ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

YAMAHA L-5

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京都府にお住まいのK.K.さんからYAMAHA L-5のリペアご依頼をいただき、ネックリセット、フレット交換を含むトータル・リペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、K.K.さんからとても温かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ 樋口英之さま

K.K.です。水曜日にギターを受け取りました。

わくわくしながらケースを開けて取り出してみると、30年間、見慣れたギターがすっかり生まれ変わったことを直感しました。

実は、購入当時から、ネック部分にわずかな隙間があったり、弦高が高かったりと、若干の残念さを感じていました。もちろん、初心者が初めて買ったギターなので、他のギターと比べての良しあしが分からず、「どのギターもこんなもんか…」と諦めたのでした。

このギターで、何度も屋外ライブを経験してきましたし、初めてのレコーディングもこのギターでした。

そういうわけで、思い出のつまったギターではありましたが、今回リペアしていただき、正直、買った時以上のクオリティーに仕上がっており、見た目は変わらずとも、弾きやすさ、音色とも、ほとんど別物のギターに生まれ変わったようです。

古ギターに新しい魂を吹き込んでくれたという気持ちです。

ギタリストでもある樋口さんだからこそ、ギタリストの演奏しやすさを追求した見事な仕上がりにできたのだと思います。

リペアの様子を、写真と動画で確認しましたが、細かいところまで匠のこだわりが行き届いた丁寧な作業をしていただいたことに心から感謝しております。

このギターとともに、新しいギターライフをつくっていこうと思います。

今回のリペアをお願いして、本当に正解でした。

他のギターの具合が悪くなったら、またリペアをお願いすると思いますが、よろしくお願いします。

K.K.さん、とても暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

リペア前のギターを受け取り、ギターの状態確認を行った際、オーナー様のギターへの大きな思い入れを感じたと同時にリペア後のギターの勇姿を思い描くことができました。

リペア中はその姿を頭に描きながら、作業を進めさせていただいた次第です。
リペア後のギターにご満足いただけて、私もとてもうれしい気持ちでいっぱいです。

また、今回ギターをリペアさせていただきながら新たな発見に多く巡り会うことができ、貴重な機会・経験を与えていただいたことに感謝いたします。

本来の姿を取り戻したL-5が、これからもK.K.さんに弾かれながら素晴らしい音色を奏でていくことを心から祈っております。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

ネックリセット

1.リペア前の状態です。
2.フィンガーボードがボディから浮き上がっています。

3.ネックヒール部分も一部浮き上がっています。
4.一旦ネックを取り外して再接着します。

5.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
6.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

7.15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
8.15フレット下部分までフィンガーボードは浮いているので、引き続いてネックの取り外しを行いましょう。

アクセスホールを空けている様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.ジグを取り外してジョイント部に残った古い接着剤(ニカワ)をクリーニングしましょう。

別角度から見たネック取り外しの様子です。


15.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。
16.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.さらにネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


別角度からです。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。

ネックリセット後の様子です。


39.ボディとネックの接合の様子です。
40.ほぼ完全に密着しています。ギター全体から奏でられる音色が楽しみです。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
16.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

17.タングニッパでタング部をカットします。
18.タング部処理を終えたフレット端です。

19.ジグをサウンドホールから入れていきます。
20.ハンドルを回してフレットをプレスします。

21.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
22.2つ目のジグはこのように固定します。

23.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
24.順にプレスを進めていきます。

25.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
26.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


27.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
28.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

29.カットしたフレット端です。
30.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

31.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
32.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


33.整形されたフレット端です。
34.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

35.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
36.ボディもアクリル板でカバーしました。

37.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
38.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

39.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
40.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

41.さらにスチールウールで研磨を進めます。
42.最後はコンパウンドで磨き上げます。

43.プロテクタ類を外しましょう。
44.ピカピカのフレットになりました。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。