ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-42 Peter Frampton's Camel

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Martin D-42 Peter Frampton's Camel
福井県にお住まいのG.N.さんからMartin D-42 Peter Frampton's Camelのリペアご依頼をいただき、ネックリセット、ブリッジ脱着などを含むトータル・リペアを行いました。G.N.さんからは以前Martin D-35のリペアご依頼をいただいており、今回で2本目のリペアご依頼となります。G.N.さん、ありがとうございます。
リペア後のギターをお引き取りにお越しになり、ご帰宅後G.N.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ 樋口 様

先日は私のギターをリペアして頂き誠に有難うございました。

引取りに行き工房で簡単に試奏して、クリアな音に感激しました。

帰郷した夜は、40年前高校時代バンドを組んでいた仲間と再結成したバンドの練習日でしたので、早速セッションを行いました。

リペアに出す前、ギターの音をスマホに録画をしてあり、リペア後の音を再度録画し聞き比べをしてみました。D42は高音がクリアで大変気に入っていましたが、リペア後の音は高音と低音が全体にバランス良く出ていることがはっきり分かります。
リペア前はこれで十分満足していたのですが、結局低音の鳴りが出ていなかったのですね。リペア後のギターは素人の私でも分かる程、素晴らしい音を奏でてくれます。

樋口様のホームページで作業の様子を動画でアップされてるのを拝見しました。
リペアはギターを新しく製作するのとは違い、手間が二倍掛かることが良く分かりました。ネックのリセット一旦外して再接着、フレットの打ち直しは20本取り外しし再度20本取り付けこれで40回ですね。録画を見ると作業の難しさ、丁寧な作業の様子が良く分かり感心しました。

樋口様にリペアをお願いして本当に良かったと思っています。
帰ってからギターケースを開けたところ、ギター工房オデッセイのオリジナルカット入りクロスが入っていました。有難うございます。
これからこのD42と素晴らしい音に負けないよう練習します。

最後にギター工房オデッセイ樋口様の益々のご活躍をご祈念しお礼の挨拶とさせて頂きます。

福井県 G.N.

G.N.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

G.N.さんから最初にギターリペアのご相談を頂戴したのが2009年2月、先回のギターMartin D-35をリペアさせていただいたのが2011年3月、そして今回のギターをリペアさせていただいたのが2017年10月。
こうしてメールのやりとりを振り返ってみると、8年半のおつきあいになります。
とても貴重なご縁をいただき、本当にありがとうございます。

今回リペアさせていただいたギターは新古品状態でしたが、ブリッジやネックなどの重要パーツの接着状態が良くなく比較的大がかりなリペアとなりました。
リペア前後の音色を比較して、これらパーツとボディとの接着状態の重要性を改めて確認することができました。
G.N.さんの仰るとおり、リペア前は高音域が強調された音色でしたが、リペア後は低音域も含めて全音域でのボリューム、サステインが格段に向上しました。

「このギターを一生傍らに置いていたい」というG.N.さんのお言葉通り、本来の潜在能力を発揮できるようになって本当に良かったと思っています。
これからも素晴らしいギターライフを末永く楽しまれてください。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

ネックリセット

1.リペア前のネックヒール部です。
2.光を透かしてみると浮きが大きいことがわかります。

3.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
4.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

5.15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
6.ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


7.ヒーターを当て木でクランプします。
8.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

9.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
10.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

フィンガーボード分離の様子です。


11.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
12.ジグ取り付けが完了しました。

13. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
14.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


15.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
16.ジグを取り外してジョイント部に残った古い接着剤(ニカワ)をクリーニングしましょう。

別角度から見たネック取り外しの様子です。


17.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。
18.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


19.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
20.ヒール部分を削っていきます。

21.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
22.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

23.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
24.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

25.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
26.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

27.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
28.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

29.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
30.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


31.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
32.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

33.さらにネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
34.ネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


35.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
36.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

37.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
38.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


別角度からです。


39.マスキングテープをはがします。
40.このまま固着を待ちましょう。

ネックリセット後の様子です。


41.リセット後のネックヒール部です。
42.ネックとボディの密着度はギター全体からの出音の要です。

43.オリジナル・ヒールキャップを当ててみました。
44.ネック取り付け角度を確保するために約1mmヒールを部削りました。

ブリッジ脱着

1.オリジナルブリッジです。
2.浮きが見られるため、ブリッジを一旦取り外して再接着します。

3.これはラバーヒーターです。
4.当て木と一緒にクランプしました。

5.温度をモニタしながら徐々に温度を上げていき、接着面が緩むのを待ちます。
6.接着面にナイフを挿入していきます。

7.慎重にナイフを進めていきます。
8.ブリッジが外れました。

ブリッジ取り外しの様子です。


別角度からです


9.接着面をクリーニングします。
10.接着準備完了です。

11.接着面周囲をマスキングテープで保護しました。
12.湯煎したニカワを接着面に塗ります。

13.接着面全体に薄く塗っていきます。
14.そっとブリッジを乗せます。

15.クランプしています。
16.クランプで溢れたニカワを拭き取っていきます。

ブリッジ再接合の様子です。


別角度からです。


17.マスキングテープを剥がします。
18.このまま固着を待ちます。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.タングニッパでタング部をカットします。
16.タング部処理を終えたフレット端です。

17.第一のフレットプレス・ジグです。
18.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

19.ジグをサウンドホールから入れていきます。
20.ハンドルを回してフレットをプレスします。

21.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
22.2つ目のジグはこのように固定します。

23.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
24.順にプレスを進めていきます。

25.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
26.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


27.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
28.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

29.カットしたフレット端です。
30.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

31.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
32.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


33.整形されたフレット端です。
34.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

35.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
36.ボディもアクリル板でカバーしました。

37.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
38.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

39.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
40.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

41.さらにスチールウールで研磨を進めます。
42.最後はコンパウンドで磨き上げます。

43.プロテクタ類を外しましょう。
44.ピカピカのフレットになりました。

ナット交換

1.オリジナルナットです。
2.ナット溝が深いので、切削除去を行います。

3.ルーターにジグを取り付けて切削します。
4.少しずつ溝を掘っていきます。

5.ギリギリの深さまで溝を掘り進めました。
6.残りは当て木を当ててコンとたたいて外します。

ナット取り外しの様子です。


7. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
8.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

9.クリーニング完了したナット溝です。
10.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

11.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
12.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

13.1弦側からもナットの密着を確認します。
14.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

15.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
16.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

17.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
18.ナット上部を切り取りました。

19.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
20.ナットらしくなってきました。

21.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
22.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

23.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
24.弦高調整前のナットです。

25.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
26.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

27.ナット高調整前の弦溝です。
28.弦高調整後のナット弦溝です。

29.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
30.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。

バインディング剥がれリペア

1.フィンガーボードバインディングです。
2.経年によるバインディング剥がれが見られます。

3.ネック際にも剥がれが見られます。
4.ネックを取り外している間に剥がれリペアを行います。/figcaption>

5.ネック際です。
6.フィンガーボード、サウンドホール側のバインディングを接着します。

7.こちらは経年収縮が顕著です。
8.隙間が見られます。

9.隙間にバインディング片を埋め込みました。
10.隙間は目立たなくなりました。

ブレイシング剥がれリペア

1.サウンドホールからボディ内を覗いています。
2.バックボード・ブレイシングの一部に浮きが見られます。

3.マスキングテープで保護した後、タイトボンドを乗せてナイフで浮き部分に流し込んでいきます。
4.クランプで固定します。

5.反対側も同様にボンドを流し込みます。
6.このまま固着を待ちましょう。