ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-35

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高知県にお住まいのY.M.さんからMartin D-35リペアのご依頼をいただきました。このギターはY.M.さんが若い頃に購入され、最近復活したギターだそうです。
ネックのリセットを含むトータルリペアを行いました。(Y.M.さんからは前回のS.Yairi YD-42/Nに引き続き、2本目のギターリペアご依頼です)
リペア後のギターを受け取られて、Y.M.さんから暖かいメッセージが届きました。D-35がこれからのY.M.さんのギターライフで活躍することをお祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、誠にありがとうございました。
今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。

本日、Martin D-35とAria AE-100届きました。
長年弾かないでほったらかしになっていたMartin D-35。数年ぶりに弾こうとしたところ弾ける状態ではなくリペア依頼となりましたが、見事復活し本当によかったと思っています。
リペア表にある9割以上のリペアをお願いすることとなりましたが、元通り、いや元以上に弾きやすくしていただき、感謝しています。
リペアする方の人間性というか誠実で熱い思いが吹き込まれている気がしました。
元の音色の記憶をたどりながら弾いてみて、他の国産ギターと比べ、やはりMartin D-35と思える力強い音の中に優しい鈴鳴り感や全ての弦のバランスのよさ。
これから少しずつギターとともに元の感触を取り戻したいと思っています。


リペア前の状況確認

1. バックボードのブレイシング剥がれです。
2. ブリッジも剥がれかけています。

3. ピックガードも縮んでおり、剥がれかけています。ギターの経年を感じました。
4. ネック・ヒール部の浮きも見られます。ネックリセットが必要と判断しました。


ブリッジ脱着

1.ブリッジの剥がれが大きいので、一旦外して再接着します。輻射熱を防ぐカバーをします。
2.ラバーヒーターです。これを使ってブリッジを暖めます。

3.ヒーターをクランプし、スポット温度計をヒーターの上に置きます。
4.温度計をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

5.ブリッジが充分暖まったところで、クランプ類を取り除き、ブリッジ下にナイフをゆっくり入れていきます。
6.粘土状になった暖まった接着剤の感触を確認しながら、ゆっくりとナイフを進めていきます。

7.ブリッジが外れました。
8.紙ヤスリをブロックに巻き付けて簡単なサンディングブロックを作ります。

9.トップ板をサンディングブロックで軽くサンディングします。
10.ブリッジ裏側もクリーニングして、再接着の準備完了です。

11.トップ板をマスキングテープで保護した後、ブリッジをHideGlue(ニカワ)で接着します。
12.ブリッジ位置決めジグを使ってブリッジの位置決めを行います。同時に周りにあふれた接着剤をマスキングテープごと取り外します。

13.ブリッジプレートを保護するアクリル板をボディ内に入れます。
14.ブリッジをクランプし、固着を待ちます。


ピックガード交換

1.オリジナルピックガードの浮き部分にナイフを入れます。
2.ナイフはピックガードに当たるようにゆっくりと動かしていきます。

3.オリジナルピックガードの取り外しが終わりました。
4.TOR-TIS素材をオリジナルピックガードより少し大きめに切り出しました。ドライヤーで暖めて平面にします。

5.オリジナルピックガードに両面テープを数カ所貼り・・・。
6.新しいピックガードに貼り付けます。

7.はみ出た部分を・・・。
8.ヤスリで削っていきます。

9.両面粘着シートをカットしましょう。
10.オリジナルと新しいピックガード、そして両面シートです。

11.両面シートを貼って、はみ出た部分をカットしていきます。
12.新しいピックガードの完成です。


ネックリセット

1. 弦を外してフレット面のブリッジ高を測定します。目盛りは4.5mmを指しています。
2.ターゲットのフレット面を9.5mmに設定し、オリジナルよりも5mm上げることにします。(計算式からヒール部は約1mm削ることになります)

