ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

YAMAHA FG-350

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神奈川県にお住まいのK.I.さんからYAMAHA FG-350、Gibson J-45VG-01のリペアご依頼をいただきました。
YAMAHA FG-350はネックリセット、フレット交換等を含むトータルリペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られてK.I.さんから暖かいメッセージが届きました。

樋口様

昨日ギターを無事受け取りました。
ありがとうございました。
3本とも元気な姿で戻ってきてホッとしてます。
夕方届いてからとっかえひっかえ弾いていたら11時過ぎてしまって受取のメールが今日になりました。

最初に感じたのは弾きやすさが格段に良くなっていることでした。
3本ともネックの形状がまったく違っているので、握った感じは全然違うのですが、不思議な事に弾くフィーリングは変わりません。

J-45とVG-01は音のこもりとチューニングに関しては解消しました。
VG-01は元々は線の細い女性的な音質でしたが、リペア後は線の太い男性的な音質に変わりました。
こちらが本当のVG-01の音なのかも知れませんね。
J-45のサイドとバックをローズウッドに変えたらこんな音になるのではと思ったりしてます。
J-45も音質が以前より太くなったようです。
弦一本一本の音がはっきりして来てストロークだけでなくアルペジオでも良い感じなりました。
また2本とも音にふくらみが出たようです。

FG-350は37年前に買って30年位弾き続けたギターだったので、すっかり元気になって、こうしてまた弾く事が出来るだけで感慨無量です。
YAMAHAの赤ラベルと言っても、扱いと保存が悪かったので、音はそれほど期待していませんでしたが、うまく言葉で表現できませんが音量はあるけれどうるさい感じではなく、優しい音色は深みをましたような感じです。

今回のリペアで樋口さんのリペアの根本にある「弦が奏でた音をいかにボディに伝えるか」と言うことの意味が分かったような気がします。

今後の樋口さんのリペアマンとしてそしてギターリストとしての新たな進化を期待しています。

ありがとうございました。

K.I.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア後のギターたちの音色・演奏性にご満足いただけて、私もホッと安心するとともに、とても嬉しい気持ちでいっぱいです。

ギターを受け取った時の試奏では3本とも何かもの悲しいような寂しい音色でしたが、リペア後のギターを送り出す際に並べて試奏すると、どのギターもとても元気な音色に変わっていて、もう少しいてくれたらなぁ、と別れるのが惜しかったくらいです(笑)。

これからもK.I.さんの元でギターたちが活躍することと、素晴らしいギターライフを送られることを心からお祈りしております。

ギターのオーナー様から暖かいメッセージをいただくごとに、自信と勇気をもらえて本当に感謝の気持ちでいっぱいになります。こちらこそ本当にありがとうございました。
これからも決して傲ることなく精神面も含めたリペア技術向上へ精進する所存です。また演奏技術も進化させていきたいと思っております。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。


ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

ネックポケットにドリル穴を空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

ボディからフィンガーボードを外している様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

15.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
16.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。
24.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。

25.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。
26.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。

ヒール部を削っている様子です。


27.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。
28.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。

29.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。
30.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。

ネックの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


31.ネック側は周囲をマスキングテープを貼りました。
32.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックとボディ接合の様子です。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレット抜き取りの様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め・溝切り加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.ここで一旦フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
14.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.ハンドルを回してフレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


29.整形されたフレット端です。
30.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、ブリッジにイントネーターを取り付けます。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。


サドル溝再加工

1.オリジナル状態のサドル溝です。底面の平面性を確保するためと音響効果向上を図って、サドル溝の再加工を行うことにしました。
2.サドル加工ジグを取り付けました。

3.トリマでサドル溝を整形します。溝の深さも適正な深さまで掘り込みました。
4.溝加工後のサドル溝の様子です。底面がきれいな平面になりました。

サドル溝を再加工している様子です。



ピックガード製作

1.リペア前のボディです。ピックガードは外れています。
2.YAMAHA標準のピックガードをテンプレートにしてTOR-TIS素材を切り出しました。

3.2枚を両面テープで仮付けします。
4.周囲を削っていきます。

5.TOR-TIS素材は常温では割れやすいので、慎重に削ります。
6.両面接着シートを大きめに切り出しました。

7.周囲をカットします。
8.ピックガード取り付け完了です。