ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Epiphone FT-95

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東京都にお住まいのS.I.さんから1970年代エピフォンのビンテージギターのリペアご依頼をいただきました。
ブリッジの割れ・浮き、フレット打ち直しなど、トータルリペアを行いました。
ギターを受け取られてS.I.さんから、とても暖かいメッセージが届きました。S.I.さん、本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願い致します。

本日、ギターが届きました。

帰宅して「工房マスターの日記」を拝見するのが楽しみな数日間でした。
そして、自分のギターが再生される過程を本当にワクワクしながら拝見していました。

ギターを早速、弾かせていただきました。最高です!
本当に良い状態の時に復活させていただきました!
失礼言い方ですが、ネット上でたまたま見つけた、来店をしたこともない工房に大事なギターのリペアをお任せすることは大変リスクがあることです。
しかし、樋口さんの人柄や仕事ぶりがホームページから伝わってききたので、是非、お願いしたいと思いました!
数ヶ月待ってお願いした甲斐がありました!それだけ依頼が殺到していることも納得しました!

これからもお願いすることがあると思いますが(他にも古いやつがあるので)その節はまた面倒見て下さい。

では、本当に有難うございました!


リペア前の状況確認

1.ブリッジはボルト(白丸の二つのインレイ部分)で固定されています。ブリッジの割れ(写真右下側に見えます)の原因は、ブリッジが浮いていることにより、ボルトと弦に引っ張られていることによるものでした。
2.ギターの年季をフレットの磨り減りが語っているようです。オリジナルのフレットは極太版でしたが、オーナーのS.I.さんとの調整により、幅が0.2mm細い一般的なものを使用することにしました。

3.KLUSONの3連ペグです。ペグブッシュが浮いているのが見えますでしょうか?
4.光に透かしてみると浮いているのがわかります。

ブリッジ脱着

1.ブリッジはボルトで固定されています。トップ板側はインレイでカバーされておりますので、ボディの中のナットを外します。あまり一般的ではありませんが、1/4インチの六角レンチを使います。
2.手探りでレンチをナット位置に持っていき、ナットを外します。あまり手首を動かすことができないので、ラチェットを使うと作業が簡単に進められます。(左の写真を参照してください)

3.ブリッジはボルトのみで固定されている状態でしたので、ナットを外すとブリッジは簡単にはずれました。
4.少々見えづらいですが、ボルトも一緒にはずれました。

5.ボルトを外しました。ブリッジの割れがおわかりになりますでしょうか?
6.このブリッジは弦とボルトに引っ張られて割れ目が広がって行ったようです。

7.ブリッジをトップ板に接着する前に、ブリッジの割れを接着しましょう。
8.HideGlue(ニカワ)を割れ目に塗り、クランプした後、あふれた接着剤を拭き取り、乾燥させます。

9.割れ目の接着が完了したブリッジです。(固着には一昼夜置きました)
10.ブリッジの裏面です。古い接着剤とトップ板が残っています。

11.ブリッジの裏面をスクレイパーでクリーニング(整地)していきます。
12.クリーニング後のブリッジの裏面です。これによってトップ板との接着強度を大きくなります。

13.今度はトップ板のクリーニングです。こちらは柔らかいので優しくクリーニングします。
14.クリーニングの終了したトップ板です。接着の準備が完了しましたが、その前にブリッジ接着位置を決めましょう。

15.ブリッジ位置(サドル位置)を確定するための道具一式です。正確なピッチ調整は後ほど行いますが、サドル山のピーク位置がブリッジのサドル溝内に入っていることを確認しておく必要があります。
16.これは「アコースティック・ブリッジ・ボルト」というジグで、ブリッジの位置を固定させると共に、弦をブリッジに固定することができます。

17.これは「サドルマチック」というジグです。ナット位置から12フレットまでの距離をセットして、反対側(ブリッジ側)へ倒すとサドル位置がわかります。
18.正確なサドル位置はピッチ確認を行う必要がありますが、サドル位置の目安はこれで確定できます。(この段階ではサドルピーク位置がサドル溝にあることを確認します)

19.ブリッジ・ボルトに弦を通しました。
20.弦をボディ内から通して、ボルトを仮固定します。(ブリッジはまだ接着していません)

21.イントネータを使ってサドルピーク位置がブリッジのサドル溝にあることを確認します。
22.ブリッジ位置が確定しましたので、マスキングテープでマーキングしていきます。

23.HideGlue(ニカワ)を湯煎します。
24.ブリッジは電子レンジで20秒間、チンしました。熱々の状態にHideGlueを乗せていきます。

25.先ほどマーキングした接着位置にブリッジを置きます。接着剤が周りにあふれますが、固着前にマスキングテープを取り除きますので、この段階では気にしないでおきます。
26.クランプで固定した後、マスキングテープを取り除きます。

