ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Original Hand-crafted Guitar

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兵庫県にお住まいのH.T.さんからオリジナル手工ギターのリペアご依頼をいただきました。お母様から譲り受けられた想い入れのあるギターです。
リペア前のネック状態は思わしくなく、通常の演奏に支障がありましたのでネックリセットを行いました。
リペア後は弾きやすさを取り戻せただけでなく、素晴らしい音を奏でてくれるように蘇りました。
H.T.さんから暖かいメッセージが届きました。H.T.さん、ありがとうございました。生まれ変わったギターと一緒に素晴らしいギターライフを送られることをお祈りしております。
今後とも何卒よろしくお願い致します。

今日、ギターと一緒に家に帰って、とにかく弾き込みました。
久しぶりに帰ってきた相棒は本当に進化をしていて、一方、ずっとギターを弾かずにいた僕の腕はかなり落ちていて、なかなか釣り合いの悪いコンビになってしまったなぁという気持ちです。
音色は艶を増し、特に樋口さんの演奏を傍で聞いたときはかなり興奮してしまいました。以前から音色は気に入っていたのですが、ここまで気持ちが揺さぶられることはなかったので、まさにリペアの効果ですね!弾き易さは段違いで、言うまでもありません。
このギターの潜在能力が最大限に引き出され、と同時に、このギターを見くびっていた自分に気づかされ反省しました。まずはギターに追いつくよう努めようと思います。
ここからは僕次第なので、どんどん経験を積んでいこうと思います。ただ、その経験を共にスタートできるギターにしてくれたことを本当に感謝します。ありがとうございました。
まだまだ、これからも、お世話になるつもりなのでよろしくお願いします。その時はまた、ギターの話から人生の話まで聞かせてください!


リペア前の状況確認

1. 6弦12フレットの弦高です。5mm弱あります。
2. 同じく1弦側の弦高です。4mmあります。

3. 1弦と6弦のサドル高は1mm前後です。
4. 1弦サドル高も同じ程度の高さです。

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7. ネックをロッドで出来るだけ直線に近づけた上で、直定規を当て、そのまま直定規をスライドさせてブリッジに当ててみます。
8. ブリッジ面より下のこの位置にフレット面が向かっていることがわかります。この時点でネックリセットが必要との判断が出来ます。

ネックリセット

1. 弦を外して、もう一度フレット面のブリッジ高を測定します。目盛りはちょうど5mmを指しています。
2.ターゲットのフレット面を8mmに設定し、オリジナルよりも3mm上げることにします。(計算式からヒール部は約1mm削ることになります)

3. 15フレットをハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。
4. フィンガーボードを傷つけないようにゆっくりと抜いていきます。

5. フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
6. フィンガーボードをボディから外します。これまではこのアイロンを使っていましたが、輻射熱と熱の変化がギターにダメージを与えないように注意が必要でした。

7.今回は温度コントロールが可能でかつ輻射熱も少ないラバーヒーターを使用します。
8.ヒーターを当て木との間にサンドイッチします。

9.クランプで当て木を固定し、ヒーターに通電します。徐々に温度を上げていきます。
10.フィンガーボードの接着剤が軟化しているところにスクレイパーを差し込んでいきます。

11.両側から徐々に奥の方へ進めていきます。
12.終端まで浮かすことが出来ました。

13.ネック取り外し専用治具を取り付けます。
14. ネックは真ん中のボルトによって押されます。(この段階ではまだ押しません)

15.蒸気発生にエスプレッソマシンを使い、耐熱ホースを接続します。
16.先ほど開けた、15フレットの穴にノズル先端を差し込み、蒸気注入を開始します。

17.かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。
18.数分後、カクンと音を立ててネックが外れます。

19.これがダブテイル・ジョイントです。
20.まだ蒸気の熱さが残っている間に古い接着剤の跡を取り除きます。次にネック取り付け角度の調整に移ります。

21.ネック角度は接合部を切削することによって調整します。ヒール部削り取り目標位置にマスキングテープを貼ります。
22.目標位置直前まで45度の角度でヒール部を削っていきます。

23.目標位置まで削り取れました。
24.この削り取った部分とフィンガーボードまでを平面に切削していきます。

25.ヒール部からの見た様子です。1弦側が目標位置まで切削できました。
26.同様に6弦側も削っていきます。(削りすぎないように少しずつ進めていきます)

27.両方が目標位置まで切削できました。
28.ヒール中央部はノミを使って削ります。

29.ヒール部を目標位置まで下げることが出来ました。
30.次にダブテイル突起部分の際をノミで削っていきます。

31.反対側も同じように際を削っていきます。
32.実際には、この一連の切削作業を行いながらボディにネックを取り付けて、弦高を確認しながら進めます。

33.数回のサイクルを経た後、目標角度に達しました。次はネックとボディ接合が直線に乗っているかを確認します。
34.ナット(ネック上端部)にマスキングテープを貼り、中央にマークを入れます

