ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin HD-28 Custom

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兵庫県にお住まいのT.N.さんから1978年製のMartin HD-28 Customのリペアご依頼を頂きました。長期間放置されていたそうで、工房に持ち込まれた時にはピックガードも外れ、悲しい状態でしたが、リペア後はとても元気になりました。
ギターを引き取りにお越しになったT.N.さんから早速暖かいメッセージが届きました。

昨日はありがとうございました。帰ってから早速弾き込みましたがリペアに出す前とはまったく別のギターのように鳴って本当に満足してます。リペアをして本当によかったと感謝しております。

T.N.さん、暖かいメッセージをいただき、ありがとうございました。

弊工房にギターをお預け頂いた際に、T.N.さんがおっしゃった「このギターをなんとかしてやりたい」という熱い言葉がリペアをしている間、ずっと頭に響いていました。

ギターも「なんとかしてください」と私に語りかけていたのかもしれませんね(笑)。

リペア後のギターは潜在能力がほぼ完全に出ている状態で、本当に素晴らしい音色になったと思います。

長い眠りから覚めたHD-28がT.N.さんと一緒に活躍されることをお祈りしております。

この度は弊工房にリペアご依頼を頂き、誠にありがとうございました。今後とも何卒よろしくお願い致します。


ネックリセット

1.リペア前のフィンガーボード面とブリッジの交点です。このままでは最適な弦高は維持できないと判断し、リセットを行うことにしました。
2.リセットを行う前の準備です。ギター部位の寸法からネックヒール部の切削厚みを計算しておきます。

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. これはラバーヒーターです。

5.ヒーターを当て木でクランプします。真ん中にスポット温度計を置きます。
6.ヒーターに通電します。徐々に温度を上げていきます。

7.最高温度でそのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11.ジグの裏側はこのような形になっています。
12. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。

13.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。
14.ネック押さえを徐々に締めながら蒸気を注入していくと、数分後ネックがはずれます。

15.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
16.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

17.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
18.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

19.ネックヒール部分です。ヒールキャップがついています。
20.ヒールキャップを外しました。

21.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
22.ヒール部分を削っていきます。

23.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
24.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

25.同様に1弦側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
26.ヒールのサイド部分は削り終えました。

27.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。
28.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

29.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
30.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

31.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
32.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

33.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
34.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

35.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
36.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

37.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
38.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

39.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
40.0.クランプと当て木でネックを固定します。

41.クランプによってあふれ出た接着剤をふき取っていきます。
42.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。爪楊枝の先にエボニー片を接着し、丸く削りました。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.ここで一旦削り粉をクリーニングしましょう。

11.フレット打ち込みの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
14.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

15.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。
16.第一のフレットプレス・ジグです。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.フレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

25.打ち込み終わったフレットの端はこのように飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.フレット端をカットしました。
28.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

31.フレット端を整形しました。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらに研磨タワシ(#600~#800)で研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。


ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ、ローズウッド材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ボディ内にカッターを入れます。
10.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

11.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。
12.1,3,5弦の凹み加工が終わった様子です。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.ワックスペーパーと当て木を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.翌日、同様にして2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24. 弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。


ナット交換

1.ナットに当て木を当てて軽くコンとたたきます。
2.ナットが外れました。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.ナット溝にピッタリはまるようになりました。
8.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

9.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
10.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

11.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
12.ナット上部を切り取りました。

13.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
14.ナットらしくなってきました。

15.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
16.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

17.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
18.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。

19.ストリングリフターで弦を待避させておきます。
20.ナット溝を徐々に下げていきます。

21.6弦のナット高をギリギリまで下げました。
22.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。


ピッチ調整~サドル作製

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドルピーク位置と目標弦高を書き写しておきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.糸鋸加工が終わったブリッジ・ピン穴です。
14.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。

15.ブリッジピン穴加工を終えました。
16.完成したオフセットサドルとブリッジです。


ピックガード取り付け

1.TOR-TIS素材(BOLD)を大きめに切り出しました。(左側はMartinオリジナルピックガードです)
2.両面テープで2枚を仮付けします。

3.下側がTOR-TISです。このはみ出た部分を削り取っていきます。
4.TOR-TIS素材は常温ではもろく、割れやすいので気を付けて削ります。

5.内側のアール部分は半丸ヤスリで削ります。
6.削り出しを終えました。中央がTOR-TISで、右側が一回り大きめに切った両面接着シートです。

7.接着面をベンジン(ナフサ)でクリーニングします。
8.両面接着シートを貼り付け、はみ出た部分をカットしていきます。

9.ボディに貼り付ける前に位置決めして、マスキングテープでマークしておきます。
10.かっこいいですね!オンリーワンのギターになりました。