ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

S.Yairi YD-108

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岐阜県にお住まいのT.A.さんからS.Y.airi YD-108のリペアご依頼をいただきました。
フレットすりあわせと弦周りのTUSQ化を行いました。
リペア後のギターを受け取られて、T.A.さんから暖かいメッセージが届きました。

オデッセイ 樋口様

このたびはお世話になりました。
このギターは新品で入手して1年なのですが、音がややつまった感じがしておりました。

しかし、調整していただき、ジャランとやると、弦全体バランスがよいと言うのでしょうか、きれいなコーラスです。1,2弦のサスティンもよく伸びるようになり、弾いていて大変気持ちよいです。弦高もしっくりきて、押さえやすいです。

このYD-108、今後ずっと使っていきたいギターですので、調整をお願いしてよかったです。普段は指弾きしていますが、これを持って、またフォーク喫茶で歌いたいです。
ありがとうございました。

余談ですが、ギターを買っても弾き辛くて断念したという方があります。おそらく、弦高が高いとか、ナット溝のアンバランスなどで、押弦しにくいということもあるかもしれないと思っています。調整して使うことがもっと知られれば、ギターに親しむ人がさらに広がるのではなかと思っています。

T.A.さん、とても暖かいメッセージをいただき、本当にありがとうございました。

今回のギターリペアのテーマは全弦のバランス確保でした。
おっしゃるとおり、リペア前は高音弦の詰まり感がありました。
弦周りリペアをナット、ブリッジ(ピン穴)、サドルと順に進めていく間に、高音弦の詰まり感が徐々に解消されることを確認でき、リペア後は全弦に渡って非常にクリアな音色となりました。
とてもコンディションの良いギターですので、これから先も素晴らしい音色で活躍することと思います。

また、ギターの初期調整に関しましても、T.A.さんのおっしゃるとおりで、私も新しいギターには、そのプレイヤーに最適な初期調整が必要であると考えております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、ありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。


フレットすりあわせ

1.マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
2.ボディもアクリル板でカバーしました。

3.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
4.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

5.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
6.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

7.さらに研磨タワシ(#600~#800)で研磨を進めます。
8.最後はコンパウンドで磨き上げます。

9.プロテクタ類を外しましょう。
10.ピカピカのフレットになりました。

11.すりあわせ前のフレットの様子です。1,2弦のロー~ミドルフレットにかけて摩耗跡がありました。
12.すりあわせ後のフレットです。外観上だけではなく、山もそろったフレットはギターの音色や演奏性にも影響を与えます。


ナット交換

1. 当て木を当てて、軽くコンとたたきます。
2.ナットが取り外せました。

3.ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.5弦のナット高をギリギリまで下げました。
24.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。


サドル交換(ピッチ調整、ブリッジピン穴加工含む)

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドルピーク位置を書き写しておきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したオフセットサドルとブリッジです。