います。

11.タング部の切り取られたフレット端です。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
16.ハンドルを回してフレットをプレスします。

17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
18.2つ目のジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットをプレスしている様子です。


23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


29.整形されたフレット端です。
30.フレットエンド・ドレッシングファイルでバリを取り除いていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナット溝が深いので切削除去を行います。ルータにストレートビットとジグを取り付けました。

3.ヘッド側からダスト吸引を行いながらナットを削っていきます。
4.途中まで掘り進んだ状態です。もう少し深くまで削りましょう。

5.この辺で切削を止めておきます。
6.残りは彫刻刀で削り取りました。

ナット取り外しの様子です。


7. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
8.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

9.クリーニング完了したナット溝です。
10.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

11.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
12.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

13.1弦側からもナットの密着を確認します。
14.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

15.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
16.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

17.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
18.ナット上部を切り取りました。

19.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
20.ナットらしくなってきました。

21.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
22.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

23.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
24.弦高調整前のナットです。

25.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
26.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

27.ナット高調整前の弦溝です。
28.弦高調整後のナット弦溝です。

29.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
30.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。