ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

K.Yairi YW-1000

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K.Yairi YW-1000
大阪府にお住まいのA.F.さんからK.Yairi YW-1000のリペアご依頼をいただき、フレット交換、ブリッジプレート・リペアを含むトータル・リペアを行いました。このギターは以前にリペアさせていただいたもので、今回で2回目のリペアとなります。A.F.さん、いつもありがとうございます!
リペア後のギターをお引き取りにお越しになったA.F.さんから、とても温かいメッセージが届きました。

樋口様

YW-1000でお世話になりました。A.F.です。
昨日は朝早くからご対応ありがとうございました。

早速しばらく手に取りプレイして感じたことは、
綺麗な状態で弾きやすく、気持ちよい音色で戻ってきたということです。

高校時代からのもう40年近くの相棒となるこのギターですが、これからも使い込んで弾きこんでいきたいと考えてます。
そう考えた場合に、弾きたくなる外観・弾きやすさ・音色すべてが自分にとって、そう思わせるものであって欲しい...と今回リペアをお願いしました。

傷は補修いただいたことで、まるでベアクローのような味となり、弦周りのチューニングにより弾きやすさの向上とともに、音色がいつまでも弾いていたい感じに変わりました。

単音ではよりブライトな感じな音色でありながら、ストローク時に、余分な音の成分が強調されることなくコード感がまとまったような気がします。
リペア前は特にストローク時に、余分な音があるような気がしてましたので、まさしく私の求めているような音色になりました。
今回はナット・サドルが牛骨材での対応とのことでしたが、そのあたりが影響しているのか、「弾き語りがメインです」と伝えただけなのに、私にとって心地よい音色になったことがとてもうれしく思います。

高校時代、Martinに憧れてそのレプリカモデルという動機で購入したギターです。
Martinを購入することなく、購入金額以上に維持費に関して考えることもなくはないんですが(笑)
こうして戻ってくると、やっぱりよかったと思えるのです。
若かりし日上手くなりたいと必死に練習し、仲間たちと一緒に弾き語りしたYW-1000は、自分だけにしかわからない価値があるようです。

10年以上前にリペアいただいた、ナット・サドル・フレットを再度樋口さんに交換いただきましたが、ウェブサイトの前回のリペアファイルを見ますとギターに随分と傷が増えたなぁと...その歴史にとても感慨深いです。

これから使っていく中で、また相談申し上げるかもしれませんが、その際はよろしくお願いします。
この度は大変ありがとうございました。

A.F.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

今回、久しぶりにA.F.さんのYW-1000と再会させていただいて、その表情、音色などをとても懐かしく思い出しました。
使用感がにじみ出た状態に変身していましたが、「かけがえのない愛されるギター」のオーラがあふれていました。
やっぱりギターは弾かれて成熟していくんだと言うことを改めて感じた次第です。

すり減ったフレットを交換し、劣化したナット、サドルを交換し、リペアが完了したYW-1000を試奏させていただいたときは、適正な弦高、ビンテージ・チューンがかかった音色を堪能させていただきました。
これからもリフレッシュしたYW-1000がA.F.さんの傍らで素敵な音色を奏でてくれることをお祈りしております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

11.タングニッパでタング部をカットします。
12.タング部処理を終えたフレット端です。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
16.ハンドルを回してフレットをプレスします。

17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
18.2つ目のジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


29.整形されたフレット端です。
30.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。

ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.ローズウッド材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

埋木用プラグを切り出している様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.アクリル板を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。

ピックアップ交換

1.オリジナル・ピックアップがブリッジプレートに取り付けられています。1,2弦と5弦のエンドポールが干渉しているのでコンタクト部分が小さいものと交換します。
2.交換する新しいピックアップはPure Miniです。

3.コンタクトを取り付けました。
4.弦を張って動作確認も行いました。エンドポールとの干渉もなくなりました。

トップ板塗装タッチアップ

1.リペア前のトップ板下部分です。
2.いくつかの打痕跡とそれによる塗装剥がれが見られます。

3.木部分の経年変色は対応できませんが、クリアトップを再現します。
4.多めにクリアを盛りました、。

5.クリア乾燥後に盛り上がった部分をスクレイパーで削り取っていきます。
6.水研磨を行います。

7.タッチアップ後です。
8.スムーズな表面になりました。