ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson J-45

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広島県にお住まいのwax1974さんからGibson J-45のリペアご依頼をいただきました。
フレット交換とアジャスタブルサドルのスロット化(TUSQ素材)、ボディ塗装タッチアップを含むトータルリペアを行いました。リペア後のギターを受け取られて、wax1974さんからとても暖かいメッセージをいただきました。

樋口様

今朝 J-45が 我が家に帰って来ました。
すぐに チューニングを始めましたが、チューニングの時点で1弦1弦の 音の張りと伸びが リペア前と まったく違うことに気づきました。
そして チューニングが ビシッ!と定まるので 驚きました。

一番 ビックリしたのが「低音弦のハリ」です。中音弦も含めて「こもった音」だったのですが、これまで無かった「箱鳴り」と共に、バッーン!!と 音が 目の前に飛び出してゆきます。
「J-45は音が小さい」と巷で言われているので J-45の特性だと諦めていた音量も 充分すぎるぐらい改善しました。

また「ピッチ調整」でフレット音痴が矯正され 苦労していた5カポでの演奏が普通に弾けるようになりました。拓郎さんの名曲は 5カポのCが多いんですよ(笑)
またこのJ-45は極端にネックが細くて ローコードが たいへん押さえ辛かったのですがフレット交換でフレットの高さが増し、弦高もぎりぎりまで低くしていただいたので、ずいぶん楽に弾けるようになりました。

しかし。。。これほど 気持ち良い音が出せるギターだったとは。。。

吉田拓郎さんが70年代初期に愛用していた 1967年製J-45の 外観に憧れて入手したギターなので、J-45の最大の弱点で、最大の特徴でもあります「アジャスタブルサドル」をスロット化することについて、音質を取るか、見た目を選ぶか 大いに悩みました。

悩んだあげく 樋口さんに
「アジャスタブルサドルの外観を 残したまま、出来る限りのリペアを お願いできたら 幸いです。極端なハナシ 2本のボルトの見た目だけ残ればと。。(苦笑)」
な~んて お願いをしてしまいました。

こんな お馬鹿な希望に 驚くような手法で応えて下さり 心から感謝です!!

この度は 本当にお世話になりました。とっても楽しい経験をさせていただきました、ありがとうございました。
樋口さんのお仕事(連絡、相談、見積、リペア、ブログ更新 etc)に 接して
「人に喜ばれること、ギターが喜ぶこと」を 樋口さんは何よりの喜びとされているんだな~と感じました。

これからも 出来るだけ長い間、たくさんのギタリストの皆さんに喜ばれるお仕事が続けられますように、樋口さん、またご家族の皆さまのご健康を 心よりお祈りいたします。

広島のwax1974

wax1974さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア後のギターへの暖かい言葉の数々を読ませていただいていて、wax1974さんのギターへの熱い「情熱と愛」を感じて私自身、胸が熱くなってしまいました。

今回、wax1974さんから「アジャスタブルサドルの外観を残したままでTUSQ化を」とのご依頼をいだき、「埋TUSQ材」案にたどり着くのに時間はあまり長くかかりませんでした。(構想自体はかなり以前から描き続けていました)

見積もり段階の中で、TUSQ材にスロットを掘る実験を繰り返して「これならいける!」という手応えが得られたところで、wax1974さんに今回の案をご提案させていただいた次第です。

wax1974さんのおっしゃるとおりの音色の激変はリペア最終段階の塗装タッチアップの間に確認できていたので、早くこのJ-45をwax1974さんの元へお送りしたい、この音を早く聴いていただきたい、とずっと思っておりました。

オーナー様に喜んで弾いていただいてもらえるギターになって、本当に良かったぁ~、と心から嬉しい気持ちと充実感でいっぱいです。

元気を取り戻したJ-45と一緒に素晴らしいギターライフをお送りください。
心からお祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


アジャスタブル・サドル・スロット化(TUSQ素材)

1.アジャスタブルサドルより少し大きめにTUSQ素材を切り出します。
2.サドルスロット・サイズに合わせてピッタリの楕円柱を切り出しました。

3.両サイドにボルト穴を空けます。
4.ボルトを取り付けられる溝を加工しました。

5.両サイドにダミーボルトを取り付けました。
6.ブリッジにマスキングテープを貼り、イントネーターとチューナーを取り付けました。

7.全てのフレットについてピッチを確認し、ずれている場合にはイントネーターのサドル山位置を調整します。
8.ピッチ調整後のサドル山位置をマスキングテープにマーキングしていきます。

9.サドル山位置とサドル溝位置を重ねていたマスキングテープに書き込んでおきます。
10.サドル溝加工ジグを取り付けました。

11.トリマのビット先端がサドル溝をなぞるように位置を微調整します。
12.サドル溝を掘っています。

サドル溝加工ジグとトリマで溝加工を行っている様子です


13.マスキングテープを剥がします。
14.ジグも取り外し、サドルスロット化ができました。あとはサドル作製を行いましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.ここでクリーニングを行います。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フィンガーボードのアールを計測します。
10.第一のフレットプレス・ジグです。

11.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。
12.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

13.ジグをサウンドホールから入れていきます。
14.ハンドルを回してフレットをプレスします。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
16.2つ目のジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレットプレスが終わりました。

フレットプレスを行っている様子です。


21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.専用のヤスリ・ブロックを使ってフレット端を整形します。

25.1弦側のフレット端も同じように整形します。
26.整形されたフレット端です。

フレット端を整形している様子です。


27.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
28.ボディもアクリル板でカバーしました。

29.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
30.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

31.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
32.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

33.さらにスチール・ウールで研磨を進めます。
34.最後はコンパウンドで磨き上げます。

35.プロテクタ類を外しましょう。
36.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当てて、コンとたたきます。

3.ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れました。
14.ナット上部をカットしました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


サドル作製

1.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。
2.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。

3.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。
4.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。

5.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。
6.サドル高の切り出しを終えました。

7.サドル上部にピーク位置を書き写します。
8.サドルピーク位置を削りだしていきます。

9.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。
10.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。

11.サドルを取り付けました。
12.完成したオフセットサドルとブリッジです。


塗装タッチアップ(ボディ)

1.リペア前の写真です。ショルダー部に大きなスクラッチ傷があります。
2.傷がついてから時間が経っているようです。

3.傷の周囲に残った塗装(浅い部分)を彫刻刀で削り取っていきます。
4.準備が整いました。

5.木地を脱脂した後、ステインを塗っていきます。
6.下地塗装を終えました。しばらくの間乾燥させます。

7.ステイン乾燥後、ラッカーを乗せていきます。
8.乗せては乾かしのサイクルを何回か繰り返します。

9.ラッカーの乾燥後、盛り上がった部分をスクレイパー(安全カミソリ)で削っていきます。
10.少しずつ削っていきます。

スクレイピングを行っている様子です。


11.タッチアップを終えました。
12.少し後が残っていますが目立たなくなりました。