ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson J-45

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京都府にお住まいのT.T.さんからGibson J-45とGibson J-200M customのリペアご依頼をいただきました。
Gibson J-45はフレット交換とナット交換(TUSQ)を行いました。
リペア後のギターを受け取られて、T.T.さんから暖かいメッセージが届きました。

樋口様

本日2本のギター受け取りました。

今回、樋口様にはこちらの都合でベストとまでは行かなかったかも知れませんが、今日梱包を解いて鳴らしてみましたが十分満足しております。

J-45ですが、かねてからのフレットの減りによる弾きづらさ、及び弦のビビリが解消されたのが一番の収穫です。
こちらの都合でブリッジ周りはオリジナルのアジャスタブルブリッジを残す事にしたにも関わらず、明らかに音のレンジが広がっていました。
よく言われる「枯れた音」が頭にあったので経年変化による劣化もあばたにえくぼで、J-45はこんなものと思っていました。
実は「枯れた音」ではなく「カスカスの音」だったんですね。(笑)
2000年代のJ-45を弾く機会があったのですが、なんと自分の68年製より明らかに艶やかで音の伸びもある事にショックを受けた事もあります。
今回のリペアでウォームで艶やかな音になったのは実は思わぬ収穫でした。(樋口様すみません。)
私も今年50歳をむかえJ-45と共にええ感じで枯れていけたらなっと思っています。

次に娘のJ-200ですがこちらはすごく良くなりました。
娘もバイトから帰って来ていきなり「おーっ!」と叫んでました。
やっとよく耳にしたJ-200の音がでた感じです。
もう夜遅いのでアンプを通して「ボディーをたたく音を拾う」セッティングは未確認なのですが、明日早速ためして見ると申しておりました。

この度はいろいろ無理を聞いて頂きありがとうございました。
決してうまくはありませんが、これからも音を楽しんでいこうと思います。

それでは失礼いたします。

T.T.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

親子でギターを演奏されることをお聞きして、J-45はお父様が、そしてJ-200Mは娘様が演奏されていることを想像しながらリペア作業を進めさせていただきました。

特にJ-45はビンテージらしい音色を取り戻すことに集中させていただきました。
残念ながらアジャスタブルサドルの影響によるボリュームの低さ、狂ったピッチ、チューニングの不安定さは払拭することは叶いませんでしたが、それなりの音色で鳴り始めてくれてよかったぁ、と思っています。
J-200Mは若いギターですので、これから歳を経るごとに味のある音色に変わっていくと思います。

50歳というのは人生の大きなターニングポイント、ある意味で「悩める青春」ではないかと考えています。
ご家族とともに音楽を楽しまれる幸せは、それまで積み重ねられてきたご苦労の結晶であることを信じて疑いません。
これからもギターとご家族一緒に「ええ感じに枯れて」いってください(笑)。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.ここで一旦削り粉をクリーニングしましょう。

7.フレット打ち込みの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
10.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

11.第一のフレットプレス・ジグです。
12.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

13.ジグをサウンドホールから入れていきます。
14.ハンドルを回してフレットをプレスします。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
16.2つ目のジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスを行っている様子です。


21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。

フレットエッジの整形を行っている様子です。


25.整形されたフレット端です。
26.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

27.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
28.ボディもアクリル板でカバーしました。

29.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
30.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

31.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
32.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

33.さらにスチールウールで研磨を進めます。
34.最後はコンパウンドで磨き上げます。

35.プロテクタ類を外しましょう。
36.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナットに当て木を当てて軽くコンとたたきます。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。