ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson J-50

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兵庫県にお住まいのM.K.さんから1936年製のGibson J-50のリペアご依頼をいただきました。オーバーホールに近いトータルリペアを行いました。

ボディ再構成

1.ネックを取り外す間、ネックポケットからボディ内に蒸気が回り込んでいました。
2.バックバインディングを外しました。ボディ内全体がミシミシと音を立てています。

3.バックとサイドはバインディングだけで接合されている状態で容易にナイフを挿入することができます。
4.ネックブロックとボディの接着状態もほとんどはがれていました。

5.パキパキと音を立てながらバックがサイドと離れていきます。
6.バックボードが外れました。トップ・ブレイシングが見えています。

7.50年以上前に組まれたギターのボディです。
8.今回のリペアの前に施されたトップ板補強ブロックです。 これはちょっと(汗)・・・という感じです(笑)。

9.バックボードブレイシングは、大部分が剥がれています。
10.センターストリップも剥がれかけていました。

11.周囲の接着剤跡です。ほとんどカラカラ状態で接着機能はありません。
12.古い接着剤を剥がしました。

古い接着剤を剥がしている様子です。


13. ブレイシングの隙間にナイフを挿入していきます。
14.簡単に外れてしまいました。

15.他のブレイシングも極めて弱い接着状態です。
16.センターストリップ、ブレイシングが全て外れてしまいました。

17.約10mのアールの付いたボードの上にサンディングペーパーを貼り、部材に大きなアールを付けてジグを作製します。
18.センターストリップを接着します。

19.バックボードに大きなアールを持たせて、少し膨らませた状態でセンターストリップを接着します。(上の写真で作ったジグを使います)
20.センターストリップ接着完了です。

21.同じボードの上でブレイシングを接着します。
22.ブレイシングはスキャロップされていますので、その山を傷つけないように当て木を当てます。

23.ネックブロックとサイドボードも外れかけています。
24.こちらは完全に外れる状態ではないので、追接着を行いました。

25.バックボードを再接着する前にサイド側のブロック(ネックとボトム)とライニングの古い接着剤も除去します。
26.ネックブロックの古い接着剤はサンディングブロックで削り取れました。

27.クリーニング前のボトムブロックです。
28.クリーニングを行いました。

29.ライニング(1弦側)です。
30.クリーニング後です。

31.ライニング(6弦側)です。
32.クリーニング後です。

33.ネックブロック下に接着されていた補強用ブロックです。音響特性を改善するために外すことにしました。
34.ネックブロックとトップ板との接着状態を改善するためにもこのブロックをノミで削り取っています。

35.ブロック切削除去ををトップ板ギリギリのところで止めてネックブロックとトップ板の隙間を確認しました。
36.この時点でバックボード接着後、トップ板脱着を行うことにしました。

37.トップ板のブリッジ裏側に接着されているブリッジプレートです。
38.50年以上弦のエンドポールを支えてきたメイプル材はボロボロになっています。

39.端の方は浮いていますが、中央はまた固着されています。
40.無理をするとトップ板を傷つけますので、熱を加えて取り外します。

41.ラバーヒーターを当て木でクランプして徐々に加熱していきます。
42.数分後クランプを外してナイフを挿入すると隙間にゆっくりと入っていきます。

43.ブリッジプレートが外れました。
44.新しいプレートはトップ板が外れた状態で接着することにします。

45.バックボード再接着の準備がととないました。
46.スプール・クランプで周囲全体が均等な圧力で接着されるようにします。

47.バックボードの接着完了後、トップ板の取り外しを行います。まず周囲のバインディングを助jに外していきます。
48.トップ板バインディングが外れました。

49.トップ板とサイドの間にも隙間が見られます。
50.ナイフを徐々に挿入していきます。

51.ボディに付加を与えないようにゆっくりとナイフを進めていきます。
52.トップ板が外れました。

53.ウッドブロック除去の続きです。トップ板を傷つけないように徐々に彫刻刀で削り取っていきます。
54.これ以上進めるとトップ板が危ないので彫刻刀の作業はここで止めます。

