ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

YAMAHA L-10

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徳島県にお住まいのY.K.さんからYAMAHA L-10のリペアご依頼をいただきました。非常に弦高が高く、ネックの元起きが見られたため、ネックリセットを含めトータルリペアを行いました。
リペア後は弾きやすさ、サウンドとも素材の良さと相まって素晴らしいギターに蘇りました。(Y.K.さんから昨年Martin OOO-28のリペアをいただいており、2本目のギターリペアとなります)
リペア後のギターを受け取られて、Y.K.さんから暖かいメッセージをいただきました。Y.K.さん、ありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願い致します。

ギター受け取りました。
すごい変身です。
リペア前は何かしょぼいと言うか、これが70年代のYAMAHAかと思いました。
一時は手放すことも考えましたが、リペアをして満足しています。
音量、箱なり感すごい変身です。ナットについても大変弾きやすくなっています。

今回のリペア、トータルリペアを行ったことより、 音量、音質、弾きやすさすべてにおいて満足しています。
今後、一生付き合えるギターに変身しています。
樋口様のリペアテクニックのすばらしさには 以前にも増して満足しています。
今後とも、リペアを通じてギターファンの気持ち大事にしてください。
今回のリペアには大変お気遣いいただきありがとうございました。


リペア前の状況確認

1. 6弦12フレットの弦高です。5mm弱あります。
2. 同じく1弦側の弦高です。3mm弱あります。

3. 6弦のサドル高は約2mmです。
4. 1弦サドル高は約1mmです。

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7. ネックをロッドで出来るだけ直線に近づけた上で、直定規を当て、そのまま直定規をスライドさせてブリッジに当ててみます。
8. ブリッジ面より下のこの位置にフレット面が向かっていることがわかります。この時点でネックリセットが必要との判断が出来ます。

ネックリセット

1. 弦を外して、もう一度フレット面のブリッジ高を測定します。目盛りは4mmを指しています。
2.ターゲットのフレット面を8mmに設定し、オリジナルよりも3mm上げることにします。(計算式からヒール部は約1mm削ることになります)

3. 15フレットをハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。
4. フィンガーボードを傷つけないようにゆっくりと抜いていきます。

5. フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
6. ドリルであけた穴です。ネックリセット後にこの穴は埋めますが、ほとんど目立たない穴です。

7.ヒーターを当て木との間にサンドイッチします。
8.クランプで当て木を固定し、ヒーターに通電します。徐々に温度を上げていきます。

9.最高温度でそのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
10.フィンガーボードがボディからはずせましたので、次にネックを蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。

11.子供にTシャツを着せる感じでジグを取り付けます。
12.ジグ取り付けが完了しました。

13.ジグの裏側はこのような形になっています。
14. ポイントとなるネック押さえ部分です。この段階では、まだネックは押さえません。(ジグが固定される程度の強さで締めておきます)

15.ボディ全体を若干上に上げて、蒸気が冷えた水分がボディ内部に入らないようにします。さらにタオルを敷いてギターから出てくる蒸気を受けるようにしておきます。
16.蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。

17.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。
18.蒸気注入中です。あふれ出てくる蒸気をタオルで拭き取っていきます。

19.ネック押さえを徐々に締めながら蒸気を注入していくと、数分後ネックがはずれます。
20.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。

21.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。
22.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。

23.古い接着剤だけ彫刻刀で削り落としていきます。ネック(ヒール部)は削らないように注意します。
24.クリーニング終了したネック接合部です。

25.ボディ側ジョイント部も同様にクリーニングを行いました。
26.ボディ側フィンガーボード接着部分です。

27.サンドペーパーとブロックで軽くサンディングしておきます。
28.クリーニングが終了したネックジョイントです。

29.ネック角度から算出されたヒールの削り部分を残してマスキングテープを貼ります。(これが目印になります)
30.ヒール部分を削っていきます。

31.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
32.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(奥)は削らず、ヒール部(手前)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

33.同様に6弦側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
34.ヒール部はよく研いだノミで削ります。

35.切削加工が終わりました。
36.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

37.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
38.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

39.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
40.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

41.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
42.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

43.そしてネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
44.フィンガーボードのボディからブリッジへの平面性を確認します。ネック接合部の調整~確認の工程を繰り返します。

