ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson L-50

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大阪府にお住まいのM.H.さんからMartin OOO-18とGibson L-50のリペアご依頼をいただきました。Martin OOO-18はフレット交換を含む弦周りリペアとピックガード交換を行いました。
リペア後のギターを受け取られてM.H.さんから暖かいメッセージが届きました。

樋口様

ギター届きました。ありがとうございました。
古い音が一新されました。

オリジナルの枯れた音がいいのだ、という人もいるでしょうが、ここまでGibsonのアーチトップの音が美しくなれば言うことないです。
1、2、3弦の高音の綺麗さはうれしいです。以前は調弦に苦労しました。
特に2弦はくせ者でしたが、バランスが見事です。

先日修理していただいたMartinとは対極にある音です。

Martin OOO-18もいたく満足しております。このように豊潤で華麗な音になるとは…。豊かで綺麗に澄んだハーモニックスに象徴されます。フレットの高さが、ちょうど小生の短い指にピッタリでした。ありがとうございました。

Martin, Gibson共に劇的によくなって、どっちを触れば…、なんて悩んでおります。
それぞれの新しい弦との相性もいいのでしょう。弦が手に入らなければ送っていただくことになるかと思います、よろしくお願いいたします。

お世話になりました。
長い間待った甲斐がありました。
また、よろしくお願いいたします。
お身体に留意され、ますますのよいお仕事を期待いたします。

M.H.

M.H.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア後のギターにご満足いただけて、とても嬉しい気持ちです。
アーチトップ、フラットトップを問わず、弦の振動をネック、ボディへ伝搬させるか、ということに集中したリペアでした。

仰るとおり、Martin OOO-18とGibson L-50はとても個性が強いギターで、全く異なる音色を発するギターになったと思います。

M.H.さんが素晴らしいギターライフをお送りいただくよう、両ギターが活躍することをお祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレット打ち込みの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
10.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

11.カットしたフレット端です。
12.フレットタング部をプライヤーでカットします。

13.バインディング加工を終えたフレット端です。
14.1つ目のジグはこのように固定します。

15.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
16.順にプレスを進めていきます。

17.2つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
18.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットをプレスしている様子です。


19.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
20.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

21.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。
22.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。

フレットエッジ整形の様子です。


23.整形されたフレット端です。
24.フレットエンド・ドレッシングファイルでバリを取り除いていきます。

25.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
26.ボディもアクリル板でカバーしました。直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。

27.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
28.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

29.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
30.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

31.さらにスチールウールで研磨を進めます。
32.最後はコンパウンドで磨き上げます。

33.プロテクタ類を外しましょう。
34.ピカピカのフレットになりました。


ブリッジ交換

1.新しいブリッジに交換します。ボディとブリッジの間に隙間がありますので、ブリッジ底面を削ります。
2.ブリッジ固定部領域です。

3.おそらく接着剤と思われる凹凸が見られます。
4.凸部分を削っていきます。

5.平坦になりました。
6.ジグがスライドする部分にマスキングテープを貼り、その上にステンレステープを貼ります。

7.ジグとブリッジをネジで固定しました。
8.ブリッジとジグを一緒にボディの上でスライドさせ、ブリッジ底面の整形を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディとブリッジが密着するように加工できました。

ブリッジ底面をボディのアールに合わせてサンディングしている様子です。



ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたきます。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


ピッチ調整~サドル作製

1.ブリッジにフレット片を乗せ、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込み、上部をカットします。
8.サドル上部にピーク位置を書き写します。

9.サドルピーク位置を削りだしていきます。
10.完成したブリッジとサドルです。


ペグ交換(当て木処理)

1.ギターヘッド部を横から見た様子です。先端が細くなっています。
2.ヘッド部裏側のペグです。ヘッド部傾斜の影響でペグが浮いているのがわかります。

3.ヘッド部表側のブッシュも浮いています。
4.傾斜1.2度の薄板加工用ジグです。

5.マホガニ板をジグに取り付けます。
6.傾斜の付いた薄板ができあがりました。

7.ペグの大きさに合わせてカットしました。
8.ポール位置に穴を空けました。

9.さらに彫刻刀で周囲の凹みを いれます。
10.ペグ取り付け穴も空けました。

11.着色しました。
12.薄板を挟んでペグを固定しました。


タッチアップ(バックボード)

1.バックボード塗装剥がれ部です。
2.木地が見えている状態です。

3.近似色で木地を染色します。
4.乾燥後、ラッカーを塗ります。

5.ほとんど目立たなくなりました。