35.同様にネックジョイント部(14フレット)とブリッジにもマスキングテープを貼り、中央部にマークを入れます。
36.これらはネック直線性を確認するためのマークです。

37.ここで使用する治具は透明のアクリル板です。中央にケガキ線が入っています。この直線がマーク上に位置するようにネック取り付けを行います。
38.まずネック部中央マークにケガキ線を合わせます。

39.そしてブリッジ中央部マークにケガキ線を合わせます。
40.最後にネックジョイント部の中央部マークにケガキ線が乗っていることを確認します。

41.ネックヒール部の調整を行う前にボディ側をマスキングテープで保護しておきます。
42.ネック接合部にサンドペーパーを挟みます。

43.ネックをボディに押さえつけ、サンドペーパーを引き抜きます。このとき引き抜き回数を覚えておきます。
44.反対側のネック接合部も同様に加工します。ネックの傾きと接合部の密着性を上げます。

45.ある程度調整が進んだところで、一旦クランプでネックを挟み込み固定します。(接合部にはシムを挟んで強度を増しています)
46.アクリル透明直定規でネックの直線性を確認します。サンディング~直線性確認を数回繰り返します。

47.ネック調整が終わりましたら、弦を張って見ましょう。6弦弦高が1.8mmまで下がりました。
48.1弦の弦高は1.2mm程度です(少し見にくい写真で申し訳ありません)

49.接着する前に弦を張って試奏してみます。ナット・サドルでの弦高調整可能な範囲にネック角度調整が終わりました。
50.ネックとボディを接合します。まず接合部にシムを接着します。

51.ボディ側接合部の内側にボンドで貼ります。
52.ワックスペーパーをシムの上に重ねて・・・

53.端材でシムをペーパー越しに圧着します。
54.数時間後、シムの接着が完了しました。

55.次にシムとネックの密着度を確認するためにカーボン紙をシムとネックに挟み込みます。
56.カーボン紙がずれないようにネックを取り付けます。

57.ネックを取り外すとカーボン紙がくっついています。
58.カーボン紙を取り外したところです。全体的に密着しているのが確認できました(接合不良の場合は「点接触」しています)

59.HideGlue(ニカワ)を湯煎します。
60.HideGlue接着は手際よく作業を進める必要がありますので、クランプ、ヘラ、当て木類を準備しておきます。

61.フィンガーボードの裏にHideGlueを乗せていきます。
62.ヘラでGlueを均一にのばしていきます。

63.次にダブテイル接合部にGlueを塗っていきます。
64.接合部の反対側にも均一に塗っていきます。

65.ゆっくりとボディにネックを接続していきます。
66.専用の当て木を フィンガーボードに乗せ、メインクランプでネックを固定します。

67.次に当て木の上からフィンガーボードをクランプします。
68.さらにサブクランプで固定した後、あふれ出たGlueをふき取ります。

69.ネックジョイント部もあふれたGlueをきれいにふき取ります。
70.クランプ完了です。

71.このまま数日間固着を待ちましょう。
72.数日後、クランプを外しました。ネック接着完了後にフィンガーボードにあけた穴を埋めます。

73.爪楊枝が穴にはいることを確認します。
74.フィンガーボードと同じ部材で木目が似ている物を選びます。

75.瞬間接着剤を少し部材片に乗せます。
76.爪楊枝を部材片に接着します。

77.部材片の角を削り取っていきます。
78.ドリル穴と部材片を接着します。このとき部材の木目方向に注意します。

79.ドリル穴が埋まりました。
80.フレット溝用ののこぎりで埋まった穴に溝加工します。

81.このフィンガーボードにはバインディングがありますので、フレット溝底を平らにするために特殊なのこぎりで再加工します。
82.フレット溝底を平らにする要領で軽く削ります。

フレット交換

1.はんだごてでフレットを暖めながら、
2.ゆっくりとフィンガーボードを傷つけないように抜いていきます。

3.最後までフレットとフィンガーボードに全神経を集中させます。
4.全フレットを抜き終えました。

5.フィンガーボードを軽くサンディングします。
6.サンディング後のフィンガーボードです。

7.削りカスをクリーニングしましょう。
8.クリーニング後のフィンガーボードです。

9.ネックリセット時に開けたドリル穴は見えなくなりました。
10.フィンガーボードが弦方向に直線であることを確かめておきます。

11.フレットの準備です。フレットワイヤーにアールをつけていきます。
12.ボディ内部はジャッキで保護しておきます。

13.フィンガーボードの幅よりも少し大きめにフレットをカットします。
14.タング部を専用のニッパーでカットします。カットした金属片が行方不明にならないように注意します。

