ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

YAMAHA L-15

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千葉県にお住まいのT.O.さんからYAMAHA L-15とTACOMA PR18LTDのリペアご依頼をいただきました。
YAMAHA L-15はフレット交換、ブレイシング剥がれ補修等を含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られてT.O.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ 樋口様

連絡が遅くなりましたが、YAMAHA・L-15とTACOMAは先日無事に到着しております。

このL-15は私が学生時代に購入し愛用していたギターで、当時はMARTINのD-28(24回払いローンで無理して購入したもの)等も所有していたのですが、学生生活最後のコンサートを、今は無き渋谷エピキュラスで行なった時に、迷わずこのL-15を持参し演奏したことが、とても懐かしく思い出されます。

その後、社会人になりギターからはすっかり遠ざかってしまい、D-28も手放してしまったのですが、このL-15は手放す気になれず、長年実家の納戸に仕舞い込んでありました。

近年、仕事や子育てが一段落したこともあり、再び手に取ってみましたが、どうも昔のような音が出てきません(腕も落ちてはいますが・・・・笑)。

しばらくの間、天気の良い日に風通しの良い場所に置いたり、ステレオで音楽を聞かせたりしたのですが、どうも機嫌が治らないようなので、今回思い切って完全リペアをお願いすることにしたものです。

リペア終了後、手に取ってみると学生時代の音色とはまた違っており、やんちゃな部分は影を潜め、とても端整な情緒感のある音で鳴ってくれるようになりました。
又、プレイアビリティは明らかに新品時よりアップしています。

既に私自身、完全リペア?が必要な年齢となりつつありますが、復活したL-15を眺めていると、「一緒にもうひと踏ん張りしてみようよ」とL-15が語りかけてくるようです。

又、TACOMAも一緒にリペアをお願いしましたが、こちらも演奏性や音色が一段と良くなりました。

樋口様は御一人で仕事をされ、ご多忙であるはずなのに、きちんと作業過程を記録し、又自筆のお手紙等、ご丁寧な対応をされていらっしゃることに感服いたしました。
またご縁があればよろしくお願いいたします。今回はどうもありがとうございました。

千葉県 T.O.

T.O.さん、心温まる暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

ギターへの熱い想いの込められた文面を拝見して、思わず目頭が熱くなってしまいました。

ギターは「人生の想い出や思い入れの缶詰」みたいだなぁ、と私自身の事も振り返りながら感じた次第です。

T.O.さんとは実際にお会いしたこともなく、ギターを介してネットでのご縁ですが、同じ価値観や人生観をお持ちではないかと思っています。

私も毎年「人間ドック」というメンテナンスを受けて、昨年からリペアを受けております。
T.O.さんご自身も是非リペアされ「もう一踏ん張りも二踏ん張り」もされて、ギターと一緒に長い人生を歩んでいってください。私も同じ中年親父として同じ想いで残りの人生を精一杯輝ければいいなぁ、と強く思っています。

こちらこそT.O.さんとのご縁を一生大切にしていきたいと思っております。
この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレット抜き取りの様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
10.プライヤーでフレット端のバインディング処理を行います。

11.タング部の切り取られたフレット端です。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
16.ハンドルを回してフレットをプレスします。

17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
18.2つ目のジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は一カ所にまとめておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


29.整形されたフレット端です。
30.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。


バックボード・ブレイシング剥がれリペア

1.サウンドホールから見たバックボードです。
2.バックボードブレイシングが全体に剥がれかけています。

3.上から3本目、向かって右側のブレイシングです。
4.一番下の右側です。

5.一番下の左側です。
6.下から2番目左側です。

7.上から2番目のブレイシング左側です。
8.4本全てのブレイシング両端、計8カ所がバックボードから外れていました。

9.浮き部分に合わせてマスキングテープを貼ります。
10.タイトボンドをマスキングテープの上にのせます。

11.ブレイシングとバックボードの隙間にナイフを使ってボンドを流し込みます。
12.ジャッキとクランプで固定します。この要領で全ての浮き部分をリペアします。

13.上から2本目右側です。
14.ボンドを流し込んでいます。

15.ジャッキアップしています。
16.上から3本目右側です。

17.タイトボンドをマスキングテープの上にのせます。
18.ブレイシングとバックボードの隙間にナイフを使ってボンドを流し込みます。

19.ジャッキとクランプで固定します。
20.一番下の右側です。

21.タイトボンドをマスキングテープの上にのせます。
22.ブレイシングとバックボードの隙間にナイフを使ってボンドを流し込みます。

23.一番下は特殊なジャッキを使用します。
24.一番下の左側です。

25.タイトボンドをマスキングテープの上にのせます。
26.ブレイシングとバックボードの隙間にナイフを使ってボンドを流し込みます。

27.ジャッキで固定しました。
28.下から番目の左側です。

29.タイトボンドをマスキングテープの上にのせます。
30.ブレイシングとバックボードの隙間にナイフを使ってボンドを流し込みます。

31.ジャッキで固定しました。
32.上から2番目左側です。

33.タイトボンドをマスキングテープの上にのせます。
34.ブレイシングとバックボードの隙間にナイフを使ってボンドを流し込みます。

35.ジャッキで固定しました。
36.一番上の左側です。

37.タイトボンドをマスキングテープの上にのせます。
38.ブレイシングとバックボードの隙間にナイフを使ってボンドを流し込みます。

39.ジャッキで固定しました。

ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナットはすでに外れていました。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、ブリッジにイントネーターを取り付けます。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。


塗装タッチアップ

1.打痕跡の修復跡があります。
2.瞬間接着剤でタッチアップされたようです。

3.ボディエンドにも打痕修理跡がありました。
4.スクレイパー代わりの良く研いだ彫刻刀で瞬間接着剤跡を削り取っていきます。

5.ボディ部のタッチアップ跡を削っています。
6.ボディエンド部分です。

瞬間接着剤跡を削り取っている様子です。


7.接着剤跡を取り除いたネック部です。
8.ボディ・バックです。

9.ボディ・エンド部です。
10.その上からラッカーを乗せていきます。

11.バックです。
12.ボディエンドです。

13.固着した盛り上がったラッカーを安全カミソリでスクレイピングしていきます。
14.平坦になったタッチアップ部を水研磨していきます。

15.研磨を終えました。
16.ボディ部はほとんど跡が目立たなくなりました。