ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson Dove

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兵庫県にお住まいのT.F.さんから前回のMartin D-45に引き続き、Gibson Doveのトータルリペアのご依頼をいただきました。
ボディ内部のブリッジプレート・リペア、フレット交換、および弦周りのTUSQ化を行いました。
リペア後はブリッジ・サドルを中心に弦テンションが安定し、Gibson特有のダイナミックな音色を奏でるようになりました。
T.F.さん、暖かいメッセージをいただき、ありがとうございました。

この度はお世話になりました。
見違えるほど、本来の音色を奏でるようになりました。
今まで各種の弦を張って試しましたが、今一納得できませんでした。
これは打楽器か?と半ば諦めていました(笑)
次第に手にする回数もすく無くなり現在に至った次第です。
根本的にメンテを致しますと、ここまで蘇るものなのかと今更ながら驚いております。
早速弦(ギブソン)を張りなおし、試奏致しました。
ストローク時の箱鳴り、高音のサスティーンの伸びがものの見事に蘇りました。
弦のテンションも下がって(MD)が張れそうです。
ひとえに樋口さんの的確なメンテのお陰です。
樋口様のご健勝と"オデッセイ"のご繁栄を祈念致しております。


ブリッジプレート・リペア

1.弦の巻き部分がサドルの上に乗りかかっています。
2.ボディ内部を確認したところ、ブリッジプレート(ボディ内部、ブリッジの裏側にある板です)に弦のエンドポールが食い込んでしまっています。

3.ブリッジセイバーを使ってブリッジプレートをリペアします。まずプレートに窪みを加工します。
4.プレート側(ボディ内部)はこの写真のカッターをセットします。

5.内部のカッターを手で固定しながら、ハンドルを回すとプレートに窪みがあきます。
6.まず1,3,5弦のプレート窪み加工を終えました。 この窪みに同じ材質(メイプル)のプラグを接着します。

7.次にメイプル材からプラグを抜き取る作業を行います。
8.プラグを抜き取る直前で止めます。この状態でプラグの中央に小穴(φ1.5mm)をあけます。

9.ポンチで位置決めをします。
10.プラグ中央に小穴をあけています。

11.この小穴は後の工程でプラグを接着固定する際に必要になります。
12.プラグ取り外しが完了しました。

13.プラグの底面には木目方向に線を入れておきます。これもプラグ固着の際に必要になってきます。
14.指にマスキングテープの粘着側が外向きになるようにして貼り、その上にプラグを乗せて、ボルトを軽く閉め込みます。写真はタイトボンドを塗った状態です。

15.プラグの木目方向をブリッジプレートに一致させるようにボディ内部から引っ張り上げます。ゆっくりとボルトを廻し抜きます。
16.1,3,5弦のプラグ接着を終えました。この状態でクランプし、一日固着を待ちます。

17.翌日固着を確認した後、2,4,6弦のブリッジプレート窪み加工を行います。
18.1,3,5弦と2,4,6弦の窪みが若干重なっていることがわかります。2回に分けて窪み加工を行うのは、この理由によります。

19.残り3個のプラグも同様にボディ内部から接着しましょう。
20.さらに翌日の6個のプラグが固着完了した写真です。

21.最後にブリッジピン穴をあけます。このとき、プラグに負担がかからないように一つずつ裏に当て木をしていきます。
22.ブリッジプレートに当て木をしているボディ内部の写真です。

23.クランプがありますので、長めのドリルビットを使ってブリッジピン穴をあけていきます。
24.ブリッジピン穴を開け終えました。(写真が少しぶれてしまいました。すいません!)

25.弦を張りました。弦のエンドポールがブリッジプレートの本来の位置に座っていることがわかります。
26.弦の巻き部分も奥の方に位置するようになりました。(この写真の弦は、最初に張っていた物と同じものです)

フレット交換

1. フレットをはんだごてで暖めながら、フレット抜き工具で抜いていきます。
2. フィンガーボードとバインディングを痛めないようにゆっくり作業を進めていきます。

3.フレットを抜き終わるまで全神経をフレットに集中させます。
4.全フレットを抜き終えた後、直定規を当てて、フィンガーボードの平面を確認します。

5.軽くサンディングします。フィンガーボードの盛り上がっている部分を中心に平坦にしていきます(ロッド調整はすませておきます)
6.サンディング後のフィンガーボードです。

