ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

ナット交換

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ナットの一番大きな役割は弦の振動を ボディに伝えることです。皆さんのお持ちのギターのナッツ部分を何か堅いもので軽くたたいてみてください、ボディからその振動が大きな音となって出てくるのがわかると思います。

また、ナットはカポをつけていないときは直接弦の振動を受けるため、フレット側の弦との接触面が徐々に減ってくる消耗品の一つでもあります。

さらに、一般に市販されているギターのナットは「各自で溝の深さを調整してください」という暗黙の前提があります。


ナット取り外し

ナットリペアの第一段階は現在のナットを外すことから始まります。上でも触れましたが、ナットは外されることを前提として接着されています。通常、瞬間接着剤などで接着されていますので、下の写真のように木切れで「コン」とたたくと、すぐに外れます。


ナット溝クリーニング

ナットリペアの第二段階はギターネック側のナットスロットの掃除です。今までのナットの接着剤が残っていますので、きれいに取っていきます。このとき、よく研がれた彫刻刀(平刀の3mm程度)を使用します。 もちろん、ギターの木材部分は絶対に削ってはいけません。しかしながら、接着剤の固まりは薄く、堅く広がっていますので、根気よく、焦らず、念入りにはがしていきます。

右の写真は、きれいになったナットスロットです。 もう一度、この部分を通して弦の振動が伝わっていくことを思い出してください。 この上に新しいナットが乗るわけですから、限りなくきれいな状態にしておきましょう。接着剤の削りカスなどが残っていないことを確認してください。

ナット削り出し

ナットリペアの第3段階はナットの削り出しです。ナットの材質としてはTUSQ、牛骨などがありますが、今回は音質重視でTUSQ素材を例にとって解説していきます。 TUSQ素材には、はじめからある程度加工された物がありますが、こちらを使用されても良いかと思います。今回はTUSQのナット用の固まり(スラブ)を削っていきます。 左写真の後ろにあるのがTUSQスラブ、前にあるのがオリジナル・ナットです。

最初に粗削りを行います。オリジナルと同じか少し大きめの長さに切り取り(上左写真)、ヤスリで削っていきます(上右、下左写真)。ある程度、形が整ってきたらオリジナルより少し大きめ(1mm程度)になるまで粗削りを行います。(このとき、かなり削り粉が舞いますので、ご家族の迷惑にならないよう注意しましょう)

オリジナルのほぼ一回り大きいくらいに粗削りができましたら、今度は中目のヤスリで少しずつ、少しずつ削っていきます。決してオリジナルよりも小さくならないように、頻繁に大きさを比べながら削っていきます。

オリジナルとほぼ同じ大きさになったら、今度はネック側のナットスロットの幅を確認しながら更に少しずつ、少しずつ細めのヤスリで削っていきます。(下の写真を参照してください。) なかなかスロットに入るまで削るのに時間がかかりますが、ここでも決して焦らないように、オリジナルよりも小さくなってしまわないように、根気強く削っていきます。



ナットの削り出しができましたら、ネックのナットスロットに入れてみます(まだ、接着しません)。 この作業が一番重要なのですが、フレットボード(指板)およびスロットの底面と密着するように微調整の削りを行います。 この作業の善し悪しでギターの音色が格段に良くも成り、悪くもなります。

ナット接着

ナットリペアの第4段階はナットの接着です。もう一度、ナットスロットと新しく削りだしたナットに削りカスやゴミのないことを確認します(エアーブロアーで吹き飛ばすのがベストでしょう)。 そして、ポリッシュ(磨き)をかけた新しいナットを接着します。瞬間接着剤を塗り、素早く貼り付けます。

ナット弦溝加工

ナットリペアの第5段階(最終段階)は弦溝掘りです。この工程によってもギターの音色は大きく変わります。ナットに弦が触れる面積と角度が非常に微妙なのです。まず、両面テープなどで、新しいナットの横にオリジナルのナットを仮止めし(左下写真)、オリジナルの溝の中央にケガキ線を入れます(右下写真)。

ケガキ線が弾き終わりましたら、いよいよ弦溝を掘るのですが、ギター弦のメーカによって同じゲージでも弦の太さが異なります。右下写真はいくつかのメーカーの弦の箱に記入されているゲージと弦の太さの対応表です。

仮止めしていたオリジナルのナットをはずし、新しいナット周辺にマスキングテープを貼ります(傷防止のためです)。そして、ナットリペアで最も音色に影響を与える弦溝掘りを行います。ある程度、掘った時点で弦を緩めに張り、ギターの音色を聞きながら少しずつ弦との接触面積・接触角度を変えながら掘っていきます。絶対にしては行けないこと・・・それは掘りすぎないことです。その理由はおわかりですよね。

いよいよ新しいナットの完成です。