ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Kiso Suzuki W-300

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岡山県にお住まいのJ.A.さんから超ハードなギターリペアご依頼をいただきました。

このギターはJ.A.さんが若い頃に入手されて、ずっとJ.A.さんのそばにいたギターです。それ故にギターにこもっている想い出や思い入れが並々ならぬものです。

ただ、ギターの症状が非常に厳しい状態で、リペアをお受けする際、非常に長い検討時間をいただきました。

リペア完了後、弦を張り、ギターから流れてきた音色は、これまでに感じたことのない、素晴らしいものでした。

これからもこのギターがJ.A.さんのもとで活躍できるように祈る想いで送り出しました。

J.A.さん、暖かいメッセージをありがとうございました。

あれから毎晩つま弾いては素晴らしい音色に酔いしれています。
やはり3番弦4番弦が例えようもないいい音色です。
ギブソンとはまた違う響きでとても繊細です。マーチンは何度か弾いたことがありますが、これほどまでの音に出会ったことがないので比べようがありません。
それほど完成度が高いということでしょうか!
見てくれはあまりよくないのですが、この音色には我ながらしびれています。 本当に本当にありがとうございました。


リペア前の状況確認

1. ネックのヒール部分です。見事に割れており、その上から多量の瞬間接着剤が流し込まれていました。
2. 1弦側からの写真です。どのように接合するか、悩ましいところです。

3. フィンガーボードがネックから浮いています。
4. 浮きの範囲は6弦側でミドル~ハイフレットにわたっています。

5.フィンガーボードの1弦側です。こちらも瞬間接着剤が多く見られます。
6.フィンガーボードの下にスクレイパーを通してみました。瞬間接着剤の固着跡を通して、貫通してしまいました。

7.ブリッジにも浮きが見られます。
8.フレットも相当減っていますので交換することにします。

1. これはネックヒーターという治具です。本来はネックの矯正に使用するのですが、目的は接着剤の軟化ですので、流用しました。
2. 温度は約100度くらいまで上がります。やけどをしないように注意しながら作業を続けます。

3. フィンガーボードとネックが暖まってきた頃を見計らって、スクレイパーを差し込んでみます。接着剤の軟化を確認します。
4.ボディ側は、ほぼ外れました。トップ板クラックを痛めないように慎重にフィンガーボードをはずしていきます。

5. ヘッド側はネックの熱が下がらない間に、2本のスクレイパーを使ってはずしていきます。
6. フィンガーボード取り外しの完了です。

7. ヘッド側の状態は比較的良好です。
8. ボディ側は接着剤の跡が多く、サウンドホールの周囲も予想以上に痛んでいました。

9.トラスロッドもはずしました。ロッド調整用のナット山がすり減って、ロッド調整が出来ない状態なので、ナット交換をします。
10.こちらがナットです。本来は六角形の穴なのですが、完全に丸い穴になっています。新しいナットに交換しましょう。

ネック・ヒール部の接着・接合

1.ヒール部割れ目にたまっている接着剤をスクレイパーで削り出します。
2.接着を行う前に、ネックを矯正位置に固定します。(ボルト穴を開ける際に矯正位置で開ける必要があります)

3.矯正した状態で、ドリルで穴を開けます。この穴はボンド注入とネジ止めの2つの目的がありますので、ネジの長さの深さまで開けておきます。
4. スポイトを使ってタイトボンドを流し込みます。ネック割れ部からあふれるまで流し込みます。

5.このくらいあふれ出してきましたら、今度はスクレイパーで割れ目の内側に塗り込んでいきます。
6.割れ目全体にタイトボンドが行き渡ったようです。

7.再び矯正位置に戻し、先ほど開けた穴にボルトをねじ込みます。
8.さびてこないようにステンレス製のネジを使いました。

9.矯正とネジ締めによってあふれたボンドをきれいにふき取り、乾燥させます。

トップ板クラック・リペア

1.サウンドホールのネック側にクラックがあります。
2.このようなパッチを当ててリペアします。

3.2つのスプルース材のパッチで補強します。
4.パッチ材の角を削りました。

5.パッチ材を接着しました。丸く見えているのはマグネットです。
6.このマグネットは、見かけによらず、かなり強力でパッチ材をしっかりと抑えてくれます。

7.もう一方のパッチ材も角を削り、こちらはクランプで固定します。

フレット打ち直し~フィンガーボード接着

1.フィンガーボードのままフレットを抜いていきます。
2.全フレットを抜いた後、軽くサンディングし、フレット溝を掃除します。

3.フィンガーボードはフレット打ち込みの準備OKです。
4.フレットの打ち込みを終えました。(途中経過は省略しました)

5.フィンガーボードの接着準備です。フィンガーボード裏をスクレイパーで削っていきます。
6.ネック側も古い接着剤等をはがしとり平坦にします。

7.アジャスタブルロッドについている瞬間接着剤もはがしましょう。
8.ネックの溝にロッドをはめ込みます。

9.ロッド用のナットは新調しました。
10.フィンガーボードの接着準備が整いました。

11.接着にはHideGlue(ニカワ)を使用します。湯煎で暖めておきます。
12.クランプ類もスタンバっておきます。

13.まずネック側にHideGlueを塗っていきます。
14.ヘラでGlueを延ばしていきます。

15.フィンガーボードを上に載せ、Glueを両面に広げていきます。
16.これはフィンガーボードをネックに接着する際のバンドです。

17.接着を完了しました。HideGlueの乾燥を待ちましょう。
18.サウンドホール側はこのようにクランプで固定します。

ネック調整~フレットすり合わせ

1.フィンガーボードの固着を待ち、フレット端の整形を行います。
2.ネックの水平を直定規で確認します。

3.トラスロッドも調整します。
4.ボディとフィンガーボードをアクリル板とマスキングテープで保護します。

5.直定規で凹んだフレットを確認し、赤ペンでマークしていきます。
6.フラットファイルでフレットを削っていきいます。

7.フレット山を丸くしていきます。
8.#400~#600~#800のファイルで研磨していきます。

9.最後はコンパウンドで磨き上げます。
10.プロテクタを外します。

11.再接着されたフィンガーボードにピカピカのフレットができあがりました。

ナット、サドル作製~最終調整

1.ナットスロットをクリーニングしました。
2.TUSQナットスラブを削っていきます。

3.ヘッド側の放物曲面をつけました。
4.完成したナットです。(途中経過は省略しました)

5.ブリッジはタイトボンドで固定しておきます。
6.TUSQサドルスラブを削っていきます。

7.ブリッジピン穴加工を施した後、サドルを整形しました。
8.ネック折れ部分はタッチアップを行いました。