7.フレット溝底にゴミが見られました。エッジを傷つけないように溝底をクリーニングしていきます。
8.フレット溝底をクリーニング完了しました。

9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.ボディ内部はジャッキで保護しておきます。

11.フレット打ち込みを行います。まずフィンガーボードの幅よりも少し大きめにフレットをカットします。
12.フレットカット直後はこのような形になっています。

13.フレットのタング部分(フィンガーボードの中に埋め込まれる部分)を専用のプライヤーでカットします。
14.フレット・タング片はカット後、見失わないように確実に収集しておきます。

15.バインディング処理されたフレット端です。
16.まず片方を打ち込みます。

17.もう片方を打ち込みます。
18.そして中央を打ち込みます。

19.この要領で打ち込んでいきましょう。
20.14フレットまで打ち込みが終わりました。

21. ミドルフレットまで打ち終えました。
22. 全フレットの打ち込みを終えました。

23. フレット端はこのように飛び出ています。
24.飛び出た部分をカットします。このときもカット片を失わないように確実に指で受けるようにします。

25. すべてのフレット端をカットしていきます。カット後のフレット端はこのような切り口になっています。
26.フレット・ベベル切削加工専用のヤスリでフレット端をファイリングしていきます。

27. 反対側(1弦側)も同じようにファイリングしていきます。
28. ここで一旦フレットの削り粉をクリーニングします。

29.フレット・ベベル・ファイリング後の切り口です。
30.さらにフレットエンド専用のヤスリで切削角を取り除いていきます。

31.このヤスリは側面だけがヤスリ面になっており、フィンガーボードやバインディングに傷つかないようになっています。
32.フィンガーボードをマスキングテープで保護します。

33.フレットだけをのぞかせてギター保護完了です。
34.直定規を当てて凹んだフレット山にマーキングしていきます。

35.フラット・ファイルですりあわせていきます。
36.直線性の確認~すりあわせを何回か繰り返した後、削り粉をクリーニングします。

37.すりあわせた直後のフレット山はこのように平らになっています。
38.専用のヤスリでフレット山を丸く加工していきます。

39.この専用のヤスリはこのような形になっています。上が#300、下が#150です。
40.ヤスリで丸く加工したフレット山です。

41.研磨工程に移りましょう。まず#400のサンドペーパーです。
42.次に#600の研磨タワシです。

43.さらに#800の研磨タワシです。
44.最後はコンパウンドで磨き上げます。

45.マスキングテープ、プロテクタを外します。
46.フレット打ち直しが完了しました。ぴかぴかのフレットはいい音の予感を感じさせてくれます。

ナット溝クリーニング~ナット作製

1.オリジナル・ナットを取り外しました。比較的きれいなナット溝ですが、古い接着剤の後があります。
2.良く切れる彫刻刀で古い接着剤の跡をこすり取っていきます。

3.ナット溝クリーニング完了です。
4.TUSQナットスラブをネック幅に合わせて切り取ります。

5.ナット溝にあわせて厚みを削り出しました。
6.フィンガーボードとネックに密着していることを確認します。

7.逆光を利用して微少な隙間もないことを確認します。(いい音のギターの最大のポイントの一つです)
8.フレット高にあわせてナット上部にケガキ線を入れます。

9.ナット上部のカットを行いました。
10.ヘッド側の放物曲面を削り込んでいきます。

11.ナットらしくなってきました。
12.オリジナルナットの弦溝幅を読みとります。(この定規はナットの弦溝加工専用のものです)

13.読みとった弦溝位置を新しいナットにマーキングしていきます。
14.専用のヤスリを使って弦溝を彫り込んでいきます。

15.弦高調整前のナット完成です。この段階ではまだ接着は行いません。
16.弦を張って弦溝深さの微調整を行います(ナット高調整です)。

17.ストリングリフター(白いジグ)で弦を待避しておいて、弦溝ヤスリで徐々に弦溝を決めていきます。
18.ナットの完成です。

ピッチ調整~サドル作製

1.サドルを作製する前にサドル高およびサドルピーク位置の確認を行います。
2.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを装着して、すべての弦の全フレットのピッチを確認し、サドルピーク位置を調整していきます。

3.サドルピーク位置と目標弦高から算出されたサドル高を記録しておきます。
4.弦を一旦待避させて、TUSQサドルスラブを切り出していきます。

5.サドル溝にピッタリはまるようになりましたら、先ほど算出したサドル高にケガキ線を書き込んでいきます。
6.高さを出したサドルです。

7.次にサドルピーク位置を削りだしていきます。まず、先ほどのピッチ調整から得られたピーク位置をサドルに書き写します。
8.ピーク位置に従ってオフセットサドルを削りだしていきます。

9.ピーク位置とサドル高を確認してサドルの完成です。
10.弦を張って最終弦高調整を行います。