27.クランプの圧力で接着剤があふれてきますので、湿った布であふれ出た接着剤をきれいに拭き取ります。(この段階できれいに取り除いておかないと、後できれいにすることは難しいので注意しましょう)
28.丸一日固着乾燥したブリッジです。

29.ブリッジの割れも完璧に修復できました。
30.ブリッジ固定用のボルトとインレイも元通りに戻して、ブリッジ脱着作業完了です。

フレット交換

1. フレットをはんだごてで暖めながら、フレット抜き工具で抜いていきます。
2. フィンガーボードを痛めないようにゆっくり作業を進めていきます。

3.フレットを抜き終えたフィンガーボードです。
4.軽くサンディングします。このとき凸部を集中的に狙います。

5.サンディング中にも何度も平面を確認します。
6.サンディングを終えたフィンガーボードの表面です。

7.フレット溝にたまった削りカスやゴミなどをほじくり出していきます。
8.ゴミを吹き飛ばしながら、集塵します。

9.フレットの準備をしましょう。まず、フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.ボディ内部はジャッキで保護しておきます。

11.フィンガーボードの幅よりも少し大きめにフレットをカットします。
12.まず一方の端を軽く打ち込みます。

13.次にもう片一方を打ち込みます。
14.そして中央部を打ち込みます。

15.この要領で打ち込んでいきましょう。
16.12フレットまで打ち込みました。

17.このフィンガーボードはフラットなタイプです。
18.フレットの幅(太さ)がオリジナルよりも0.2mm細いのは外観上、全くわかりません。

19. 全てのフレットを打ち終えました。
20. フレット傾斜加工専用のファイルで削っていきます。

21. 反対側(6弦側)も同じように傾斜をつけていきます。
22.フレット端の処理を行います。このヤスリはフィンガーボードに傷が付かないようになっている特殊なものです。

23. 引き続いてフレットのすりあわせを行いましょう。フィンガーボードをマスキングテープで保護します。
24. 直定規でフレット山の直線性を確認します。凹んでいる部分にマーキングします。

25. フラットファイルで凹んだ部分が削れるまで(平面になるまで)、削っていきます。
26. フレット山を丸くするヤスリで平らになったフレット上部を削ります。

27.#400のサンドペーパーで磨きます。
28.次に#600の研磨たわしで磨きます。

29.更に#800の研磨たわしで磨きます。
30.最後はコンパウンドで仕上げです。

31.1.マスキングテープ、プロテクタを外しましょう。
32.フレット交換の完了です。ピカピカのフレットになりました!


ペグブッシュ・リペア

1.4弦、5弦のペグブッシュが浮いていましたので、木を挟んでクランプします。
2.光で透かして、隙間がないことを確認します。

3.ペグブッシュの緩みはチューニング不安定の原因になりますので、注意しましょう。

ナット溝クリーニング~ナット作製

1.ナットを外しました。比較的きれいなナット溝です。
2.よく切れる彫刻刀で古い接着剤とゴミを削り落とします。

3.クリーニングが終了しました。ナット作成に移りましょう。
4.ネックの幅に合わせてTUSQナット・スラブにケガキ線を入れます。

5.ナットスラブとネックの接触を確認します。この接触状況の善し悪しがギターの音色を大きく変えます。
6.逆光を使うとナットの接触状況が効率的にわかります。

7.次は上面部をカットしましょう。フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
8.上部をカットしました。

9.ヘッド側の放物曲面を削りだしていきます。
10.弦溝加工前のナットです。

11.オリジナルナットの弦溝幅を弦溝定規を使って読み取ります。
12.弦溝位置を新しいナットにマーキングしていきます。

13.弦溝をマーキング位置に従って正確に掘り込みます。
14.弦高調整前のナット完成です。

ピッチ調整~サドル作製

1.イントネーターとチューナーを取り付けます。(弦は待避していたものを再利用します)
2.全フレットポジションのピッチを確認していきます。ピッチズレがあれば、イントネーターとペグを調整します。

3.サドルピーク位置が決まりましたら、紙に控えておきます。
4.TUSQスラブをサドル溝に合う厚みと幅を切り出しました。

5.目標サドル高よりも少し高めに切り取ります(弦高調整しろを残しておきます)。
6.ピッチ調整で控えておいた、サドルピーク位置をサドル上面に書き写します。

7.サドル上面に書き写されたピーク位置をなぞるようにサドル山を削りだしていきます。
8.オフセットサドルの完成です。ナットの弦溝を調整した後、サドルの高さを再調整します。

弦高調整

1.ストリングリフターで弦を待避させておきます。
2.ナット弦高を調整していきます。

3.弦高調整後のナットです。
4.サドルも最適弦高まで下げました。