ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin HD-28VR

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香川県にお住まいのM.Y.さんからMartin HD-28VRのリペアご依頼をいただき、ネックリセット(脱着)、ブリッジ脱着等を含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られてM.Y.さんから暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ 樋口英之 様

昨日 HD-28VR が届きました。

樋口さんから発送したとの連絡を頂いてから、どきどき!わくわく!で待っておりました。かなり緊張していたのでしょうか、ギターが到着してケースを開ける時に何を思ったのか思わず身だしなみを整えてしまいました ヾ ^_^ 。

ギターケースを開けると一番最初に目に飛び込んで来たのが『ホワイトパールのスノーフレークス』美しいです!綺麗です!!
高校生の頃から憧れだったマーティンのスノーフレークス。もう最高です!

 ギターを眺めるのはまた後にして(笑)チューニングを合わせて弾いてみました。

 実はこのギター、ブリッジが浮いてるのに気付いてから10年が経ちます。完全な状態で弾いた記憶がほとんど無かったので、オリジナルとの違いははっきり分かりませんが……最初に弾いた時はちょっとショックを受けました。単音を弾いたときの、1、2弦のあま~いウッディな音が失われていました。
 
今思えば、接着部の浮きによる独特の音(病的な音)だったとおもいますが、もうあの音が聞けないと思うとちょっと寂しかったりします。
軽くショックを受けながら、弾きこんでいくと失ったものの代わりに得たもののすばらしさが見えてきました。

    『なんと繊細な音がでるんだろう』

いままでの半分くらいの強さで弾いても十分に鳴ってくれます。
軽いタッチにも繊細だけどしっかりした音でこたえてくれるのには驚きました。(ハマリングオン、プリングオフの音が伸びる伸びる)

ストロークでは、軽く弾いてもかなり強く弾いてもバランスよく鳴ってくれます。これが『健康なギターの音』ですね!気持ちいいです (^_^) 。

 ギターを弾くには今からの季節が一番好きです!ぴーんとはった冷たい空気の中で響くアルペジオの音。

至高の一時です。

ギターという楽器はすばらしですね!触れているだけでも癒されます。

 中学生の時に『チューリップの銀の指輪』が弾きたくて家のクラッシックギターにスチールの弦を張ったのが私のギター歴の始まりでした。

その後、高校生でマーティンの存在を知りスノーフレークスに憧れ。

50歳の誕生日を迎えたときに樋口さんの力を借りて世界に一台だけの最高のギターを手に入れる事が出来ました!本当にありがとうございました。

 樋口さんのこれからのリペア技術のますますの向上とご健康を心よりお祈りしております。

香川県 M.Y.

M.Y.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、ありがとうございました。

50歳のお誕生日、おめでとうございます!その大切な日の記念に私のリペアさせていただいたギターをお届けできたことを大変嬉しく思っております。

今回のギターリペアはネックリセット、ブリッジ脱着なども含めた大規模のものでしたので、長い期間ギターと触れ合うことができました。工程も後半になって、スノーフレークスも完了した時点で、ゴールが見え始めるとギターとの別れが辛くなってきました。ナット、サドルを作製して弦を張ったときにギターから流れてきたのは、まるで目で見えるような光る粒のような音色でした。弦高調整や試奏を行いながら、このような機会を与えてくださったM.Y.さんに感謝の気持ちでいっぱいになりました。

そしてM.Y.さんからの暖かいメッセージをいただいて、ホッと安心すると共に、ギターを蘇らせることができた喜びと、今後の技術向上や精神的な精進を改めて強く感じている次第です。

どうかこれからも素晴らしいギターライフを送ってください。私も同じ50歳代の中年として残りの人生の時間をギターに全て捧げていきたいと思っています。

この度はギター工房オデッセイにギターリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願い致します。


ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

ネックポケットにドリル穴を空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

ボディからフィンガーボードを外している様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

15.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
16.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.目印にマスキングテープを貼ってヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

ネックヒール部サンディングの様子です。


27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

ネック取り付け角度と直線性を確認している様子です。


33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。


ブリッジ脱着

1.リペア前のブリッジです。1弦側を中心に全体が浮いているので一旦取り外して再接着することにしました。
2.まず最初に接着されたロングサドルを切削除去します。サドル溝加工ジグを取り付けました。

3.トリマ先端がサドル中央を通過するようにジグ位置を調整します。
4.何回かのパスを繰り返してサドルを掘り込むことができました。

トリマでサドルを削っているようです。


5.サドルを取り外すことができましたので、次はブリッジ取り外しを行いましょう。
6.ブリッジを暖めるラバーヒーターです。周囲は輻射熱からトップ板を保護するための断熱シートを敷きます。