45.調整が終わったネック接合部です。
46.ボディ側もシムを取り付けてネック接合の準備が完了しました。

47.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。(この時期は気温が高かったので、湯煎の必要はありませんでした)
48.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

49.接着剤を塗りおえました。
50.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。

51.クランプと当て木でネックを固定します。クランプによってあふれ出た接着剤をふき取っていきます。
52.このまま固着を待ちましょう。

53.すべての調整が終わった後、ネックリセットの効果を確認しました。6弦弦高は2.8mmに抑えられました。
54.1弦弦高は1.8mmです。

55.こちらは調整後のサドルです。6弦サドル高を5mm確保できました。
56.弦のサドルへのテンションも最高の状態に調整することが出来ました。

フレット交換

1.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。爪楊枝の先にエボニー片を瞬間接着します。
2.彫刻刀でエボニー片の角を削り取っていきます。フィンガーボードの穴よりも少し大きめにします。

3.削り終えたエボニー片です。
4.タイトボンドを少し穴に塗り、そこに爪楊枝ごとエボニー片を入れます。

5.フレット溝整形用のポイントのこぎりでエボニー片を削ります。
6.軽く溝を掘ると穴埋め作業完了です。

7.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
8.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

9.すべてのフレットを抜き終えました。
10.フィンガーボードの平面性を確認します。

11.軽くサンディングします。
12.サンディング後のフィンガーボードです。フレット溝が削り粉で埋まってしまいました。

13.削り粉をクリーニングします。
14.フレット打ち込みの準備が整いました。

15.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
16.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

17.フレットの切れ端はこのようになっています。バインディング処理を行いましょう。
18.フレットのタング部分専用のプライヤーを使って端加工処理します。

19.バインディング加工されたフレット端です。
20.加工片は行方不明にならないように一カ所にまとめておきましょう。

21.まず片方をフィンガーボードに打ち込みます。
22.そしてもう片方を打ち込みます。

23.最後に真ん中を打ち込みます。
24.この要領で残りのフレットも打ち込んでいきましょう。

25.すべてのフレット打ち込みが終わりました。
26.打ち込み終わったフレットの端はこのように飛び出ています。

27.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。
28.フレット端をカットしました。

29.フィンガーボードとボディをマスキングテープとアクリル板で保護します。
30.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。

31.1弦側のフレット端も同じように整形します。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらに研磨タワシ(#600→#800)で研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。

ナット交換

1.ナットを取り外したナット溝です。比較的きれいな状態です。
2.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

3.クリーニング完了したナット溝です。
4.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

5.ナットの厚みを出し、ナット取り付け位置に密着することを確認します。
6.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

7.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
8.ナット上部を切り取りました。

9.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
10.ナットらしくなってきました。

11.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
12.このギターのオーナー様のご希望で、6弦位置が少し外側になるように調整した弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

13.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
14.弦高調整前のナットができあがりました。

15.弦を張って弦高調整を行います。この写真は3弦の調整を行っている様子です。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
16.ストリングリフターで弦を待避させておきます。このジグのおかげで弦を緩めたり張ったりすることが必要なくなりました。

17.ナットの弦溝を徐々に掘り下げていきます。削っては隙間を確認し、の繰り返しを行います。
18.3弦のナット高をギリギリまで下げました。

19.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。

ブリッジピン穴加工

1.糸鋸の刃で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。
2.糸鋸加工後のブリッジです。

3.ミニルーターで糸鋸の溝を太くし、角度をつけていきます。
4.ブリッジピン穴加工が完了しました。

ピッチ調整~サドル作製

1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドルピーク位置と目標弦高を書き写しておきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの端はフラットファイルで丸みをつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高のの切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.オフセットサドルが完成しました。

ペグ交換

1.オリジナルのペグです。チューニングには非常に力がいります。また安定性も良くありません。
2.ヘッド裏側の取り付けネジを外していきます。

3.すべてのペグを外しました。
4.新しいペグはGOTOH製のものです。

5.新しいペグの装着完了です。
6.弦を張りました。チューニングも良好です!

トップ板塗装リペア

1.サウンドホール周辺に塗装剥がれが見られます。
2.こちらはスクラッチ跡です。

3.シェラックニスをウォッシュコートとして塗ります。
4.スクラッチにもシェラックニスをしみこませます。

5.ラッカー塗装、研磨を行いました。
6.スクラッチ傷跡も修復できました。