55.後はサンディングブロックで削り取っていきます。
56.ウッドブロック除去が終わりました。

57.ブレイシング接着状態を確認しています。
58.ほとんどのブレイシングが浮いている状態です。

59.Xブレイシングを外しました。
60.ボトム・ブレイシングも外れました。

61.一部を除いてブレイシングが外れてしまいました。
62.バックボードと同様にトップ板の周囲の古い接着剤を削り取っていきます。

63.ウッドブロックが貼られていた位置にUpperTransversBarを取り付けます。
64.スプルース材を切り出してオリジナルの形状に近づけました。

65.Go-Barクランプでブレイシングを接着していきます。クランプで溢れた接着剤はこまめにふき取っていきます。
66.このまま接着剤の固着を待ちます。

67.トップ板のボトム側です。リペア跡は見られますが、完全ではありません。
68.パッチ材を切り出して接着補強していきます。

69.トップ板割れの補強リペアを行いました。
70.新しいブリッジプレートも接着しました。

71.トップ板接着の前に接着面をクリーニングしておきます。
72.クリーニングしたネックブロックです。

73.ボトム・ブロックです。
74.クリーニング後です。

75.サイド・ライニングです。
76.クリーニング後です。

77.トップ板の接着準備が整いました。
78.スプール・クランプで全体に均一な接着を行います。


ブリッジ交換(新規作製)~ブリッジプレート加工

1.オリジナルブリッジです。
2.弦高を下げるため上面を削られています。

3.ラバーヒーターで暖めて取り外します。
4.クランプで挟んで徐々に加熱していきます。

5.温度をモニタしながら加熱します。
6.接着面が暖まったところでナイフを挿入します。

7.ブリッジが取り外せました。
8.トップ板接着面をサンディングブロックで軽くサンディングして起きます。

9.ローズウッド材から新しいブリッジを切り出していきます。
10.オリジナルのブリッジよりも少し高めに加工します。

11.ブリッジピン穴位置はオリジナルと同じにします。
12.ほぼ同型に切り出せました。

13.ブリッジピン穴の傾斜も付けました。
14.目標通りの高さを確保出来ました。

15.トップ板接着面をマスキングし、ニカワを均一に塗っていきます。
16.そっとブリッジを乗せます。

17.クランプで固定します。
18.溢れたニカワをふき取ります。

19.マスキングテープを剥がし・・・
20.そのまま固着を待ちましょう。

21.固着したブリッジのピン穴をガイドにブリッジプレートにも穴を空けていきます。
22.ブリッジプレートは当て木をして割れないように保護しておきます。

23.穴加工前のブリッジプレートです。
24.穴加工を終えたブリッジプレートです。

25.これはリペア前のブリッジプレートです。弦のエンドポールが深く食い込んでいるのがわかります。
26.リペア後のブリッジプレートです。エンドポールがきっちりとプレートの上に並んでいます。


ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。(フレット交換を行いますので、20フレットまで外しています)

5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

15.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
16.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.0.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.削り粉をクリーニングします。

11.フレット打ち込みの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
14.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.フレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

31.整形されたフレット端です。
32.フレットエッジ・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらにスチールウールで研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


フィンガーボード・ディボット埋木

1.フィンガーボードにいくつかの凹み(ディボット)があります。
2.フレット交換の作業中に凹みをペーストで埋めました。

3.フィンガーボードのアールにあった当て木にサンドペーパーを貼り、余分な部分を削っていきます。
4.埋木後のフィンガーボードです。

5.リペア前の4フレットです。
6.リペア後の4フレットです。

7.リペア前の6フレットです。
8.リペア後の4フレットです。


ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナットに当て木を当てて軽くコンとたたきます。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。


サドル溝加工~サドル製作

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置をマスキングテープに書き写していきます。
4.サドル山の目標高さも実測値から計算して記録しておきます。

5.イントネーターを外し、マークしたサドル山位置を囲んでサドル溝位置を確定します。
6.サドル山位置とサドル溝位置を別に記録しておきます。

7.サドル溝を掘るための専用ジグを装着しました。
8.トリマでサドル溝を彫り込んでいきます。

トリマでブリッジにサドル溝を掘っている様子です。


9.マスキングテープを剥がすとサドル溝が現れます。
10.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

11.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
12.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

13.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
14.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

15.サドル高の切り出しを終えました。
16.サドル上部にピーク位置を書き写します。

17.サドルピーク位置を削りだしていきます。
18.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

19.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
20.ブリッジピン穴加工を終えました。

21.サドルを取り付けました。ロングサドル・エッジスロープの加工を行います。
22.半丸ヤスリでスロープを粗く削り取ります。

23.粗削りを終えました。
24.サドル面をブリッジ面に対して、少し上あたりで止めておきます。

25.ブリッジ面をマスキングテープで保護します。
26.ミニルーターに円錐ビットを取り付けて少しずつブリッジ面に合うようサドルスロープを低くしていきます。

ミニルーターでサドルのサイド・スロープを加工している様子です。


27.ルーター加工を終えたところです。マスキングテープを少しこするところで止めました。
28.マスキングテープを外しました。

29.サドルを取り付けました。
30.完成したブリッジとサドルです。