7.クランプでヒーターを固定しました。
8.ブリッジの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

9.ブリッジ接着面にナイフをゆっくりと挿入していきます。
10.接着剤がゲル状になっていることを感じながら徐々にナイフを進めていきます。

11.ブリッジが外れました。
12.取り外しました。

ブリッジを外している様子です。


13.接着面に残っている古い接着剤をサンドブロックで削り取ります。
14.ブリッジ側も軽くサンディングします。

15.接着面のクリーニングが終わりました。
16.マスキングテープで周囲を保護します。

17.湯煎したニカワを接着面に塗っていきます。
18.ブリッジをボディに置きます。

19.クランプしてあふれたニカワを拭き取ります。
20.マスキングテープを剥がして固着を待ちます。


バックボード・ブレイシング剥がれリペア

1.サウンドホールから見たバックボードです。
2.ネックを取り外しているのでフィンガーボードはありません。

3.上から2本目、向かって左側のブレイシングです。
4.右側です。

5.上から3本目左側です。
6.右側です。

7.一番下側のブレイシング左側です。
8.4本全てのブレイシング両端、計8カ所がバックボードから外れていました。

9.浮き部分に合わせてマスキングテープを貼ります。
10.一番上のブレイシング右側です。

11.上から2本目左側の浮きです。
12.右側です。

13.上から3本目左側です。
14.右側です。

15.一番下(4本目)の左側です。
16.右側です。

17.タイトボンドをマスキングテープの上にのせます。
18.ブレイシングとバックボードの隙間にナイフを使ってボンドを流し込みます。

19.ジャッキとクランプで固定します。この要領で全ての浮き部分をリペアします。
20.一番上のブレイシング左側です。

21.ボンドを流し込みます。
22.そしてクランプします。

23.上から2本目左側です。
24.クランプしました。

25.上から2本目右側です。
26.クランプしました。

27.上から3本目左側です。
28.クランプしました。

29.上から3本目右側です。
30.クランプしました。

31.一番下のブレイシング左側です。
32.クランプしました。

33.一番下右側です。
34.クランプしました。


フィンガーボード・インレイ入れ替え

1.オリジナルインレイです。
2.3,5,7フレットと、12,15フレットにダイヤモンド・インレイ(アバロン)が施されています。

3.フレット交換工程の中でインレイ作業を行います。
4.インレイを目標位置に仮接着します(プリカット・インレイを使用しました)。

5.インレイの周囲にカッターで溝を切り込みます。
6.仮接着したインレイを取り外し、溝にチョークの粉を埋め込みます。

7.インレイ以外の部分をマスキングテープ・シートで保護します。
8.ミニルーターにジグを取り付けてフィンガーボードを掘り込みます。

ルーターでインレイ用凹み加工を行っている様子です。


9.インレイを埋め込み、周囲をエボニー・ペーストで固めた後、サンディングを行います。
10.埋め込み完了後のフィンガーボードです。

11.インレイ入れ替え加工前の3フレットです。
12.加工後です。

13.こちらは5フレットです。
14.入れ替え後の5フレットです。

15.7フレットです。
16.入れ替え後の7フレットです。

17.9フレットです。
18.入れ替え後の9フレットです。

19.12フレットです。
20.入れ替え後の12フレットです。

21.15フレットです。
22.入れ替え後の15フレットです。

23.17~19フレットです。
24.入れ替え後です。

25.オリジナル・ブリッジです。
26.両端にインレイを埋め込みました。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレット抜き取りの様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
14.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.ハンドルを回してフレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は一カ所にまとめておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


31.整形されたフレット端です。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらにスチールウールで研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、ブリッジにイントネーターを取り付けます。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。ロングサドル・エッジスロープの加工を行います。
16.半丸ヤスリでスロープを粗く削り取ります。

17.ブリッジ面をマスキングテープで保護します。
18.ミニルーターに円錐ビットを取り付けて少しずつブリッジ面に合うようサドルスロープを低くしていきます。

サドル端の整形を行っている様子です。


19.ルーター加工を終えたところです。マスキングテープを少しこするところで止めました。
20.ブリッジ面とほとんどツライチになっています。

21.サドルを取り付けました。
22.完成したブリッジとサドルです。


ヘッドプレート擦り傷リペア

1.ヘッドプレート部に円弧型の擦り傷があります。
2.ペグを外しました。

3.スチールウールで粗く傷を削っていきます。
4.傷が消えたところでコンパウンド(粗目)で研磨します。

5.ペグを取り付け、弦も張りました。
6.傷はほとんど消えました。