15.バインディング処理前のフレットの端です。
16.タング部をカットしています。

17.バインディング処理後のフレット端です。
18.まず一方の端を軽く打ち込みます。

19.次にもう片一方を打ち込みます。
20.そして中央部を打ち込みます。

21.この要領で進めていきましょう。
22.はみ出した部分をカットしていきます。(カットしたフレット片が飛ばないように指でキャッチします)

23.カットした後のフレット端です。
24.フレット傾斜加工専用のファイルで削っていきます。

25.反対側(1弦側)も同じように傾斜をつけていきます。
26.フレットエッジ処理を終えたフレット端です。

27.更にエッジのバリ取りを行います。
28.このヤスリはフレットに触れる面のみヤスリ面になっており、フィンガーボードに触れる面はフラットになっています。

29.フレットすりあわせを始めましょう。フレットだけが顔を出すようにフィンガーボードをマスキングテープで覆っていきます。
30.マスキングテープとアクリル板でカバー完了しました。すりあわせ準備完了です。

31.すりあわせ部分を特定するために直定規を当てて、凹んでいる部分に赤ペンでマークを入れていきます。
32.マーク部分がすれるまでフラットファイルでフレットを削っていきます。

33.すりあわせを終えたフレット山の様子です。フレット山部分が平らになっています。
34.フレット山の断面が逆U字になるよう、専用のヤスリで削ります。

35.サンドペーパー(#400)で粗研磨します。
36.研磨たわし(#600)で中研磨を行い・・・。

37.さらに研磨たわし(#800)で細研磨を行います。
38.最後はコンパウンドで最終研磨です。

39.フレット打ち直しは完了しました。アクリル板、マスキングテープをはずします。
40.ピカピカのフレットはギターの蘇りを予感させてくれます。早く弦を張りたいというはやる気持ちを抑えて小休止しましょう。

ナット作製・交換

1.ナットを外しました。古い結着剤の跡が残っています。
2.よく切れる彫刻刀で古い接着剤やゴミなどを削り落としていきます。

3.ナット溝のクリーニング完了です。長年ナットを支えていた古い接着剤が取り除かれました。
4.TUSQナット・スラブをフィンガーボード幅に合わせてカットします。

5.ナットの厚みを削り出すことが出来ました。
6.ナットとネック、フィンガーボードが密着していることを確認します。(ギターの音響特性にとって、ここが重要なポイントです)

7.逆光を利用すると完全に密着していることが効率的に確認できます。
8.ナット上部にフレット高に合わせて、切り取りケガキ線を記入します。

9.ナット上部をカットしました。
10.ヘッド側に放物曲面を掘り込んでいきます。

11.ナットらしい形になってきました。
12.弦溝位置を専用の定規を使ってマーキングしていきます。

13.弦溝専用のヤスリで浅めに弦溝を掘っていきます。後で行う弦高調整しろを残す程度の深さにとどめておきます。
14.弦高調整前のナットの完成です。

ピッチ調整~サドル作製

1.全フレットポジションのピッチを確認していきます。ピッチズレがあれば、イントネーターとペグを調整します。
2.サドルピーク位置が決まりましたら、目標弦高とともに紙に控えておきます。

3.3弦と4弦にはイントネーター付属の弦高調整用パイプをつけました。
4.TUSQサドルスラブをサドル溝幅に合わせて切り出します。

5.TUSQスラブをサドル溝に合う厚みと幅を切り出しました。
6.サドルとブリッジは隙間の無いように加工しましょう。(ナットと共にこれがいい音になるポイントです)

7.ピッチ調整で控えておいた、サドルピーク位置を上部をカットしたサドル上面に書き写します。
8.サドル上面に書き写されたピーク位置をなぞるようにサドル山を削りだしていきます。

9.オフセットサドルの完成です。

弦高調整

1.弦を張りました。ナット弦高を調整しましょう。ストリングリフターで弦を持ち上げておきます。
2.ナット弦高は2フレットを押さえて1フレットと弦の隙間を小さくしていきます。

3.弦溝加工用のヤスリで徐々に弦高を下げていきます。
4.この要領ですべての弦のナット弦高を調整していきます。

5.弦高調整完了後のナットです。
6.サドル高調整も完了しました。

7.弦高調整完了後の6弦12フレットの弦高です。2.5mmに設定できました。通常の演奏がストレスなく行える弦高です。
8.同様に1弦12フレットです。こちらは1.6mmです。オリジナル状態からは想像もできない弾きやすく、素晴らしい音色のギターに蘇りました。