3. 15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4. これはラバーヒーターです。

5.ヒーターを当て木との間にサンドイッチします。真ん中の丸いものはスポット温度計です。
6.ヒーターに通電します。徐々に温度を上げていきます。

7.最高温度でそのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11.ジグの裏側はこのような形になっています。
12. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。

13.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。
14.ネック押さえを徐々に締めながら蒸気を注入していくと、数分後ネックがはずれます。

15.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
16.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。

17.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。
18.ネック接合部の接着剤も取り除きます。

19.ネックヒール部分です。ヒールキャップがついています。
20.ヒールキャップを外しました。

21.ネック角度から算出されたヒールの削り部分を残してマスキングテープを貼ります。(これが目印になります)
22.ヒール部分を削っていきます。

23.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
24.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(左)は削らず、ヒール部(右側)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

25.同様に1弦側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
26.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

27.ジョイント部の際も薄くノミで削ります。
28.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

29.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
30.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

31.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
32.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

33.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
34.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

35.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
36.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

37.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
38.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

39.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
40.0.クランプと当て木でネックを固定します。

41.クランプによってあふれ出た接着剤をふき取っていきます。
42.このまま固着を待ちましょう。


フレット交換

1.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。(ネックが外れている時にこの作業を行いました)
2.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

3.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
4.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

5.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
6.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.サンディング後のフィンガーボードです。フレット溝が削り粉で埋まってしまいました。
10.削り粉をクリーニングします。

11.フレット打ち込みの準備が整いました。
12.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。

13.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
14.フレットの切れ端はこのようになっています。バインディング処理を行いましょう。

15.フレットのタング部分専用のプライヤーを使って端加工処理します。
16.バインディング加工を終えたフレット端です。

17.フレットプレスを行うジグ達です。
18.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

19.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。
20.第一のフレットプレス・ジグです。

21.ジグをサウンドホールから入れていきます。
22.フレットをプレスします。

23.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
24.2つ目のジグはこのように固定します。

25.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
26.順にプレスを進めていきます。

27.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
28.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

29.打ち込み終わったフレットの端はこのように飛び出ています。
30.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

31.フレット端をカットしました。
32.カットしたフレット片は見失わないように一カ所に集めておきます。

33.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
34.1弦側のフレット端も同じように整形します。

35.フレット端を整形しました。
36.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

37.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
38.ボディもアクリル板でカバーしました。

39.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
40.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

41.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
42.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

43.さらに研磨タワシ(#600→#800)で研磨を進めます。
44.最後はコンパウンドで磨き上げます。

45.プロテクタ類を外しましょう。
46.ピカピカのフレットになりました。


ナット交換

1.ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
2.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

3.クリーニング完了したナット溝です。
4.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

5.ナットの厚みを出し、ナット取り付け位置に密着することを確認します。
6.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

7.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
8.ナット上部を切り取りました。

9.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
10.ナットらしくなってきました。

11.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
12.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

13.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
14.弦高調整前のナットができあがりました。

15.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
16.ストリングリフターで弦を待避させておきます。このジグのおかげで弦を緩めたり張ったりすることが必要なくなりました。

17.ナットの弦溝を徐々に掘り下げていきます。削っては隙間を確認し、の繰り返しを行います。
18.6弦のナット高をギリギリまで下げました。

19.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。

ピッチ調整~サドル作製

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドルピーク位置と目標弦高を書き写しておきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高のの切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.糸鋸加工が終わったブリッジ・ピン穴です。
14.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。

15.ブリッジピン穴加工を終えました。
16.完成したオフセットサドルとブリッジです。


ブレイシング剥がれリペア(バックボード)

1.バックボード上部のブレイシングに浮きが見られました。
2.ブレイシングをマスキングテープでカバーします。

3.マスキングテープの上からタイトボンドを乗せていきます。
4.マスキングテープを破るようにナイフでタイトボンドを浮き部分に流し込んでいきます。

5.クランプで固定し、固着を待ちます。
6.固着完了後のブレイシングです。