ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-35

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兵庫県にお住まいのT.K.さんからMartin D-35のリペアご依頼をいただきました。フレット交換、ブリッジプレート・リペアを含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターをお引き取りの後、T.K.さんから暖かいメッセージが届きました。

兵庫県のT.K.です。
マーチンD35のリペア有難うございました。

自分自身ギターを修理するかどうか最初は迷っており、十数年間押し入れに入れたまま放置していたのを樋口様にリペアしていただき、ほんとうに有難うございました

もう何年も触れてなかったので「弾いてみますか?」と言われたときは、はっきりいってどうしたらよいのか迷っていました。

でも樋口様が弾かれた音に感動し、自分自身もう一回チャレンジしようかなと思って、早速帰ってから初心に戻って弾いてみたところ・・・

えらいもんですね、自分の指がなぜか押さえるところを覚えているんですね!
ギターを買ったとき必死に練習してた頃を思い出しました。
ある程度弾けるようになったら子供たちに譲ってあげようと思っております。

今後またリペアするような時期がくれば是非お願いします。
ほんとうに有難うございました。

T.K.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア前は瀕死状態のギターでしたが、素晴らしい音色を奏でてくれるようになって本当に嬉しく思っています。
T.K.さんのD-35のトップ板の木目の間隔が、Martin 社の他のギターよりも広く、それがより特徴的でした。

他のお客様が工房にお越しになったとき、ちょうどT.K.さんのD-35をギターハンガーにつるしてあったのをご覧になって、「木目の間隔というのは音に影響があるんですか?」と尋ねられました。
そこで私は熊本様のギターを試奏させていただいたのですが、そのお客様はその音色に大変驚かれていました。

通説では木目が詰まっていた方がよい、とされているトップ板ですが、
今回のリペアで「その説は全てに当てはまるものではない」ということが実証できたと思っています。

これからもD-35と、そしてご家族と一緒に素晴らしいギターライフをお送りください。
この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。

今後とも何卒よろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フレットプレスの準備が整いました。

7.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
8.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

9.カットしたフレット端です。
10.プライヤーでフレット端のバインディング処理を行います。

11.タング部の切り取られたフレット端です。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
16.ハンドルを回してフレットをプレスします。

17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
18.2つ目のジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットをプレスしている様子です。


23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


29.整形されたフレット端です。
30.フレットエンド・ドレッシングファイルでバリを取り除いていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。


ブリッジ脱着

1.リペア前のブリッジです。1弦側を中心に全体が浮いているので一旦取り外して再接着することにしました。
2.ブリッジを暖めるラバーヒーターです。周囲は輻射熱からトップ板を保護するための断熱シートを敷きます。

3.クランプでヒーターを固定しました。
4.ブリッジの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

5.ブリッジ接着面にナイフをゆっくりと挿入していきます。
6.接着剤がゲル状になっていることを感じながら徐々にナイフを進めていきます。

7.ブリッジが外れました。
8.取り外しました。

ブリッジ取り外しの様子です。


9.接着面に残っている古い接着剤をサンドブロックで削り取ります。
10.ブリッジ側も軽くサンディングします。

11.接着面のクリーニングを終え、マスキングテープで周囲を保護しました。
12.湯煎したニカワを接着面に塗っていきます。

13.ブリッジ側にも薄くむらなく塗っていきます。
14.ブリッジをボディに置きます。

15.クランプしてあふれたニカワを拭き取ります。
16.マスキングテープを剥がして固着を待ちます。


ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.ローズウッド材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工が終わった様子です。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.ワックスペーパーと当て木を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24. 弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。


ピックガード交換

1.オリジナルピックガードです。
2.経年収縮でトップ板に負荷がかかっている状態です。

3.ナイフを挿入していきます。
4.トップ板に傷を入れないように慎重にナイフを進めます。

5.ピックガードが外れました。
6.オリジナルよりも少し大きめにTOR-TIS素材を切り出しました。

7.オリジナルピックガードをテンプレートとして貼り付けます。
8.周囲を削っていきます。

9.TOR-TIS素材は常温では割れやすいので、慎重に削ります。
10.両面接着シートを大きめに切り出しました。

11.ピックガードに貼り付けて周囲をカットします。
12.ピックガード交換完了です。