ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin HD-28V

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大阪府にお住まいのT.M.さんからMartin HD-28Vのリペアご依頼をいただきました。フレット交換と弦周りのTUSQ化を行いました。
リペア後のギターを受け取られてT.M.さんから暖かいメッセージが届きました。

昨日早速ギターを弾いてみました。
開放しただけでリペア前との違いは明らかでした。
上手く表現(説明)できませんが、以前は弦だけが鳴ってるとすれば、リペア後は本体全体で鳴ってると言っても過言ではないです。

一弦一弦の音の伸び(サスティーン)があって、弾いているととても心地いいです。以前の音にも不満はなかったのですが、1、2弦の音量が3から6弦に比べて、小さいと感じていましたが、リペア後の1、2弦の鳴りは明確大きくになりました。フレットも交換して指のタッチがしっかり感じるようにもなりました。
今回のリペアで思ったのですが、通常のギターは本来の質を発揮していないかもしれませんね。長い間待ちましたが今回リペア(というよりチューンアップですね)をお願いして本当によかったと思っています。

樋口様とのお話の中で常に向上心をもって取り組んでおられるとのことで、さらなる技術でたくさんのギター達を甦らせてあげてください。
この度はお世話になりありがとうございました!

T.M.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

まだまだギターの潜在能力を知りうる境地には至っておりませんが、能力を発揮できない状況に置かれているギターが多いことは確かではないかと思います。T.M.さんのHD-28Vもその中の一本であり、今回のチューンアップ・リペアでオリジナル状態よりもはるかに素晴らしい音色を奏でてくれるようになったと思います。

この度は弊工房にギターリペアのご依頼をいただき、誠にありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.ここで一旦削り粉をクリーニングしましょう。

7.フレット打ち込みの準備が整いました。
8.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

9.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
10.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

11.フィンガーボード全体に渡ってアールを確認します。
12.第一のフレットプレス・ジグです。

13.ジグをサウンドホールから入れていきます。
14.フレットをプレスします。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
16.2つ目のジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.専用のヤスリ・ブロックを使ってフレット端を整形します。

25.1弦側のフレット端も同じように整形します。
26.整形されたフレット端です。

27.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。
28.切り取ったフレット片は一カ所にまとめておき、失わないように廃棄しましょう。

29.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
30.ボディもアクリル板でカバーしました。

31.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
32.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

33.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
34.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

35.さらに研磨タワシ(#600~#800)で研磨を進めます。
36.最後はコンパウンドで磨き上げます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1. 横から当て木を当てて、コンとたたきます。
2.ナットが取り外せました。

3.ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.2弦のナット高をギリギリまで下げました。
24.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。


ピッチ調整~サドル作製

1.オリジナルのロングサドルです。
2.このロングサドルはブリッジに接着されておらず、スロットに挟まっている状態でした。

3.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
4.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

5.サドルピーク位置を書き写しておきます。
6.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

7.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
8.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

9.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
10.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

11.サドル高の切り出しを終えました。
12.サドル上部にピーク位置を書き写します。

13.サドルピーク位置を削りだしていきます。
14.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

15.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
16.ピン穴径も少し広げます。

17.ロングサドルのサイドスロープ加工を行います。
18.あらかじめヤスリで粗く削ったスロープをミニルーターを使って徐々にブリッジと面一に加工していきます。

19.スロープ加工が完了しました。
20.完成したオフセット・ロングサドルとブリッジです。