ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson J-50

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埼玉県にお住まいのM.O.さんからMartin D-35Kalamazoo KG-11GUILD F30、Gibson J-50のリペアご依頼をいただきました。Gibson J-50はフレット交換、ブリッジプレート・リペアなどを含むトータル・リペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、M.O.さんからとても温かいメッセージが届きました。
また後日、Martin D-76、S.Yairi YD-303、Chaki W-60Rのリペアご依頼もいただきました。M.O.さん、本当にいつもありがとうございます。

ギター工房オデッセイ
樋口様

お世話になってます。
埼玉のM.O.です。

ご連絡遅くなりました。
Gibson J-50, GUILD F-30, Kalamazoo KG-11を予定よりもずいぶんと早く、3本同時に送っていただきありがとうございました。
新弦の鳴りが少し落ちついたところで、少し時間をかけて弾いてみました。
以下、それぞれの感想です。

◆Gibson J-50(1953)
音の伸びとボリュームは、チューニングを始めてすぐに、凄いと感じました。
もともと、音質も音のボリュームも満足していたのですが、それをはるかに超えていました。
リフレッシュされたギター全体から出た音は、とても気持ちのいい響とボリュームです。
気になっていた2弦の音も、ほかの弦の音とのバランスもよくなっていました。
心なしか弦の張が柔らかく感じます。
ハイフレットのセーハも単音も弾きやすく、弦高も自分にはちょうど良いと感じてます。

◆GUILD F-30(1958)
劇的に変わりましたね。
オデッセイさんにお願いする前のこのギターは、メイプルの特長は出てはいるものの、鳴りがサウンドホール部分で弦鳴りしていた少し残念なギターでした。
フルリフレッシュで、こんなにも変わるんですね。
いや~、ギター全体で鳴ってます。
キレも響きもいい。
この000サイズのシャローボディーで、これだけ音量がアップして豊かになるとは。ニヤニヤがとまりません。
もしかして、弦幅も微妙に変わってませんか?
指板のかけも丁寧に修理していただき、感謝です。

◆Kalamazoo KG-11(1937)
このギターを何とか弾きやすくしていただきたくて、リペアーと調整をおねがいするのが一番の目的でした。
フルージーなラダーブレーシングの響が好きで購入したんですが、弦高が高く弦の張もかたいときている上にフレットが低くてとても弾きづらいのが、難点でした。
フルリフレッシュのおかげで、まったく別物のように弾きやすくなって戻ってきました。感激です。
これこそネックリセットをした恩恵を十分に受けたものになりました。高音のリバーブがすごいんですよ。こんなにも魅力的なギターになるなんて思いもしなかった。
ありがとうございました。

普段の日はあまり弾くことができないんで、休みの日になると、どれも長い時間弾いたくて、正直、困ってしまうという贅沢な悩みの真っ最中です。
弦を張り替えてしばらくしてからの方が、ギターそれぞれの個性がよりハッキリと感じ取れるようになりました。

M.O.さん、とても暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア前のギターを受け取って試奏させていただきましたが、いずれもこもりがちの音色に加えて弦高が非常に高く、演奏にストレスを感じる状態でした。
ただ、ビンテージギター特有の音の響きが見られましたので、リペア後のギターが大きく改善されることを期待しながら作業を進めさせていただきました。

最初に蘇ったのはGibson J-50でした。
このギターの一番のリペアポイントはボディ内の状態改善でした。
経年による接着剤の劣化が顕著で、1カ所を接着補強すると他の部分が浮いてくる状況でしたので、弦周りのリペアを進める際もかなり慎重に進める必要がありました。
リペア後はバリバリのJ-50サウンドを響かせてくれるようになりました。

次に蘇ったのがGUILD F30でした。
このギターのリペアポイントはバック・バインディングの修復でした。
当初、バインディング材はすぐに入手できると考えていたのですが、いざ探してみるとなかなか見つからず、白、黒、白3枚のバインディング材を接着するという方法で修復を行いました。
ネックリセットの効果も得られ、ボディとネックが一体になって凄まじい箱鳴りギターに変身しました。

最後に蘇ったのはKalamazoo KG-11でした。
以前にも同型のギターリペアをさせていただきましたので、リペア後のギターをイメージすることは比較的容易だったのですが、なんといっても経年期間が長く、工程が進む中で想定外の事態が何回か発生して、その都度最適な手立てを検討し実施させていただき、リペア後はギター全体から音が響き出る状態になりました。
ネックリセットの効果で弦高も低下して、フィンガーピッキングに最適なギターになったと思います。

ギターをご返却する前の夜、3本のギターを心ゆくまで試奏させていただきました。
各々のギターがそれぞれの個性を精一杯発揮している、そんな状態にすることが出来た満足感と、このような貴重なギター達をリペアさせていただく機会を与えていただいたことに心から感謝の気持ちでいっぱいになりました。 リペア後のギターにご満足いただけて、私もとても嬉しい気持ちでいっぱいです。

追加でリペアご依頼いただいている3本のギターもできる限り潜在能力を発揮できるように復活させていただきます。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、引き続きよろしくお願いいたします。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

11.第一のフレットプレス・ジグです。
12.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

13.ジグをサウンドホールから入れていきます。
14.ハンドルを回してフレットをプレスします。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
16.2つ目のジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

25.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
26.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


27.整形されたフレット端です。
28.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

29.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
30.ボディもアクリル板でカバーしました。

31.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
32.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

33.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
34.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

35.さらにスチールウールで研磨を進めます。
36.最後はコンパウンドで磨き上げます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。

ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

埋木用プラグを切り出している様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.アクリル板を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて外します。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.リペア前のサドルです。
2.以前にリペアされた跡があり、ブリッジに接着されています。

3.サドル溝加工ジグを装着してサドルを切削除去します。
4.切削溝を彫り込みました。

5.サドルを取り除いていきます。
6.サドル除去完了です。

7.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
8.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

9.サドル山位置を書き写していきます。
10.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

11.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
12.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

13.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
14.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

15.サドル高の切り出しを終えました。
16.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

17.サドルピーク位置を削りだしていきます。
18.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

19.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
20.ブリッジピン穴加工を終えました。

21.ロングサドル・エッジスロープの加工を行います。
22.半丸ヤスリでスロープを粗く削り取ります。

23.ブリッジ面をマスキングテープで保護します。
24.粗削りを行ったサドルを取り付けました。

25.ミニルーターに円錐ビットを取り付けて少しずつブリッジ面に合うようサドルスロープを低くしていきます。
26.ルーター加工を終えたところです。マスキングテープを少しこするところで止めました。

ロングサドル端整形の様子です。


27.スロープ加工後のエッジです。
28.ブリッジ面とほとんどツライチになっています。

29.サドルを取り付けました。
30.完成したブリッジとサドルです。

ブレイシング浮きリペア

1.サウンドホールからボディ内を覗いています。
2.向かって右側下から2番目のブレイシングです。

3.向かって左側の上から2番目です。
4.左側の上から3番目です。

5.左側一番下です。バックボード全体にブレイシング浮きが見られます。
6.マスキングテープで保護した後、タイトボンドを乗せてナイフで隙間にボンドを流し込んでいきます。

7.ジャッキで固定します。
8.同じ要領でブレイシングを固定していきます。

9.向かって左側、下部分です。
10.ジャッキで固定します。

11.右側も同じように接着補強します。
12.このまま固着を待ちましょう。