ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Kawase Master

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愛知県にお住まいのK.N.さんからKawase MasterとGibson B-25のリペアご依頼をいただきました。Kawase Masterはフレット交換、ブリッジプレート・リペアなどを含むトータル・リペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、K.N.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

オデッセイ 樋口 様

この度はKAWASEマスターとGibsonB-25をリペア戴きありがとうございました。

KAWASEマスターは高校の入学祝に母が買ってくれた大切なギターで、約40年私と同居しています。
トップ板の割れ、弦のビビリ音などがあり樋口様にリペアを依頼し見積書を拝見して、正直高額かな?と思いました。
しかし購入してから一度も楽器屋で点検したことがなく、車でも一年点検や車検があるし、これまでお疲れ様の気持ちも込めてリペアを依頼いたしました。

リペア後の皆さんの感想どおり蘇るというより、新たな命を吹き込まれたギターとなっていました。
トップ割れが2箇所とは気づかなかったし、オリジナルフレットは台形幅広タイプでしたが、カマボコ型になりコードも押さえ易くスラーも滑らかです。

ナットもタスク製で作成され弦ビビリもなし。私は絶対音感が無いのでチューナーを付けて確認したところ、すべての弦すべてのフレットで完璧に音が合っていました。
だから開放でも、どのフレットにカポをしてもくるいなく、コードを鳴らすと共鳴というのか倍音というのかKAWASEマスターが喜んでいる音でした。
サイトのリペア過程にはありませんでしたが、金属製ペグのつまみが錆びで汚れていたのも、磨かれていてピカピカになっていました。

憧れのGibsonB-25は昨年購入。
1968年製の割には良い状態でしたが、プロにトータルチェックしてもらいたくリペア依頼しました。アジャスタブルサドルがスロットタイプとなり、ピッチ調製もKAWASEマスター同様に完璧で、とても弾きやすくなりました。

経年による枯れたボディー部材全体が、味わいのある音で鳴り響くようになりました。
また、ピックガードのはがれは気づかなかったので張りなおしてもらえて良かったです。
ただ、ギブソンのビンテージの音を望む方はパーツなど全てオリジナル状態でのリペアを選ぶと思います。
そういう点ではオールドB-25ですが音は異なっていると思います。
でも私はリペア後のB-25に大変満足しています。

オデッセイのサイトで樋口さんによる詳細なリペア過程がアップされています。
これは作業以外のプラスαであり手間もかかるし、そして仕事に自信がなければできないことだと思います。
依頼者にしてみれば我が愛器の修理過程が見れられることは貴重な記録だと思います。
戻ってきたKAWASEマスター・GibsonB-25を弾いて、樋口様にリペア依頼して正解だったと実感している今日この頃です。

御礼の便りが遅くなりましたことご容赦ください。
               敬具  2017.5.7 K・N

K.N.さん、とても暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

今回、リペアご依頼いただいた2本のギターはいずれも経年が進んでおりましたが、ネックを含むギターボディの構造体には大きな問題はありませんでした。
ただ、KAWASE Masterのトップ板クラックとGibson B-25のピックガード浮きはギター発音に影響を与えるため、追加リペアをさせていただいた次第です。

リペア前は両ギターともとても寂しい音色で、演奏性にも問題がありましたが、リペア後は潜在能力をすべて出し切るかのような素晴らしい音色と演奏性を持つギターに変身しました。
リペア後のギターにご満足いただけて、私もとてもうれしい気持ちでいっぱいです。

これからもK.N.さんの傍らでギターたちが活躍しつづけ、素晴らしい音色を奏で続けることをお祈りしております。
すてきなギターライフをお送りください。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

11.タングニッパでタング部をカットします。
12.タング部処理を終えたフレット端です。

13.第一のフレットプレス・ジグです。
14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
16.ハンドルを回してフレットをプレスします。

17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
18.2つ目のジグはこのように固定します。

19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
20.順にプレスを進めていきます。

21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

25.カットしたフレット端です。
26.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
28.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


29.整形されたフレット端です。
30.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
32.ボディもアクリル板でカバーしました。

33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
38.最後はコンパウンドで磨き上げます。

39.プロテクタ類を外しましょう。
40.ピカピカのフレットになりました。

ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
2.ローズウッド材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。

埋木用プラグを切り出している様子です。


3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。

5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
6.切り出し終えたプラグたちです。

7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。

9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。

11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。

13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。

15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。

17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
18.アクリル板を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。

19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。

21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.ナットはすでに外れていました。

3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.ロングサドル・エッジスロープの加工を行います。
16.半丸ヤスリでスロープを粗く削り取ります。

17.ブリッジ面をマスキングテープで保護します。
18.粗削りを行ったサドルを取り付けました。

19.ミニルーターに円錐ビットを取り付けて少しずつブリッジ面に合うようサドルスロープを低くしていきます。
20.ルーター加工を終えたところです。マスキングテープを少しこするところで止めました。

ロングサドル端整形の様子です。


21.スロープ加工後のエッジです。
22.ブリッジ面とほとんどツライチになっています。

23.サドルを取り付けました。
24.完成したブリッジとサドルです。

トップ板割れリペア

1.トップ板です。
2.2カ所にクラックが見られます。

3.パッチ材をワイヤーで接着しましょう。
4.クラック部にパッチ材を取り付けました。

5.3カ所をパッチ材で固定しました。
6.トップ板外側はジグでワイヤーを固定します。

7.もう一カ所のクラックです。
8.こちらもワイヤーで固定しました。

9.固着されたクラック部分です。
10.パッチ材が強度補完を行っています。